神の創りし迷宮 異界 3
「ふ~。キモを冷やしたわい」
戦の神アレスがため息を付く。それに苦笑するゼウスは、アレスの息子だが、アレスより遥かに年上に見える。
「父上。仮にも戦神ですから、もう少し肝を据えなされ」
「そうは言うがゼウスよ。ゲヘナが一瞬であの様よ」
とてつもない硬度を誇る神石の分厚い床に、頭を突き刺した火の神ゲヘナは、未だにピクリとも動かない。
「座興としては、多少は
アポロンがけだるげなあくびをする。
「では、バルバロの件は、まあ、適当に処分しておいてくれ」
そう言うや、ふらりと立ち上がると、さっさと退室していってしまう。
その後ろ姿を見送りながら、カーデラがため息を付く。
「闘神王と戦えば、負けはしないでしょうが、この中の何人かは命を落とす事になるでしょう。ゲヘナのような軽率は控えた方が互いの為でしょう」
「わたくしは、事を構えるなんて嫌ですわ」
水の神ウテナがおどおどしながら言う。
「それはワシも同じじゃ」
酒の神バッカスも唸る。
「それで・・・・・・バルバロって、誰?」
美の神ヴィーナスが尋ねると、半数の神が頭をひねる。
今度ため息を付いたのは、愛の神メロアだ。
「バルバロは、禁を犯して、危険地域に迷宮を作った愚かな第四級神です」
「四級神?!」
雷の神トールが鼻で笑う。
「それじゃあ、処分は俺がやろう。そいつどこにいる?」
そう言うと、立ち上がる。
「天界の自宅に逃げ込んでます。伝言の神バロイの自宅ですね」
風の神ヘルメスがあっさりと告げ口する。
「トールよ。どう処分するかは任せますが、闘神王がこれ以上激怒しないようにして下さいよ」
アレスがトールに懇願する。
「わかってるよ。俺だって命は惜しい。奴と戦うのは得策じゃねぇし、どうせ俺は、先陣切っちまうだろうから、死ぬ確率高いからな」
トールが笑うと、さっさと退室していく。
「では、禁止区域の周知は、メロアと、ヴィーナスが主導で行って下さい」
カーデラが命じると、神々の会議は終了した。
◇ ◇
天界から帰ると、グラーダ三世は、すぐに隣の魔界に通じる扉のある部屋に向かう。
こっちの部屋も、部屋の中央に黒い扉がぽつんと立っている。
ギルバートは王の帰還を待っているほど暇では無い。警備の兵に見守られながら、グラーダ三世は魔界への扉をくぐって行った。
魔界も、扉をくぐると、天界とほぼ同じシステムの広場に出る。ただし、こちらは美しい庭園では無く、わかりやすいくらいに、おどろおどろしい岩と、立ち枯れた木が散在する空間だった。
そして、出入国の管理をする建物も、同じようにあるが、デザインが、これもまたわかりやすいくらい不気味に作られている。
こうした恐怖や不安を煽ろうとする、魔界の住人の安っぽい感覚に、グラーダ三世は馬鹿馬鹿しいと思う感情を隠しきれない。
こんな
天界には、12神に招集をかけて、準備が出来た連絡が来たので赴いたが、魔界へは、誰の許可も得ずに訪れた。
グラーダ三世は建物まで行くと、人間を見て、からかおうとした低級魔神を掴み上げると、鋭い眼光で睨みながら低い声で脅す。
「スレイプニルを用意せよ」
低級魔神は、すぐにそれが闘神王だと悟るや、半べそを掻きながら叫ぶ。
「承知しました!すぐに用意させて貰います!!」
グラーダ三世から解放された魔神は、慌てて厩舎に向かうと、足8本あり、宙を駆ける魔獣「スレイプニル」を引いてくる。無論鞍も手綱も付けてある。
「お待たせいたしました!」
ヘコヘコと頭を下げる魔神だが、人間のレベルで言うと、恐らく50は越えていると思われる強さを持っている。
天界でも、魔界でも、これ程の傍若無人が出来るのは闘神王グラーダ三世だからである。
グラーダ三世は、無言でスレイプニルの手綱を受け取ると、サッとまたがり、腹に一蹴り入れると、あっという間に空に駆け出す。
スレイプニルは、魔界で一番足の速い騎獣である。天界同様に果てのある魔界なら、たいした時間をかけずに目的地に着ける。幸い、グラーダ三世の目的地は、そう遠くは無い魔界の城である。
時間にして、約1時間程度で目的地の城に着く。これ見よがしに、崖の上に立つ高層の魔城である。
その城の、屋上に勝手にスレイプニルを降ろして降り立つ。無論、侵入を許すまいと、魔神たちが騎獣に乗って迎撃に来ていたが、10人ほど、まとめてたたき落としたら、相手が闘神王であると悟った魔神たちが、遠巻きに包囲するのみとなった。
「スマンが、俺はここの主に会いに来ただけだ!引っ込むが良い!!」
職務上包囲する魔神たちにそう怒鳴りつけると、そのままズカズカと城の中に向かう。
城に入るドアの前で、グラーダ三世の見知った魔神が出迎えてくる。
「アドラか。ご苦労」
闘神王は横柄な態度を取る。
アドラと呼ばれた魔神は、毒の魔神と恐れられる上位魔神である。この城の主な腹心である。
この城の主は、魔界の七大魔神王の中でも、勢力が最も大きい「サタン」である。
「闘神王。せめて事前に連絡を頂きたく・・・・・・」
アドラは皮肉な笑みを浮かべる。
「スマンな。天界に行ったついでだ」
にべもなく答えるグラーダ三世に、アドラは目を細める。
「『ついで』・・・・・・ですか」
笑みを噛み潰しながら、アドラが呟く。
「結構です。では、主の元にご案内しましょう」
そう言うと、アドラは城内に向かう。グラーダ三世は、その後に従う。
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