王城  グラーダ狂王戦争 2

 そして3938年、2月15日。グラーダ三世は、全世界に向けて宣戦布告を行う。

 「世界会議戦争」、俗に言う「グラーダ狂王戦争」「狂王騒乱戦争」の幕開けである。



 2月20日。6時。

 グラーダ国は国王グラーダ三世を先頭に、1万2000の軍を従えて、新王都メルスィンを発つ。


 まずは西のオヴァロン山脈を越えた先の隣国、ザネクに向かう。

 「カロン逆侵攻」と同じく、これがグラーダ軍のほぼ全軍である。そして、全軍出撃できる背景にあるのが、アスパニエサー連合国との同盟と、2月15日の宣戦布告翌日、アインザークがグラーダ国との同盟締結を発表した事による。

 これにより、南、東からの侵攻を気にする事無く、グラーダは前戦力を西進に注ぎ込むことが可能となっている。

 内政はキエルアや、官僚たちに任せている。


 本来は、西に進軍するなら、オヴァロン山脈を南に迂回してペスカ国を通らなければいけない。

 しかし、グラーダ軍は、信じられない程の進軍速度で、真っ直ぐ西に進み、そのままオヴァロン山脈に突き当たる。

 北には海も見えているが、切り立った山脈から、海に直結しているため、海面までは険しい崖となっている。また、海は遠浅だが、歩いたり、騎馬で海の中を進軍するのは、不可能ではないが、困難だった。

 

 だが、グラーダ軍の足は止まらない。

 先頭を行くグラーダ三世が、剣を一振りすると、まるで大きなケーキを、職人がナイフで切り分けるかのように、2000メートル級の山々が切り裂かれ、平坦で、かつ、幅が100メートルにもなる道が出来上がったのである。

 揺れも、衝撃もなく切り裂かれた為、切り出された面は、つやつやと輝くほどで、崖崩れはおろか、小石1つ落ちてこない。いずれ工事は必要だろうが、進軍するのに、全く問題は無い。

 何カ所か水がしみ出しているので、後に水脈を調査して、また、グラーダ三世が手を加え、そこを工事する予定である。

 歩兵も騎兵も、一切速度を緩めずに進軍して、国境を越え、ザネク国に侵入していった。



 ザネク国は、グレンネックとカロンに挟まれていたが、ペスカ国のように弱小国ではなかった。独特な地形により、攻めにくい砦をいくつも構えていた。

 だが、グラーダ軍は戦略上はすでに勝利していたのは当然だが、戦術は奇抜で、他では真似出来ない物だった。


 まず、グラーダ三世は親衛隊20騎だけを大本営として、ザネク王都に進軍する。

 その間にジーン率いる2000の騎兵が、各砦を攻め落としていく。

 

 どう攻め落としたのかだが、ジーンが超速移動術「圧蹴」を使って先行し、砦の近くで、全ての気配を消して、他者には存在を認識できなくする隠遁体術である「無我」を使い、敵の砦内に侵入する。そのまま、敵軍の大将を討ち取り、砦を開けて、そこに部下2000がなだれ込んでいくのである。

 どうにも対応のしようが無い侵略方法である。

 ジーンの信じがたいところは、「圧蹴」も「無我」も、「無明」も他にもいくつもある特殊な能力は、実は単なる「体術」でしか無いと言う事である。

 

 そして、リザリエが率いる約1万の軍勢は、北のグレンネックにつながる進軍路の確保と、街道補強を行っていた。

 

 ザネク国が降伏するのに、30日と掛からなかった。王族は、捕虜としてグラーダ国に送られる事となる。


 その間に、政治工作によって、ザネク国の南に位置する弱小国ペスカはグラーダ国に併呑される事となる。


 

 かくして、グラーダ国は、大陸西側への出入り口を手中に収める事となった。


 



 グラーダ軍の進軍は、止まらない。

2月33日。

 グラーダ軍はグレンネックとの国境を越えて、進軍を開始した。

 グレンネックは、ただ大きい国ではなく、世界最強と目される軍事大国だった。



 グレンネックはその歴史が古く、建国者はただの音楽家だった。その事から、古くから音楽や、絵画、芸術の文化が花開いて人々に根付いていた。

 同時に長い戦乱期の名残で、軍事力の保持にも熱心だった。

 絶対王政の中、各領主たちは私兵を持ち、貴族間同士の争いを、戦争遊戯、「ウォーゲーム」として楽しむ文化まであった。

 他国への侵略も度々だったが、ここ数代にわたって、絶対的権力を持つ国王が暗君、つまり無能だった。私欲、愛欲、快楽に溺れ、内政に目を向けず、無論精力的に領土拡大も求めない、貴族たちにとっては不満が募る時代が続いていた。

 その為、ウォーゲームは過激化の一途をたどっていた。


 そんな折に、グラーダとか言う、成り上がりの小国の愚か者として有名な国王が、宣戦布告をして攻め込んで来たのだ。

 狂喜した貴族たちは、暗君を説き伏せて、持てる私兵を結集して、手ぐすねを引いて国境付近の巨大要塞都市、ギスクで待っていた。


 そして、たまたま幸運が続いて、まぐれでザネク国を打ち破った、己の実力を見誤った愚か者は、僅か1万程度の軍を率いて、巨大要塞都市、ギスクに迫ってきた。


 対するグレンネック軍は、集まりも集まったりで、40万。

 しかも国軍の総司令である大将軍「アゼルゼ・ジェクスリン」が指揮をとっている。

 グレンネックの貴族たちは、カロンの貴族とは違い、戦のなんたるかは知っていた。カロンの10万は、指揮をするべき人物が1人ではなかった。様々な所に命令系統があり、ある部隊では軍人が、ある部隊では素人の貴族が指揮を取ると言った具合だった。

 グレンネックは、質も、実も採って、最も勇敢で、戦に強い、国軍の最高責任者に、指揮を一任したのである。

 寄せ集めた貴族たちの私兵も、宣戦布告から一月ひとつき以上の間に、再編され、一個の軍隊として機能できるようになっていた。


 そして、戦鑑賞が娯楽となっている貴族たちは、要塞都市の内部にいて、城壁の上に設けられた、屋根付きの観覧席で戦争を眺めるのだ。


 グラーダ三世にとっては、いかな城壁であろうが無意味ではあるのだが、この貴族の娯楽の為に、平野に布陣して迎え撃つしか方法がなかったジェクスリン大将軍にとっては、不幸だったと言わざるを得ない。


 元々、グレンネックは平野が多い国で、国境付近にも、大平野が広がっていた。

 そこに、40万の兵を並べる。

 無論横陣ではない。

 全軍を4つに分けて、念入りに伏兵も仕込む。

 対するグラーダ軍は、カロンとの戦同様に、鶴翼の陣と言えなくもない布陣をする。

 今回は「敵一兵たりとも逃がさない」という縛りはグラーダ軍にはなかった。


 戦は一方的な展開を見せた。

 グラーダ三世が、単騎で10万以上の敵をなぎ倒していく。左右に展開したジーン、リザリエの軍は、敵をグラーダ三世が、安全に(破壊しすぎない)攻撃出来る距離に追い込めば良いだけである。

 マイネーがエレッサ防衛戦で、やりたくて出来なかった戦法である。

 結果、最初の戦、「ギラン平野の戦い」は、僅か1日で決着が着き、グレンネック軍は14万の兵が討ち死にし、残りは撤退することとなった。撤退先は要塞都市ではなかった。

 何故なら、要塞都市の防壁は、戦闘中にグラーダ三世が振るった一撃で、一部が完全に崩壊していて、もはや要塞としての機能を失っていたからである。

 更にこの一撃は、狙い澄ました一撃で、戦争を見物していた貴族の観覧席を直撃していたので、もはや貴族に気を遣う必要も無く、ジェクスリンは一目散に北の王都目指して撤退して行ったのである。

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