神の創りし迷宮 異界 4
グラーダ三世が通されたのは、この城の謁見の間とも言うべき広間で、奥に玉座があり、魔神王の配下がずらりと整列している。しかし、よく見れば、慌てて体裁を整えたようで、装備が間に合わない魔神もいたり、息を切らして駆けつけたばかりと言った魔神もいる。
さらに、玉座に腰掛けて、優雅に座っているように見えるサタンも、今日は
サタンは勢力こそ最大ではあるが、武力では武闘派のルシフェルには及ばず、数や見た目、体裁を大事にする。
魔神王サタンも、その配下たちも、恐ろしい相手ではあるが、グラーダ三世からすれば、どれも下らぬと思えてしまう。
ルシフェルと会う方が、グラーダ三世もよほど緊張感を持ち、慎重に行動するという物だが、魔界では、このサタンに話しを通すのが合理的なのと、それが魔界の「
「突然の訪城の無礼をお詫び致します」
形ばかりは丁寧にグラーダ三世が挨拶をする。
無論膝を付かず、立ったままの礼である。
「構わぬ。そちと
サタンが甲高い声で鷹揚に返事をする。
「して、何用じゃ?」
穏やかにそう言いながら、サタンがグラーダ三世に圧力を掛けてくる。神も魔神も、人間と違い、魔法の詠唱など無く、単純に力を使ってくる。力の強さも、初動も人間とは桁違いである。それ故に神も魔神も人間より遥かに高位な種族と言えた。
だが、それならば、グラーダ三世も同様である。神や魔神より、遥かに貯蔵しているエネルギー量は多い。
常人であれば、一瞬で小さな肉団子にされそうなサタンの圧力にも、小揺るぎもしないですましている。
「お戯(たわむ)れを続けますかな?」
グラーダ三世が目に力を込めてサタンを見る。すると、サタンは圧力を消し去り、手をヒラヒラと振る。
「そうじゃ。戯れじゃ。いちいち気にするな」
その戯れに、殺意が籠もっている事は誰でもわかる。「あわよくば」という事なのだろう。
「さて、それでは用件を伝えさせて頂きましょう」
グラーダ三世が話し出す。
「先日ですが、天界の神が、神魔条約で取り決められた条約を破り、禁忌地域に迷宮を作りました事を、まず報告致しましょう」
「ほう・・・・・・」
サタンは、少し愉快そうに玉座から身を乗り出す。
「それ故に、地獄の魔物が地上に出現しました。その事を重く見た私が、先刻、天界に赴き、12神に条約の徹底と、禁を犯した神の処分を陳情して参りました」
「ふむ。それで、その神はどうなった?」
サタンがクスクスと愉快そうに笑う。
「アポロン神が言うには『処分した』との事です」
「ふうむ。『処分』ねぇ」
呟くサタンが、玉座の肘掛けを指でトントンと叩く。
「そちはそれを信じるのか?」
サタンの問いかけに、グラーダ三世は肩をすくめて「無論です」と答える。
だが、グラーダ三世は、元より神の言う事を、特にあのアポロンの言う事を信じてなどいない。
だから、地母神カーデラに、暗に処分の履行を頼んだのだ。カーデラは傲慢だが、少なくともグラーダ三世を欺こうとはしないだろう。
「つまらぬな。実につまらぬ」
「つまらなくて結構です。何らかの処分は下される事でしょうから」
グラーダ三世はサタンの言葉にいちいち取り合ったりはしない。余計な反応を示せば、魔神に隙を見せる事になる。
「その様な事があったので、一応陛下にご報告と、今一度、条約の徹底を確認して頂ければと、こうして参上した次第でございます。火急の事ゆえに、突然訪城せざるを得ませんでした。ご無礼をご容赦下さい」
言葉のみ丁寧にグラーダ三世が告げる。
「あいわかった。用件は終いか?」
サタンが鷹揚に答える。
「地獄の勢力が、何やら
グラーダ三世がそう言うと、諸侯と呼ばれる魔神たちが一様に色めき立つ。広間を殺気が埋め尽くす。
「闘神王は心配性だのう。
そう言うと、ヒラヒラと手を振って、グラーダ三世の退出を促す。
グラーダ三世が「地獄勢力に気を付けろ」と、わざわざサタンに行ったのは、もちろん「聖魔大戦で地獄勢力に与するなよ」と脅しを掛けたのであり、魔神たちも充分その意味がわかっている。だが、サタンは言葉通り受け取った振りをする事で、一触即発を避けたのだ。
グラーダ三世は、一礼すると、再びアドラを先導に退室していった。
「闘神王。今はまだ、無理をなさらぬ方が良いのではないですかな?」
階段を昇りながら、アドラが小声で囁く。
「無理、か?」
「無理でございましょうが?私は、今の時代にあなたは必要だと考えているのですよ?」
アドラの言葉に、グラーダ三世は、一瞬足を止める。そして、アドラの後ろ姿をジッと見つめる。
「はてさて。私を見るより、もう少しご自分を眺めて下さい」
アドラの言葉に、グラーダ三世が苦笑する。
「言いおる」
そして、アドラに見送られて、グラーダ三世はスレイプニルに騎乗し、再び魔界の入り口に向かう。
魔界の入り口で、スレイプニルを降りると、先刻脅しつけた魔神がスレイプニルを回収しに駈け寄ってきた。
「スマンな。礼を言う」
そう言い置くと、さっさとリル・グラーディアに通じる扉をくぐり、地上界のグラーダ国王城の地下3階に戻った。
すでに深夜となっていた。
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