神の創りし迷宮  猫耳記者登場! 4

 宿の部屋に戻って、俺は少し考える。

 魔物の事や、ダンジョンの事。恐ろしいとは思うが、ダンジョン探索となると、冒険者にとっての「華」である。不謹慎ながら楽しみでもある。

 それに、白金ランクや金、銀ランクの冒険者も沢山いるなら、魔物の掃討作戦も、それ程大変じゃないか、あるいはダンジョンに着いたときには終わっているかも知れない。

 だから、今回はそんなに心配はしていない。

「なあ、みんな」

 俺が思い思いに過ごしている仲間たちに声を掛ける。

「な~に?」

 ミルがすぐに返事をすると、駈け寄ってきて、簡素なソファーに座っている俺の隣に飛び乗る。

「今回の緊急クエストが終わったらさ。ステイタス鑑定しようか?」

「おお!いいね!お前らに散々笑われた念写のやり直しをしねーとな!!」

「そうですね。エリューネと一緒になってから、私もステイタスの変化が気になります」

 リラさんは、とんでもない精霊魔法を使った事があるもんな。レベルアップは間違いない。

「あたしも、最初に取った時のままだから、更新してみたい!!」

 みんな乗り気だ。俺もビビってないで、ちゃんとレベルやら数値と向き合って、その上で足りないところを補うように、または得意を伸ばすように修行しなければいけない。

 もっと、もっと強くならないといけないはずだ。

 あと、仲間に、特にファーンに置いてかれる事になりそうなのが一番怖い。何だよ「潜在性SS」って。

「私も、念写はミルみたいに気合い入れなきゃ!!」

 リラさんがミルに対抗意識を燃やす。

「じゃあ、更新できたら、またみんなで見せ合おーーー!!」

 ミルが嬉しそうにはしゃぐ。

「おう!今度はオレもバッチリ気合い入れるぜ!!」

 張り切る方向性が違うが、そうなると、俺もステイタス鑑定が楽しみになってきた。






 翌朝、集合時間前に、すでにユリーカが待ち合わせ場所に待っていた。

「お待ちしていましたニャー!!さあ、みなさん!張り切ってダンジョンに向かいましょうニャーーー!って、馬?!」

「そうだよー。言ってなかったっけ?」

 俺は1人ずっこけるユリーカをしれーっと見て答える。

 ユリーカは徒歩だ。

「じゃあ、行こうか」

 そう言って、リラさんを背に馬を進めようとすると、ユリーカが怒鳴る。

「カシムンは鬼ニャーーー!!」

 まあ、悪ふざけが過ぎたな。

「ちょっと待ってるニャ!!馬なり、ラクダなり探して来るニャ!!」

 ユリーカが肩を怒らせて、どこかに歩いて行った。


「フフフ。ちょっと可愛そうでしたね」

 リラさんがフワリと笑う。


 それと、今日は俺は胸当てを外している。リラさんが度々俺の胸当てにおでこをぶつけたと言うので、そうしてみたが、これは素晴らしいな。うん。実に素晴らしい。なんで今まで胸当てなんか着けていたのだろうかと、ここ数日の自分を呪いたくなるほどだ。

 言っておくが、俺の提案じゃ無い。リラさんからの提案で、胸当てを外したんだぞ。

 フフフ。最高だぁ~~。


 得も言われぬムニュムニュ感に、夢見心地になっていると、げっそりした表情でユリーカが帰ってくる。

「み、みニャさん。一足先に野営キャンプに行ってて下さいニャ。アタシはこの後出る乗り合い馬車で向かいますニャ」

 馬もラクダも出払っているようだな。ユリーカは、冒険者や、物資を運ぶ馬車に乗ってキャンプに行く事になったようだ。

「絶対にアタシが行くまで、ダンジョンに入らないでくださいよーーーーー!ですニャ!!」

 俺は軽く手を挙げて、実に機嫌良く、ダンジョンに向かって馬を進めていった。






 馬を歩かせてダンジョンに向かい、昼を過ぎた辺りで、正面から砂煙が上がっているのが見えた。

 集団が移動していると起こる現象だ。と、すると、ダンジョンの方から大勢の人やら馬車やらがやってくるのだろう。


 しばらくすると、人の姿が見えてきた。やはり、人や馬車、荷馬車が一列になってやってくる。

 やがて、その一団とすれ違う事になったが、俺たちは驚く。

 割と元気な冒険者たちもいるが、暗く、元気の無い者や、荷馬車の荷台に寝そべっている冒険者もいて、そうした元気の無い冒険者は、防具が破損していたり、服に血がついていたりする上に、荷馬車で寝ている冒険者は部位欠損している。

 一応治療は受けているようだが、酷い怪我だと、取り敢えず止血して、大きな街に行かなければ回復できないだろう。


「おーい!あんたら!!」

 1人の冒険者が、俺たちに馬を寄せてきて、並んで歩く。

「どうしたんですか?これは?」

 俺がその冒険者に尋ねると、その冒険者は苦々しい表情をした。

「あんたらは黒ランクのようだが、黒ランクだったら、ダンジョンに行く事はお勧めしないぜ」

 その冒険者は、俺たちに忠告しに来てくれたようだ。俺も、ファーンも、胸当ての目立つところに、黒ランクを示すプレートを打ち付けている。

「こいつらの半分はダンジョン待機組だ。ダンジョン入りを諦めて帰る連中さ。で、残り半分は脱落組だ。魔物たちにこっぴどくやられた連中だ。仲間を失った奴も少なくない」

 俺たちは息を飲む。

「そんなに酷い状況ですか?」

「酷いね。俺も中に入ったが、想像以上に魔物って奴は厄介だった。命からがら逃げてきたって状況さ」

 その冒険者は、半分熔けかかった自分の武器を見せてくれた。

「魔物の数は多いですか?」

 俺が訊くと、男は肩をすくめる。

「わからねぇ。俺たちは地下6階まで進めなかった。1匹は何とか倒したけど、次に遭った奴にやられちまった」

 俺は仲間たちと顔を見合わせる。

 男がリラさんや、ミルの姿を見て顔をしかめる。

「悪い事は言わねぇ。あんたらも引き返した方がいいぞ」

 男は親切心から言ってくれている。特に小さい子ども(と言ったらミルには怒られそうだが)を連れた冒険者のパーティーだし、まあ、はっきり言って見た目からもわかる通り、弱そうなパーティーだ。

 俺だって今の話しを聞くと、分不相応だと、はっきりわかる。だが、そのダンジョンでは、大切な仲間が待っている。俺たちが駆けつける事を信じて、1人戦っているであろう仲間だ。

 行かない訳にはいかない。

「ありがとうございます。でも、仲間が待ってるんです」

 俺がそう言うと、男は俺の目をジッと見つめる。

「そうか。仲間がいるなら、放ってはおけないか・・・・・・」

 そして、ため息を付くと、「気を付けろよ」と言う。俺は男に頷き返す。

「野営キャンプでしっかり情報を得てから、慎重に進め!」

 そう言ってから、ミルに笑顔を向けて手を振ってから、男は列に戻っていった。

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