神の創りし迷宮  猫耳記者登場! 1

 只今、リラは上機嫌だった。

 ペンダートン邸で、メイドのベアトリスと話してから、リラも自分の殻を破るべく、不慣れ、不向きを自覚しつつも努力を始めていた。あざとかろうが、自分もがんばらないと、ミルにも、ファーンにも、お城のお姫様にも、どんどん水を開けられてしまう。

 そもそも、カシムは女性に興味がなさ過ぎる気がする。ファーンと仲良くしていたのだって、結局ファーンの事を男だと思っていたからだし・・・・・・。

 「そっち系」かと疑う事もあったけど、マイネーとはぶつかり合っていたから、そんな事はないと思いたい。


 もしそうだとしても、これだけ女性が多いパーティーなら、積極的にアピールをして「女の子に興味を持たせなきゃ」と、意味不明な使命感も感じていた。


「カシム君」

「はい?何ですか?」

 リラは、無意識の内に、カシムの名前を口に出していた。機嫌が良くて油断した。

「あ?はい?あのですね・・・・・・」

 リラは何か話さなければと、頭を働かせる。

「そ、その。あの2人、乗馬、上手くなりましたね」


 今はリラはカシムの背に掴まって、一緒の馬に乗っている。「ミルは上達早いと思っていたけど、ファーンも中々覚えが早いですね。あれかな?探究者だからかな?ハハハ」

 カシムが笑う。リラは誤魔化せた事にホッと息を吐き出す。


 デナンの町に向かうのに、馬で急いでも4日はかかる。

 だから、その間に、せっかくだからと、ミルとファーンにも乗馬を教える事にした。

 最初はおっかなびっくりだったし、一緒に乗っていて、ハラハラもしたが、2人ともすぐに馬を乗りこなせるようになる。

 今はミルが手綱を握って、その後ろにファーンが乗って、試しに走らせたりして楽しんでいる。

 乗馬を覚えるように提案したのはリラである。

 全ては今の状況を作り出さんが為である。お姫様気分を、いつもミルばかりが味わっているので、羨ましく思っていた。

 今は良い気分である。


 城では、カシムと一緒にダンスも出来た。そして、今は馬の後ろに乗せて貰っている。せっかくだから、時々揺れに合わせてギュッと抱きついたりしてみる。ものすごくドキドキするが、逞しい背中を感じる事が出来て幸せだ。

 これで、カシムが胸当てを装備していなければ言う事無いのだが。抱きついても、感触がゴツッ!とした感じなのだ。おでこをゴインとぶつける事もあるので、あまり調子には乗れない。

 ともあれ、このペアは、デナンの町まで継続する予定である。だから、リラは上機嫌なのだ。

 あとは、ここで楽しくおしゃべりが出来るようにがんばろう。




◇     ◇




 乗馬の練習をしたりしていたので、俺たちがデナンの町に到着したのは、6月4日の夕方になってからだった。

 デナン到着の少し前に、スコールに降られて、ビショビショになってしまった。とにかく宿を求めたいが、デナンの町は今、大賑わいだ。沢山の冒険者がいて、それを目当てに、商品を満載にした商人の馬車が所狭しと露天を開いている。

 宿などどこも満室で取れやしない。

 

 何件か回って、ようやく一つだけ部屋があった。普通の安宿なのに、値段が黒竜島の温泉宿ほどの値上がりっぷりだった。おかげでギリギリ泊まる事が出来た。

 俺たちお大尽で良かったよ。

 厩に馬を預けて、前金で支払う。明日には、迷宮前の宿営地に行く訳なので、今日だけの宿だ。


 まず、俺がチャチャッと着替える。装備は後で身に付けるとして、急いで体を拭いて、新しい服を着る。乾かすのは後にする。

 着替えると、タオルと装備を持って廊下に出る。

 それから女性陣がゆっくり着替えている間に、俺は装備を拭いたり、手入れをしてから装着していく。

 こういうときにミスリル装備はいいなぁ。濡れても平気だし、すぐ乾く。もう少し強くなったら、胸当てもミスリルにしたいなぁ~。フフフフ。

「おい。なにニヤニヤしてんだよ?!」

 着替え終わったファーンに、妙なところを見られてしまった。コイツ、レベル低いくせに、旅慣れてるから支度がいつも異常に早いんだよな。

「いや・・・・・・ミスリル装備の良さを、ちょっとな」

 恥ずかしいので、モゴモゴ言うが、ファーンは破顔する。

「それな!!!すっげーな!!ミスリル最高!!」

 ファーンのアームガードも、おそろいで我が家からミスリル製の物を頂いてきた。ファーンが喜んでくれて良かった、良かった。コイツには色々負債があったから、多少なりとも返せただろうか?俺の財布は傷んでないが・・・・・・。

「お待たせしました」

 俺とファーンが小躍りしていたら、リラさんとミルも着替え終わって部屋から出て来た。

「お兄ちゃんの服も干しておいたよ」

 ミルが手を出すので、装備を拭いたタオルを渡すと、サーーッと干しに行ってくれた。

「ありがと、ミル」

 礼を言うと、ミルがニコニコする。

「じゃあ、メシにするか」

 俺が提案すると、みんな頷く。



 宿屋の食堂は、ごった返していた。何とか1テーブル確保すると、忙しそうにしている店員に食事を頼む。あまりにも人が多くて、材料が限られてしまっているため、ある物で適当に作るとの事なので、任せて、取り敢えずノンアルコールの飲み物を頼んだ。

 こりゃ、デナンの町は、この緊急クエストの間に1年分は儲けそうだな。


 飲み物は、薄いレモン水が出た。水多めだな。

 その後、食事が運ばれてきたが、パスタ系が3つにパン。それとスープだった。

 これは必死で物資を仕入れないといけない状況なんだな。

「ファーン。俺たちの荷物の食料に、余裕あるか?」

 確認する。この町では仕入れは厳しそうだ。

「あるぜ。この前に立ち寄った町でバッチリ仕入れている」

「ナイスだ!」

「仕入れはリラだよ」

「ナイスです、リラさん」

 リラさんが「フフフ」と笑う。流石、しっかりしているなぁ。

「食べたら、ちょっと情報を集めないといけないな」

 俺がそう言った時、不意に声を掛けられる。

「情報ならアタシにお任せニャ~!!!」

 

 俺たちは声のした方を振り向く。

 するとそこには、クリクリの目をして、茶色い髪を一本のお下げにして後ろで結び、茶色い帽子にめがね、ベストに膝までのズボンを穿いた、少年の様な雰囲気を持つ女の子だった。年としては、恐らく俺よりは年上だろ。

 そして、目を引くのが、獣人なのだろう、ネコの耳と、しっぽが生えている。部分獣化している。

 ちょっとわざとらしいほどニコニコして俺たちを見ている。

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