神の創りし迷宮  迷宮 2

 俺たちは、取り敢えずギルド支部を出て、仮設食堂に向かう。

 食事をしながら、みんなで地図を眺める。

 俺はそんな中、ちょっと考え事をしていた。

 普通に考えると、地獄の蓋ってのは、開いたら閉じないそうだ。だから、創世竜や、グラーダ国が必死になっている訳だ。だが、今回は創世竜は動かないだろう。動くならとっくに動いているだろうからな。

 となると、動いているのは・・・・・・。アクシスだな。

 アクシスがその力を使って、地獄の蓋を閉じる準備を整えているに違いない。その邪魔になるのが、ダンジョンコアと言う事か。多分、ダンジョンの「時間の巻き戻り」という性質が、アクシスの力に何らかの影響を与えてしまうと言う事かもしれない?

 わからない・・・・・・。

 わからないが、アクシスががんばるなら、俺もがんばらなきゃいけない。そう言う事だ。





 翌朝早くに、荷物や、冒険者たちと共に、何台もの馬車が野営キャンプに到着した。それと入れ替わるように、多くの荷馬車と脱落していく冒険者が、デナンを目指す。

 だが、脱落者は明らかに減っている。

 見栄で残っている連中もいるのだろうが、冒険者はそう簡単に諦めることはないのだろう。


「カシムンは酷い人ニャ!!」

 乗合馬車から、ユリーカが飛び出してきて、俺に噛みつく。

「悪い悪い。別にわざと置いて行った訳じゃ無いんだよ」

 だって、俺たち馬だったんだもん。

「よっす、ユリーカ。無事に来れたんだな?」

 ファーンが軽く挨拶する。

「そりゃあ来ますよ、ファーファ!」

 「ファーファ」かよ。

「ミルミルとリランはどこですかニャ?」

 「ミルミル」と「リラン」ね。強い子になりそうに呼ばれているな、ミル。

「ああ。2人は野営の撤収作業中だ。俺たちは昨日の夜に到着したから、周囲の様子を見てなかったもんで、今ちょうど見て回ってたところだよ」

 俺が答える。

「それならちょっとは教えられますニャ!」

 ユリーカが得意そうに言う。

「ダンジョン入り口はわかりますね?」

 俺は厳重な警備がされているところを指さす。

「あれだろ?」

 入り口は、石造りの小さな小屋の様になっている。その脇に、これ見よがしに人型の像が設置されている。このダンジョンを作った神の姿だろうか。

 小屋には扉は無く、幅6メートル程の一面が開け放してある。

「このダンジョンを作ったのは、第四級神バルバロ。第二級神で、伝言の神バロイの息子だそうですニャ」

「バロイって、メッセンジャー魔法の開発者の?」

 ファーンが言う。

「そうですニャ。作られたのはいつかわかりませんが、第一発見者の青ランク冒険者ジェイクは、その仲間を全員失ったそうデスにゃ。迷宮の存在が明るみになったのが5月17日。ギルドの調査隊がダンジョンの中に魔物の存在を認めたのが5月19日ですニャ」

 俺たちは頷く。一応の経緯はエレッサで聞いている。

「そして、緊急クエストが発令されたのが5月20日。実は、ジェイクの報告によると、それまではダンジョンには魔獣はいなかったし、バルバロがダンジョンに放った野獣も、『ウォーラット』と『グレネル』という、小型で、単独行動するものだけだったそうですニャ」

「今は違うのか?」

「そのようですニャ。そこまで強力じゃありませんが、そこそこ厄介な魔獣が発生していて、野獣まで、いつの間にか増えているそうですニャ」

「で、ダンジョンコアは恐らく地下6階よりも深層・・・・・・と」

 魔物がダンジョンコアに何か仕掛けたか・・・・・・。地獄の魔物って、結構器用に色々出来るんだな・・・・・・。黒竜の記憶を通して見た、地獄の第4層の化け物は、知性のかけらも見当たらないような姿をしていたはずだが。


「あれは何だ?」

 ファーンが野営キャンプの外に、もう一つ柵があり、地面に溝が掘られて、その上を石灰で線を引いて模様を描いているところを指さす。

 直径で多分50メートル程の広さの円だ。

「あれは、緊急離脱魔法の出口として設置されていますニャ」

「それって、結構高位の魔法だよな?」

 噂には聞いた事がある。ダンジョン限定だが、出口を設定しておくことで発動できる魔法で、その魔法を唱えると、一瞬で地上に戻る事が出来るそうだ。

 ただし、ちゃんと出口を設定しておかなければ、発動しない。

「確か、レベル8以上の魔法ですニャ。今回は、高レベル魔法使いが多数参加していますから、充分活用できるように、汎用型の出口の魔方陣を設置しているそうですニャ」

「詳しいな・・・・・・」

 俺は素直にユリーカに感心する。

「情報収集は、記者として当然ですニャ!!」

 誉められて嬉しそうにしっぽを振るユリーカ。喜んでしっぽを振るのはイヌじゃなかったっけ?まあ、これも「ケモ耳萌」の一種かもしれないので、敢えて墓穴は掘らないでおこう。

 俺って世情に疎いのかな?友達いなかったし、そう言うこと話す機会なんて皆無だったな。


「カシムンはまだ待機ニャ?」

「いや~~。ユリーカを待っていたんだよ」

 俺は軽く嘘をつく。

「カ、カシムン、いい人ニャ!!」

 ユリーカがまん丸の目をウルウルさせて言う。

「ああ。嘘。待機中だ」

 さっさと白状する。

「カシムン!!!」

 ユリーカはからかうと面白いな。

「おお~~~」

 ファーンが変な声を出して俺を見る。

「どうした?」

「いやな。お前が女の人に、そんな態度取るのが珍しと思ってな・・・・・・」

 ん?そうか?・・・・・・いや。そうかも。ユリーカ相手には、特に緊張もしないな。

「あれか。やっぱりこれか?」

 ファーンがいやらしい手つきで「パイドン」する。

「ええ~~。カシムンって、胸の大きさで女性の扱いが変わるんですかニャ?!」

「最低だな」

「最低ニャ」

 ちょっと待て!無茶苦茶なこと言うなよ!!

 ・・・・・・だが、そう言われると、ちょっと腑に落ちるのが情けない。

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