神の創りし迷宮 迷宮 3
「いいなー。ファーンはいつもお兄ちゃんと一緒で」
野営の片付けをしながら、ミルが呟く。
「まあ、しょうがないわよ。見回りにミルが行っても邪魔になるでしょ?」
リラが組み立て式ベッドを片付けながら言う。
「リラは行かないの?」
ミルがリラの方を見る。
「私は、ほら。男の人苦手だがら、冒険者の男の人が多いと緊張しちゃうし・・・・・・」
強面の男や、大柄の男に対して、ちょっとした恐怖感を持ってしまう為、野営地に来たときから、リラはちょっと落ち着かなかった。
「・・・・・・そっかぁ。じゃあ、あたしが一緒にいてあげるから大丈夫だよ!!」
ミルが明るく言うので、リラも微笑む。しかし、すぐにミルが、またしょんぼりする。
「でも、ファーンはいいなぁ~。お兄ちゃんにいっぱい誉められてたもんね」
それは、デナンに向かう道中の事だった。誕生日のファーンを祝うのに、本人の希望で、仲間たちに誉めて貰ったのだ。
思い出して、リラがため息を付く。
「カシム君って、本当に天然よね・・・・・・。あれはプロポーズの言葉にしか聞こえなかったわよね」
「それそれ!!!お兄ちゃんはあーゆー事平気で言っちゃうんだよね!!あたしも誕生日には、お兄ちゃんに誉めて貰う事を要求しよ!!」
すると、またリラがため息を付く。
「ミルは良いわよ。誕生日が近いから。私は1年近く先になるんだから・・・・・・」
「・・・・・・ああ。そっか・・・・・・」
2人で、しばらく、黙々と撤収作業をする。
すると突然、ミルが提案する。
「じゃあ、ステイタス更新でレベルアップに応じて誉めて貰おうよ!!」
リラが吹き出す。
「なにそれ?!」
「んんん~~~~。だって、そうでもしないと、あんな感じに誉めてくれないよ~~~」
リラは頷きつつも、多分、カシムはファーンにだから、あんなに真っ直ぐな言葉で思いを伝えたのだろうと思う。本人は、ただ誉めただけなのだろうが、あれは愛の言葉だった気がする。
気にしすぎかも知れないが、リラも劣等感には
片付けが終わった頃、カシムたちがユリーカを伴って帰って来た。
考えてみれば、これでまた一緒に行動する女の人が増えた事になる。リラは複雑な思いをまた抱いてしまう。
「おーい!聞いてくれよ!」
帰るなり、ファーンは可笑しそうに話し出す。
「カシムの奴、ユリーカに対してぞんざいだと思ってたけど、胸のサイズで女の扱いが変わる最低男だったんだよ!!」
「バ、バカ!!だから違うって言ってるだろ!!」
カシムが必死に弁解しようとする。
「むううう~~~!酷いよ、お兄ちゃん!!」
ミルが抗議する中、リラは心からの笑顔でカシムを出迎えた。
「カシム君。見回りお疲れ様でした」
リラは、胸には多少の自信があったのだ。
◇ ◇
カシムたちは、そのまま昼過ぎまで待機させられた。
緊急離脱魔法用の魔方陣に、20人ほどの冒険者が出現した事で、カシムたちの番号が呼ばれた。
単純な順番だったら、もっと後に呼ばれるはずだから、繰り上がって呼ばれた事になる。
それは辞退者が思ってた以上に多かったからかも知れないし、昨日の受付の男ががんばってくれたからかも知れない。
いずれにせよ、カシムたちは、準備万端で待機していたので、すぐにダンジョンに向かった。
「気を付けろよ」
「無理はするなよ」
入り口を警備するギルド職員の元冒険者たちに見送られて、カシムたちは建物の中に入る。
中に入ると、すぐに地下に続く階段があった。
「リラさん。暗視魔法をお願いします」
カシムの言葉に、ほぼ無声詠唱で「セメテル」という暗視魔法を唱えた。他の支援魔法は、掛けて貰っている。それらの支援魔法は、同行するユリーカも掛けて貰っていた。
階段はしばらく一直線に伸びていた。カシムが想像していたよりも、最初の下りが長かった。
そして、2分ほど降りると、ようやく地下1階の通路に出た。
「なんか、ダンジョンって久しぶりだぜ」
ファーンが呟く。
カシムたちパーティーでは、ダンジョン経験者はファーンだけだった。
通路は暗視魔法がなくても少し先までは見通せる程度の明かりを、壁全体が放っている。ただ、暗視魔法があった方が、影による死角が出来にくい。
通路は広く、幅は15メートルほどあり、天井までも4メートルはあるだろう。
階段を降りた先は、左に曲がっている。まずは一本道である。
カシムを先頭に歩き始めたが、そのカシムが、落ち着かな気に、キョロキョロとしきりに周囲を見まわしている。
「なんだ?どうした?」
すぐ後ろを歩くファーンが尋ねる。すると、カシムが手で停止を命じる。
ミルも、リラも、ハッと身構えるが、周囲には敵の気配は無い。
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