王城 グラーダ狂王戦争 5
「改めて言う。私からの条件は絶対である。ただし、その条件に関して、どうしたら、我が国のみならず、エレス全土の国々が、より発展して行くかの方法は、この会議の中で、諸君らの意見を聞きながら決定していく物である。それによって、我が条件が不要となるようなら、撤廃も考慮する物である。自国の利益のみを考えずに、このエレス全土の事を、この会議では話していくつもりである事を、ここに宣言する」
こう冒頭の挨拶を述べて、自席に戻りかけて、グラーダ三世は苦笑を浮かべて議事台に戻る。
「ああ。言い忘れていたが、アインザーク国王の指摘についてだ。・・・・・・今回の戦争の名前だが、私が戦争を起こしたのは、こうして世界会議を強行する為であった。なので、便宜的に『世界会議戦争』とでも名付けよう。以上だ」
その後、世界会議は、約一ヶ月の期間を掛けて行われた。
様々な事柄が決められ、調整された。その会議の最中に国王が退位して他国と統合したり、民意があまりにも得られていない国の国王、または代表者が替わったりする事もあった。ペスカ国の様に、グラーダに併呑される道を選ぶ国もあった。
もめにもめたのが、無国地帯の中で、ある程度まとまった勢力が、自国を立てると言いだし、グラーダ国の領土と一度なっていたが、新国家として名乗りだしたのだ。そして、2国が隣り合っていて、その国境が決まらない。
グラーダ三世は、基本的に国境などは歴史的背景なども鑑みながら、オブザーバー的な感じに各国が話し合うのを見ていたが、この2国は、いつまで経っても決まらない。3日を過ぎたあたりで、それまで我慢強く結論を待っていたグラーダ三世が怒る。
「それではこれでどうだ!!!」
そう言うと、地図上に定規を当てて、真っ直ぐな国境線を引いた。
そんな訳で、ダナ国とエパス国の境界は直線なのである。
そもそもが、一度グラーダ国領とされて数年を経ているのに、勝手に独立宣言をし出したのだ。これ以上文句を言っては、すでに頭から怒気を発しているグラーダ三世だ。「面倒になったら地図上から消してしまえ」と、なり兼ねない。
以後、不思議なほどに両国の関係は良好である。
こうして、世界会議では様々な事が決まっていった。
大きな所だけ上げると、次のような事が各国の同意で決まった。
○新たな国境線の整備。国の統合などを含め、国境線を確定させた。
○国境を侵しての他国への侵略戦争を禁止する。つまり、他国との戦争は全面的に禁止される事となった。ただし、グラーダ国は国内の政治には、グラーダ条約に反しなければ口出ししない事。国境線を越えない内戦であれば不問に付す事も言及されている。クーデターが起きたとしても、国境線が変更されない、他国に1ミリでも戦禍が及ばなければ構わないと言う事である。
○単位の統一。長さ、距離、広さ、重さなど。これは数学者と賢聖リザリエが検討を重ねていった結果決まる。単位名はリザリエが決めている。かつて生き別れた青年の発案によるそうだ。
ちなみにだが、それまではグラーダでは長さの単位の1つが「ティグ」で、現在での6.5センチで1ティグとされていた。これは初代国王の人差し指の長さだそうだ。
○通貨の統一。これはカロン国が用いていた通貨をそのまま世界共通通貨とした。質も厳密に統一して、国際機関通貨管理局を設けて、国によって勝手に発行高を上げたり出来ない仕組みも作って、かなり細かく決められた。
○エレス公用語の普及。現在使用している国の言葉を捨てる必要は無いが、母国語と同時にエレス公用語も教育する事が義務付けられた。
これは、将来の聖魔大戦の時に、「言葉が通じなくて作戦が失敗しました」とならなくする事が、目的として隠されていた。
また、この会議の中で、未開の蛮族であるアスパニエサーでは、とっくにエレス公用語が普及していた事に、各国が驚く。
○冒険者ギルドの設立。これにより、「冒険者」と言う職業が誕生する。これは、戦がなくなった事により、兵士が職を失い困らないようにとの配慮から発足したのだが、もちろん真の目的は他にある。軍では育たない異能、異才を引き出し、育て、活用する為の超戦士育成プログラムなのである。
神や魔神との取引も済んでいて、ダンジョンシステム、魔法システムとも、すでにグラーダ国内で実験稼働していた。
これが世界展開する事になるのだ。
グラーダ軍が異常に強かったのも、これら実験の成果とも言えた。
冒険者ギルドは国際機関で、それぞれの政治には左右されないという特性を持たせている。国は維持費を出すだけで、口は出せない。ただし、グラーダ国の特権で、グラーダ国が組織する超法規組織の査察団が誕生する事となる。この査察団はギルドのみではなく、通貨管理局や、その他このグラーダ条約に関するあらゆる事柄を査察する権限を持たされる事となった。
○なので、もう一つの項目に、査察団「ケルベロス」の創設が上げられる。この査察に引っかかれば、グラーダ三世が動く事となる。各国、それだけは避けねばならない事態である。
○世界街道の敷設。基本的には、グラーダ軍が世界戦争の際に進軍した道が世界街道となっているが、これの維持管理は各国の負担で行わなければならないと言う事だ。また、進軍コース以外に、グラーダ国指示で街道を敷設する場合に、その費用はその国で負担する事が上げられた。これは各国不安を持った。「道が必要」と言う名目で、各国の財政を圧迫させる狙いがあったら困るからだった。そこで、必要と認められた街道敷設には、グラーダ三世が直々に整地をする事が約束された。
○グラーダ国による世界会議実施の権限。グラーダ国王が世界会議を招集する権限が与えられる事となる。次に世界会議をする時に、また世界征服されないで済むので、各国にとっての安心材料となったが、不安は、毎年行った時の公的負担だ。かつて、どこかの国では、国を統一させたあと、力ある領主を毎年大行列を作らせて王都に呼び寄せるという、嫌がらせ的政策を打ち出した。これにより、諸侯の経済を圧迫して、中央に反乱を起こす力を削いでいった事例がある。
それを恐れたのだが、その後、一度も世界会議の招集は無いままだった。そして、先日、衝撃的な歴史の真実を知らされた後、始めて世界会議の開催を宣言されたのである。
○グラーダ条約は50年で破棄される。
他にも細かいことが沢山決まっているが、代表的な条約は以上の通りである。
こうして、3941年9月25日。世界会議は、議長ザルフバッハの抑揚のない単調な挨拶で幕を閉じた。
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