神の創りし迷宮  猫耳記者登場! 3

「驚きましたニャ。みニャさん、本当にレベル低いですニャ?!」

 ユリーカがため息を付く。さあ、ガッカリしてくれ。ちゃんと失望しておいてくれ。後で文句言われても俺は責任持てないからな。

 だが、ユリーカは目をキラキラさせて俺たちを見る。

「にもかかわらず、数々の偉業!活躍!これは何か秘密があると見ましたニャ!!密着しがいがありますニャーー!!」

 拳を握ってメガネを光らせる。

 ああ。面倒くさそうな予感がする。


「なあ、ところでさ」

 ファーンがユリーカを見て、ちょっと呆れた感じに尋ねる。

 誰もツッコまないからスルーしてきたが、俺も部分獣化とか、語尾の「ニャ」とか気になってたんだ。

 流石に「ニャー、ニャー」聞き過ぎて、うんざりしてきたところだった。ファーンが聞いてくれると有り難い。

「あんた、苗字『パイドン』なのに、ちっともパイドンじゃないんだな?」

 その事か!!??ジェスチャーで「パイドン」表現するな!お前、確か女だったよな?!

「それなら心配無用ですニャ。『パイ』は『ドン』と置き忘れて来ただけですニャ。必要になったら装着しますのニャ」

 ユリーカが笑いながら答えると、ファーンも笑う。

「残念だったな、カシム!忘れて来ちゃったんだって!」

 余計な事をファーンが言いやがる・・・・・・。

 ミルが「ム~~~」と、自分の胸を見下ろしてる。

 リラさんは何故か機嫌良さそうに微笑んでいる。怒ってはなさそうだ。馬に一緒に乗って仲良くなったからかな・・・・・・。


 ああ、もう~~~。仕方が無いから俺が訊くか。

「ユリーカ。その語尾の『ニャ』とか何なんだ?あとなんでわざわざ部分獣化してるんだ?」

 俺が諦めて尋ねる。すると、ユリーカが思いっきり呆れたような表情で俺を見る。「何で、この人こんな事聞くんだろう?」と言った感じだ。

「カシムン!わかってニャいニャー!!『萌』って奴に決まってるじゃニャいですか!!!」

 ええ?

「そ、その『萌』ってなんだ?」

 ついでにさっきから気になる「カシムン」も・・・・・・。

 そう尋ねたが、見ると仲間たちも「ええ?」と俺の発言に驚いた顔をする。

「お兄ちゃん、知らないの?」

 ミルが心配そうに俺を見る。

「あれだろ?『ケモミミ萌』な。はやってんモンな!」

 ファーンがケラケラ笑う。

「まあ、確かに獣人国では見ませんが、都市部では、割と部分獣化してる人、結構いますよ」

 リラさんまで苦笑気味に俺を見る。

 マジでか?全く気付かなかった・・・・・・。あ、いや。でも街道とかで部分獣化している人いるな~って、ちょっと前から思ってはいたっけ・・・・・・。あれは何か必要があってしてるのかと思ってた。

「いや。ち、違う。知ってるさ。ただ、せっかくの『ケモミミ』なのに、何で帽子被ってるのかと・・・・・・」

 俺の苦しい言い訳は、やはり通用しなかった。



 


 そんなこんなで、ユリーカの密着取材を受ける事となった。代わりに緊急クエスト関連の情報を提供して貰った。

 

 まず、この町にいる冒険者たちだが、彼らは黒ランクに満たないランクの冒険者で、緊急クエストには参加できないが、何かしらのおこぼれが無いかと集まって来ているそうだ。ただの野次馬も多い。

 それから、黒ランク以上の冒険者たちは、すでに3日前に迷宮に出発しているそうだ。

 その数、約5000。

「そんなにいるのか・・・・・・」

 俺は驚くと同時に、悔しい気持ちになる。

 もし、それだけの数の半分でもエレッサの町の防衛戦に来てくれていたら、戦死者はもっと減らせたはずだ。セルッカだって死なずにすんだかも知れない。

 ミルと、リラさんも思い詰めた表情をしていた。同じ事を考えてしまったのだろう。

 俺は、手を伸ばして、リラさんの背中を、長い髪越しにさする。

 リラさんが、俺の行動に驚いて、俺を見る。ちょっと照れくさかったが、リラさんが切なそうな表情ながら、微笑み返してくれた。セルッカの事で、実はずっとリラさんが苦しんでいたのは知っている。

 城でバルタ国大使に「いずれバルタに行く」と約束したのも、バルタを通って、リラさんの故郷のエッシャ国に行くのが狙いだ。

 リラさんには言っていないが、故郷で、リラさんが魔法指導の許可を得れば、獣人国に行ったときに、セルッカが覚えたがっていた「ヒル除け」の魔法を、エレッサの魔法使いたちに教えてあげる事が出来るようになる。

 多分、リラさんはそうしたいと願っている事だろう。

 その為にも、まずは生き抜かなければいけない。


 5000もの冒険者が、一度に迷宮には入れないので、迷宮前に野営キャンプを設置して、討伐組と待機組に別れて、負傷者が出たら、救援、交代する体勢を取っているそうだ。

 

 迷宮の地下5階までの地図は、最初の発見者が精密な物を作っていたので、迷宮に入る冒険者全員に配布されるそうだ。

 そして、地下5階からは、その発見者の情報のみで、天然系の空間になっていて、ダンジョンのように明かりは無い。その為に、装備には必ずランタンや松明などの証明道具か、魔法が必要となるだろう。

 まあ、天然系だったら、白竜山で経験している。


 また、予定としては地下5階の広間をセーフポイントとして確保して、そこを拠点として地下6階以降に挑む事になるそうだ。予定通りなら、今頃は地下5階のセーフポイントも出来ているだろうから、地下6階以降の探索も進んでいるだろう。

 ランダも、もう地下6階の探索をしているだろうか?1人で無理してないと良いが・・・・・・。


 ダンジョンからは魔物は出て来ておらず、ダンジョン周囲も、グラーダ軍によって、厳重に包囲されている。ダンジョンに向かう時に、その包囲網を見る事が出来そうだ。


 さらに、参加している冒険者として、あの「黄金騎士」のいる、全員が白金ランクの冒険者パーティー「アカツキ」がいるらしい。これはテンションが上がる。

 また、冒険者ながら、暴力や恐喝などの黒い噂が絶えない「悪鬼ザン・クラウディオ」率いる「黒猫(イビルキャッツと人は呼ぶ)」のパーティーと、その傘下も来ているそうだ。あまり近付きたくない感じだな。

 他にも名だたる冒険者が参加しているそうだが、残念ながら「歌う旅団」は来ていないそうだ。これから来るかも知れないから、期待はしておこう。生ピフィネシアさんに会ってみたい。


 他にも細々こまごまと情報を得たところで、明日の出発時間をユリーカに伝えて別れた。

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