第七巻 神の創りし迷宮

第七巻 神の創りし迷宮  異界 1

 祝宴会の途中で退席した闘神王グラーダ三世は、その足で、王城の地下3階に向かう。王城の最下層である。

「王よ。武装はしないのですか?」

 宰相ギルバートの表情には、緊張の色が滲んでいる。

「構わん」

 グラーダ三世の表情も厳しい。

 

 地下3階には、幾重にも厳重な扉があり、警備も油断無く配置されている。

 この地下3階には、天界に通じる扉と、魔界に通じる扉のある2つの部屋がある。

 

 このエレスには、天界、魔界に通じる扉が、無数に設置されているが、この様に管理されている物もあれば、人知れず設置されている出入り口も存在する。

 王城「リル・グラーディア」にある、地下3階の扉は、天界、魔界との交渉で、設置させた扉である。


「それでは、どちらからいかれますか?」

 ギルバートが問う。

「まずは天界からだ」

 グラーダ三世が奥の2つの部屋の前に立つ。

 ミスリル製の、かなり分厚い扉には、オリハルコン製の鍵が、3つも取り付けられている。

 外で守る衛兵から鍵を受け取ると、グラーダ三世がその鍵を外して、扉を開く。

 鍵は、外からの侵入者を防ぐ目的では無く、中から城内に侵入するのを防ぐ為に付けられていた。


 白い扉を開けると、その中には同じく白い扉だけが、部屋の真ん中に設置されただけの部屋に続く。部屋の中に扉だけが立っているのは、実に奇妙な光景だが、その白い扉が、天界の入り口に通じる扉となっている。

 グラーダ三世は躊躇なく、白い扉を開く。

「では、行ってくる」

「ご武運を」

 ギルバートが見送る中、グラーダ三世は、天界へと出発していった。

 未だ、城の3階では祝宴会の真っ最中である。


 今、この瞬間は、王城のみならず、グラーダ国内が、最も無防備になった瞬間でもあった。


 グラーダ国軍の十二将軍率いる十二軍団の内の五軍団と、一位の率いる大本営一軍が、ダンジョン包囲の任に着いていて、王城を離れている。

 更に南西、南東を守る二軍も、援軍としてダンジョンに向う事は決定している。

 城を守るのは一軍のみ。将軍としては、5人城内にいるが、それでも、王城を防御するには足りない。


 更に、剣聖ジーンは、白竜山に、トリ獣人の部下と共に向かっていて、不在である。

 その上に、グラーダの最大戦力であるグラーダ三世が城を離れたのだ。

 短時間とは言え、グラーダ国は、過去に例の無い程の無防備状態となっていた。

 ギルバートは、そんな事実に、胃が痛む思いをしながら、ため息を漏らすと、静かに扉の前から歩き去った。



 グラーダ三世が、白い扉を抜けると、美しい庭園に出た。広い円形の庭園で、周囲にはずらりと白い扉が取り囲んでいる。ただ、その扉一つ一つに「(どこどこ)行き」と行き先が大きくエレス公用語で書かれている。また、地方毎に分類されてあり、足元には、「グラーダエリア」と書かれた石畳が、横に広く延びており、微妙な色分けがされて、隣の「ザネクエリア」「獣人国エリア」と一目で見分けられるようになっている。

 グラーダエリアには、約20個の扉が設置されている。

 

 円形庭園のある一角は、大きな門になっていて、そこに建物がある。そこが入国、出国審査をする建物となっていた。

 

 グラーダ三世は、天界に訪れるのは1度や2度では無いので、すでに見慣れた景色である。

 大股で受付の建物に足を進める。

 周囲には、地上に行く神が何人もいるが、皆恐らくは3級神以下であり、グラーダ三世の姿を見ると「ひぃ」と小さく叫んで道を開ける。

 建物から慌てて、1人の神が飛び出して、グラーダ三世の元に駈け寄ってくる。

「ああ。闘神王様!連絡は受けております!どうぞ、こちらからお進み下さい!」

 その神が、緊張した様子でグラーダ三世を案内する。

「うむ」

 グラーダ三世は、その神の顔を見る事もなく、ズンズン歩く。

 グラーダ三世が進んだ先には、翼の生えた馬、神獣ペガサス2頭が繋がれた、豪華な美しい馬車が止まっていた。

 大急ぎで先回りした、案内の神が、馬車に乗る台を出して、闘神王が使う為に、地に膝を付いて押さえる。

 グラーダ三世が馬車に乗り込むと、丁寧にドアを閉めると、「では、行ってらっしゃいませ」と告げる。

 馬車の御者が、ペガサスに鞭を入れると、ペガサスは走り出し、馬車を引いたまま空を飛ぶ。

 ペガサスは翼で空を飛び、空を駆ける。馬車は、魔法で宙に浮き、それをペガサスが引く仕組みとなっている。

 ペガサスが空を飛ぶのは、翼が有る為だけでは無く、ペガサス自身も、自分に対して浮遊魔法を使っているのである。推力は、間違いなく翼である。足が動くのは、クセでしかない。



 天界は、全体的にボンヤリとした薄もやや、雲の様な物が取り囲んでいるため、彼方まで眺める事は出来ない。ただ、空は青く、海もある。また、宙に浮いた島に階段や橋が架かっているところもある。

 美しく、それなりに広いが、地上人からすると、閉塞感のような物を感じる。

 実際、広さとしては、恐らくはグラーダ国の面積と対して変わらないのではないかとグラーダ三世は思っている。

 『叩き潰すにちょうど良い大きさ』と表現した事もある。

 

 そのグラーダ三世が、ペガサスの馬車で向かったのは、巨大な神殿だった。

 直系2メートル以上、高さは18メートルほどの巨大な円柱が無数に並び、巨大な一枚岩を切り出した白く美しい天井を支えていた。神たちが好む「パルテノン様式」の建築物だ。

 柱の先には四角い部屋がある。

 グラーダ三世は、馬車を降りると、周囲に目もくれずに建物に向かい、扉の無い入り口から中に入る。


 建物の中は一つだけの広間があり、入り口から見て左右の壁には、何段かの石段が設置されている。

 広間の中央には、半円形のテーブルがあり、入り口に向かう形でそのテーブルの向こうに12人の神が、金と赤で装飾された椅子に座して、グラーダ三世の入室を見守っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る