神の創り死迷宮  異界 2

「ただいま参りました」

 グラーダ三世は、うやうやしい態度を取って、こっちに注目をしている神々に頭を下げる。

「此度は、我が招集に答え、お集まりいただき、ご足労痛み入ります」

 言葉こそ丁寧だが、グラーダ三世の目には、怒気が籠もり、12の神々を睨みつけていた。


 テーブルに座す12の神は、天界の最高位である第一級神の面々である。

 中央には、筆頭である太陽神アポロン。1月を司る神である。若く、美しく、炎のような髪と赤い目をして、けだるげにグラーダ三世を見ている。

 

 その隣には2月を司る地母神カーデラ。豊かな胸をした美女で、厚ぼったい唇をした神だ。緑の髪に緑の目をしている。

 太古の神と呼ばれている、古くからいる神である。

 

 3月を司るのは、水の神ウテナ。美しく若い姿をしているが、控えめな態度で、グラーダ三世の怒気に気圧された様に強ばっている。他の一級神に比べて、真面目に人々に恩恵を与えようとするので、人々からの人気がある神である。

 

 4月は戦の神アレスである。近年、第一級神筆頭から降格したゼウスの父で、黒髪の武人風の神だが、ウテナ以上にグラーダ三世に怯えている。


 5月をつかさどる火の神ゲヘナは、近年、欠員により第一級神に昇格した、気の荒い神である。グラーダ三世が睨むのに対して、睨み返して意気が上がっている。

「おう!てめぇ!呼び出しておいて、その態度はなんだ、ゴラァ!!」

 椅子から立ち上がり、テーブルに片足をのせて吠える。

「やんのか?!ああん!!?」

 今にも飛びかかって行きそうである。

「まあ、落ち着け、若いの」

 隣に座る7月を司る老人の姿をしている土の神ゾスがなだめる。収穫、凄惨、工芸を司る神で、水の神ウテナ同様、第一級神にしては真面目な神で、太古の神の1人である。


 火の神ゲヘナの幼い態度にため息をつくのは、6月を司る美の神ヴィーナスである。美しい女神なので、天界でも地上でも人気の神だが、かなりのナルシストで、身勝手な神である。薄紫がかった銀色の髪と、金の右目、群青の左目を持っている。


 グラーダ三世の様子をニヤニヤ見ているのは、8月を司る風の髪ヘルメスだ。このヘルメスは何代目かで、以前のヘルメスは、以前の火の神と同時期に姿をくらまし、欠員になった為、繰り上がりで昇格した少年の様な見た目の神である。


 この欠員の理由が、目の前の人間、グラーダ三世による神殺しなのではとの噂があるので、興味津々なようだ。


 そして、9月の雷の神トール。筆頭から降格して10月を司る事となった知の神ゼウス。土の神同様に、太古の神の1人と言われている11月を司る愛の神メロア。そして、12月を司る、実はお茶の方が好きな酒の神バッカス。

 

 天界の第一級神12名は、皆、グラーダ三世に注目している。


「火の神ゲヘナよ。我が態度が気に入らないのであれば、素直に詫びよう」

 グラーダ三世が頭を下げると、ひとまずゲヘナは椅子に腰をおろして、ふんぞり返ってグラーダ三世を睨みつける。

 アポロンが何も言おうとしないので、ため息を付くと、ゼウスが口を開く。

「闘神王よ。此度の招集は、一体何事であるか?」

 ゼウスの問に、グラーダ三世は一礼するが、筆頭神アポロンをジッと睨みつけるだけで、話そうとしない。その態度に、またゲヘナが立ち上がりかける。

「あの、闘神王?そんなに睨んでいては恐ろしいですわ」

 ゲヘナが何かを言う前に、ウテナが弱々しい声でグラーダ三世に語りかける。

「あ?!仮にも第一級神が、人間如きにビビってんじゃねぇ!」 

 新参の火の神ゲヘナは鼻息が荒い。同じく火を司るアポロンとの差を埋めようと、意気が上がっているのだ。


 そのアポロンは、けだるそうにグラーダ三世を眺めるばかりである。

 仕方なしに、ため息を付きながら、地母神カーデラが発言する。

「わかっておる。バルバロの事ですね?」

 グラーダ三世が、ようやくアポロンから目を離すと、カーデラを見て頷く。

「神魔条約として、禁止区域内に迷宮を作らぬ事を取り決めておりましたが、バルバロは、その禁を破りましたな?」

 グラーダ三世が言う。

「これは看過できません」

 グラーダ三世の言葉に、火の神ゲヘナが忍耐の限界に達した。全身を炎の塊に変えて、目にもとまらぬ程の速度で飛び出し、渾身の力でグラーダ三世に殴りかかる。

「死ねや、ゴルァーーー!」

 周囲の景色が歪むほどの高温と、衝撃波が生まれるが、神々は各々で障壁を張り、難を逃れる。

 

 ドッゴオオオオオオオオン!!!

 

 凄まじい爆音と衝撃が神殿を襲う。



「いかな対処をされましたか?」

 何事も無かった様に、神々に問うグラーダ三世の足の下には、顔を床に突き刺して気を失っているゲヘナがいる。

 第一級神になりたてのゲヘナとでは格が違う所を見せつける。


「フゥ~~~~」

 けだるげなため息を付くと、アポロンがゆっくり立ち上がると一言告げる。

「処分した」

 グラーダ三世がアポロンを睨みつける。

「処分した・・・・・・とは?」

 アポロンはまたしても同じ言葉を繰り返す。

「処分した」

 ビキッ!!と音がして、床の亀裂が広がる。ゲヘナの頭が、より深く、固い石に埋まる。

「まあまあ、落ち着きなされ。それ以上やられては、神石で出来たこの神殿が保ちませんぞ」

 土の神ゾスが、闘神王をなだめに掛かる。

 すると、グラーダ三世が、ゲヘナの頭から足を話して、ゾスに軽く礼をする。

 グラーダ三世も、太古の神である、カーデラと、ゾスと、メロアに対しては、何故か敬意を払っている。

「では、そう言う事にしておきましょう」

 そう言いつつも、再びアポロンを睨みながら付け加える。

「今後は、禁則事項が破られぬよう、下級神に徹底した周知をお願いいたしますぞ」

 グラーダ三世の眼光を浴びながら、アポロンは、不承不承頷く。

「では、これにて」

 踵を返しかけてから、闘神王がふと思い出したように振り返り、地母神カーデラを見る。

「カーデラ様。今年の豊穣祭では、不手際があった事をお詫び申し上げます」

 グラーダが頭を下げると、緑の髪を揺らして、カーデラが笑う。

「良い良い。地獄教の奴らの事なら聞き及んでおります。代わりの供物も届いておるゆえ、気にするでない」

 その言葉に一礼すると、グラーダ三世は、神殿を後にする。

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