王城 グラーダ狂王戦争 3
このままグラーダ軍も北進をして追撃戦を試みようとしたが、その進軍はやや遅いものとなった。
ジェクスリン大将軍は敗軍をまとめあげ、整然と王都を目指す。そして、その途中にある、各地の領主から、兵を集めて、自軍に組み込むと共に、グラーダ軍の侵攻ルートに、幾重にも配置していったのだ。
グレンネックは、領地毎に兵力がある為、最初の40万で全軍ではない。ウォーゲーム観戦を楽しみたかった、一部貴族が寄せ集めた兵力でしかない。
グラーダ軍の快進撃は続くが、その速度は目に見えて遅くなる。
そして、ジェクスリン大将軍が、王都レダンヴィーユの南30キロの地点にある、グレンネック最大の要塞ロデン・ガルバス要塞に到着する。
ジェクスリン自身は、そのまま王都に行き、この状況でも酒池肉林を楽しんでいる国王イーヴァン・ベナード・ゴルダート十一世に直訴し、国王の全権で、国内の戦力をロデン・ガルバス要塞に集結させる様、願い出る。
だが、楽しみを邪魔されたことを起こったゴルダート十一世の怒りを買い、ジェクスリンは獄に繋がれてしまう。
新たに大将軍に任命されたのは、ヤナック・デンゼンという、軍人ではなく、国王が溺愛する少年の父親だった。
およそ戦とは無縁だったデンゼン大将軍は、国王の威を借りて、周辺の貴族たちから兵と財をかき集めた。当然の様に、その財の大部分を個人の懐にしまい込む事となる。
こうして出来たのが、補給の断たれた、孤立した要塞に立てこもる60万の兵であった。
数だけは多いが、補給はほぼ断たれ、次第に迫って来るグラーダ軍の足音に怯える状況だった。
いっそ早く戦になれば、まだ早く楽になれたのかも知れないが、グラーダ軍の進軍速度は、ジェクスリンの策によって遅れている。
至近の距離に、潤沢な食料がある王都がありながら、要塞の兵士たちは、日に日に減っていく食料に不安と不満が溜まっていく。
そんな折、不摂生が祟った、ゴルダート十一世が急死する。後に暗殺も疑われたが、完全に健康上の問題だった事が判明する。ゴルダート十一世は65歳であった。
そして、47歳のゴルダート十二世が、即座に王位に就くと、すぐにジェクスリンを獄から解き、デンゼンを解任し、処刑すると、再びジェクスリンに大将軍の職に復帰させ、急ぎロデン・ガルバス要塞に向かわせる。
だが、時すでに遅く、グラーダ軍が要塞前に姿を現していた。
要塞内の兵は、すでに食料も尽きて餓えていた。とてもではないが戦闘など出来る状態ではなかったのだ。
万策尽きたとジェクスリンは涙する。
ジェクスリンは、要塞の防壁の上に立ち、門の前に単騎で立つグラーダ三世に呼びかけた。
「もはや我が国の命運は尽きた。我が要塞は開放しよう。だが、我が命に賭けて、この要塞の兵士の助命を請う!!そして、願わくば、どのような形となっても良い!我が君の命も助けて欲しい!!」
そう言うと、辛うじて動ける兵士に命令して、要塞の門を開放させる。門の開放を確認すると、ジェクスリンは防壁から飛び降りる。高さ40メートルの大坊壁の上からである。
だが、ジェクスリンは死ななかった。グラーダ三世がジェクスリンの体を受け止めたのだ。そして、「見事」と一言いうと、その背後に軍を引き連れて、粛々と要塞を通り抜けて行った。
通り抜け様に大量の食料が積まれた荷車を1000台置いていった。
そのままグラーダ軍は王都レダンヴィーユに入り、その王城を、ほぼ無血に近い状態で開城させる。
王族は、新王ゴルダート十二世もまとめて、グラーダに捕虜として移送されることとなる。
ジェクスリンは、グラーダ三世に感銘を受けるが、グラーダ国には仕えることはなく、グレンネックの忠臣として名を残し、その後54歳で事故死を遂げている。
こうして西の大国グレンネックを支配下に置いたグラーダ三世は、「狂王」 として、世界中から恐れられるようになった。
グラーダ軍はその後、西側の国を次々に支配していった。戦をした国もあるが、グラーダ軍の接近に恐れを成して降伏した国も多い。
一番の激戦となったのは、北西の小国分立地帯であるトリスタン地方だった。
厳しい山々に囲まれた地方で、いくつもの小国が毎日のように戦争を繰り広げていて、1つの地方であるにもかかわらず、有史以来、統一された事は一度しかない。その統一も、僅か一代で終わっていた。
だが、この小国は、どれを取っても強い戦士ばかりの国だった。
それもそのはず、剣聖ジーンも、このトリスタン地方の出身だったのだ。
そして、小国故に、戦力が纏まっておらず、グラーダ三世による一網打尽の作戦が使えなかった。
そこで、この地方の征服は、ジーンに一任される。
ジーンは1000の兵を率い、それを2つに分けて二部隊による作戦で、次々と小国を征服していった。
だが、この国は、一度降伏しても、簡単に再び隙を見ては再起して反抗してくる。それ故に、平定までには時間を要する。
その間に、グラーダ三世は、他の辺境区を巡り、戦と言うよりは話し合いの末、降伏を引き出していった。
また、この間に、グラーダ三世は、天界、魔界を訪れての話し合い(?)も行っている。これにより、天界では第2級神が2人入れ替わり、魔界の八大魔神王が、七大魔神王になっている。地上の歴史には残らない何かがあったのは確かである。
頑強なトリスタン地方の完全征服には、ジーンでも、2年の歳月を要してしまった。その中で、多くの国王、首領、党首を殺さねばならなくなったが、これはこの地方に根付いた戦士の哲学に寄るものだった。
そして、何とか代表者を選出して、捕虜としてグラーダに移送することとなり、「トリスタン戦役」が集結する。
この地方は、後に「トリスタン連邦」となる。
更に、このトリスタン地方出身の将軍が、幾人かグラーダ国に生まれることとなり、現在の十二将軍の内の2人がそうである。十二将軍最強のラモラックと、その父親ブルーノである。
グラーダ狂王戦争の西大陸制覇は、この「トリスタン戦役」により完成する。
そして、グラーダ軍は一度グラーダに戻ると、そのまま南下し、グラーダと同盟国であるアスパニエサー連合国となった地の間にある、広大な無国地帯の少数部族、または大部族、ならず者集団を一気に殲滅した。そして、その無国地帯を二分割して、グラーダ国とアスパニエサー連合国の国土とする。
次に、その無国地帯以南の国々を制覇し、そのままエルフの大森林を南に大きく迂回して、エルカーサ、カナフカとを撃破していく。
南西の大きな島、クウパトーラ島には4つの国があり、更にその突端には創世竜「赤竜」の棲む島がある。
この島は、アスパニエサーから戦力を供出して貰い、ジーンが攻めた。その際に、不意に現れた赤竜によって、1つの国が滅ぼされてしまい、それによって、残った3つの国は戦意を喪失して、グラーダに降伏した。
カナフカ国を制覇した後は、次々に各国が降伏していった。
そして、エレス暦3942年6月12日。
グラーダ国による大陸制覇、成る。
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