王城  カロン逆侵攻 6

 左翼、右翼の貴族たちが驚きの声を上げるが、再び「徴用兵に告ぐ!!構え~~~~~~~~~~~!!」

 敵本陣の旗が振られる。そして振り降ろされる。

「地に伏せよ!!!!!」

 ガチャ、ガチャ、ガチャ。ズザッ。

 その直後、再び大量の兵士の半身が宙に浮く。


 左翼の貴族が悲鳴を上げる。

「何じゃ!?何が起こっておるのじゃ?!」

「ヒイイイイイイイイ~~~!」

 だが、その叫びも無視して、「徴用兵に告ぐ!!構え~~~~~~!!!」

 敵本陣の旗が振られる。

 慌てて馬上から転がるように降りて、地に伏せる貴族や将校たち。

 振られた旗が、振り降ろされる。

「地に伏せよ!!!」

 ガチャ、ガチャ、ガチャ。ズザッ。

 対応の遅れた、または判断に迷った多くの兵が、自らの半身と、永遠の別れを告げる。


 大地はすっかり、血の海と化していた。

 大量に転がる、きれいに両断された死体の山。その死体に埋まるように、震えながら地に倒れ伏したまま、顔を上げようともしない、生きた人々。

 僅か3回の攻撃で、10万のカロン軍は、何の反応も示す事が出来ないままに、半数以下に数を減じていた。


 旗が大きく振られ始めた。

「徴用兵!!直ちに地に伏せよ!!!そして動くな!!!」 これが、カロン軍内のキエルア派、もしくはグラーダ国の間者である将校からの、最後の命令だった。

 足を止めていた、グラーダ三世が動き始めたのだ。

「蹂躙せよ!!」

 号令をするや、グラーダ三世は騎馬よりも遥かに速く走り、カロン軍に突撃してきた。

 同時に、一度は戦場から離脱したかのように見えた、グラーダ軍の右翼、左翼が完全包囲体制でカロン軍残党を押し包んでくる。

 しかも、グラーダ軍には魔道師が数十人いた。当時の世界常識では有り得ない人数だった。

 しかも、その数十人は、当時までの魔道師には「卑怯で姑息」として、邪道認定されていた、精神系魔法を使いこなせていたのだ。

昏睡、混乱、幻覚、麻痺、思考停止など、様々な精神系魔法攻撃の威力は、ファイヤーボルト100発以上の戦果を見せた。


 グラーダ国では、すでにリザリエが計画を自ら主導して、魔法改革が行われていたのだ。

 鑑定士の実験と訓練により、魔力判定が出来るようになった。第三級神を幾人もグラーダに招き、魔法開発の基礎を行っていた。

 その為、グラーダでは魔法使いが多く育っていたのだ。

 ここに来るまでも10年近くの年月が掛かっている。


 

 戦いは、開始から、僅か1時間を待たずして終わった。

 グラーダ国王の宣言した通り、戦闘ですら無い、一方的な大虐殺だった。

 

 カロン軍10万の内、徴兵されたのは5万。後は正規の軍人や貴族に雇われた私兵、傭兵たち。そして、貴族自身も多くが参加していた。

 投降する事で助かった徴用兵は約4万。内部の協力者は約200人。

 便乗して投降した、正規の兵、傭兵、貴族、将校は5000程。

 ただの1人の逃亡者も出さずに、戦は完全な形でグラーダ軍の勝利となった。

 

 グラーダ軍は、約束を守り、投降した徴用兵と協力者には、後続の処理部隊から、一時金を支払う事となる。

 そして、便乗して投降した者たちは、捕虜となり、後にその全員が処刑される。



 だが、ここでグラーダ軍は、動きを止めなかった。

 グラーダ三世と旗持ちだった親衛隊は、捕虜とした貴族や将校の服をはぎ取り、自ら身に付け、カロンの旗を幾本も持ち、カロンの馬に乗るや。即座に敵国カロンの王都目指して掛けだしていった。

 ジーンの部隊も後続部隊の到着と共に、北西に向かってもの凄い速さで進軍していった。

 更に、リザリエの部隊は2つに分かれて、東に向かって突き進んでいく。

 余談ではあるが、グラーダ三世の駆け上がった道は、現在「進軍街道」と言われ、途中で現在の南北の大街道「メルロー街道」と合流している。

  

 グラーダ国境から、カロン国王都までは、4カ所の要塞やら関所がある。

 グラーダ三世率いる20騎は、その事如くを、簡単にすり抜けていく。

 貴族の服、将校の鎧を身につけ、カロンの旗を持って、王都に駆け戻るのだ。

「戦勝報告だ!!通る!!」と、不機嫌きわまりない態度で怒鳴れば良いのだ。

 カロンの連中は、グラーダに勝つことは当たり前だと思っていた。とすると、この不機嫌そうな下級貴族は、そんな役割を命じられたと考える。王都への連絡係となれば、略奪の旨味を享受出来ない。何の為に戦に出たのか・・・・・・。そういう心情なのは理解できる。

 なので「ご苦労様です」と、しかつめらしく答礼しつつ、内心この哀れな下級貴族を嘲笑っていた。

 そうして、この一行は、簡単に王城に到着し、謁見の間の大広間に通される。

 その謁見の間には、数え切れないほどの貴族たちが集まっていた。明らかに酒に酔っている貴族が多い。


 戦の結果など知れていると、もう勝手に祝勝会を上げていたのだ。ちなみに、この段階で、論功行賞まで済ませていた。つまり、戦に参加していない、大貴族たちが戦功第一とされていたのだ。腐敗も末期を通り越している。


 だが、この祝勝会自体は、グラーダ国の手の内であった。キエルアが暗躍し画策したが、それに乗るカロンはやはり度しがたいほど腐敗していた。


 カロン国国王ジャハザードの前にひれ伏したグラーダ三世は、「報告せよ」と述べる主席魔道顧問官の声に、顔を上げる。

「こちらが、カロン国国王アルシャ・ヤーコブ・ジャハザード陛下である」

 主席魔道顧問官が、あえて目の前の小太りした男がカロン国の王である事を保障する。

 次の瞬間、その小男の首が飛んでいた。

 周囲の誰もが、何が起こったかを理解する前に、全ての扉が閉ざされた。

 そして、カロン国主席魔道顧問官のキエルアが「ひれ伏すが良い!!」と言うや、謁見の間に集まっていた大貴族たちが、全員力なく床に倒れ込む。精神系魔法である。

 

 転がるカロン国の王だった者の首をひっつかみ、玉座の後ろから現れた大男は、玉座に尚座る、ジャハザードの体を、乱暴に蹴って、玉座を空ける。

 その男はバハラム・カムラン。カロン国の将軍だが、真面目で熱血漢。その為、融通が利かず、不正を憎んでいた。

 そんな人間は、才能があってもこの国では疎まれる。その結果、王城警備に回された将軍である。

 王城警備は要職ではあるが、王城にいると、賄賂も着服も、大貴族たちが独占する為、旨味が全くない地位である。なり手がない職に回される事となった。

 バハラムは、元より賄賂も受け取る気は無いし、着服するつもりもない。単なる武人である。

 だが、王都にいれば、そう言った醜い部分をうんざりするほど見てきて、不満が溜まっていたし、この国の有り様に不信感を抱いていた。

 そこをキエルアに買われ、武者修行中、カロンに逗留していたグラーダ三世に面会したのだ。そこで、グラーダ三世に心酔して、今回の計画に際して、その部下全員が、王城を占拠する為に動いているのだ。


「どうぞ、我が王」

 バハラムが、グラーダ三世に玉座を薦め、膝を折る。

 グラーダ三世は、玉座に歩み寄ると、無造作に玉座をたたき壊す。

「こんな腐った物はいらん」

 そう一言吐いて捨てる。

「はっはっはっ!正にその通りですな」

 バハラムが愉快そうに笑う。

「それよりも、処刑者は1人も逃がさないようにしてあるな?」

 グラーダ三世がバハラムに言う。

「もちろんであります。ここにいる連中の他にも、同様に数カ所に集めて監禁してあります」

 グラーダ三世が頷く。

「では、相応しいゴミ溜めにまとめておけ」

「はは!!」

 バハラムが深々と頭を下げる。

 このバハラムは、現在のグラーダ国十二将軍の1人、黒獅子騎士団を率いる将軍である。

「それから、キエルア。カロンの国民の生活を保障してやれ。餓えさせるな」

 グラーダの言葉に、キエルアが頷く。

カロン国では、一部の富裕層以外の民は、日々食べるものにも困るような状況で、すでに王都以外の地域での餓死者も出ている。王都に住む人々も、餓えて、ゴミをあさって食べている状況も見られている。

「民を救う為の手はずは整っております。王のご命令を以て執り行います」

 しかし、グラーダ三世は「フッ」と笑う。

「それは許可せぬ。お前の独断で積極的に行え。俺は命令は下さぬ。今はな」

「しかし・・・・・・それでは?」

 キエルアは戸惑う。本来は、ここで、新たな支配者であるグラーダ三世が自らの命令で、餓えた民を救う事で、新しい支配者として民の支持を得なければならない。

「キエルア。お前はカロンの裏切り者だし、これまでカロンで、民を苦しめるような提案もして来ざるを得なかった。だが、密かに心痛めていたのだろう?抜け道を使って、色々民に施していたと聞く。だから、お前が民から感謝される機会があっても良いはずだ」

 グラーダ三世の言葉に、キエルアは涙した。



 北西へ向かったジーンは西の要地を次々陥落させていった。

 東に向かったリザリエたちは、ユリ川を渡ると、リザリエの本隊は、北東のアインザーク手前の大要塞「ウィス・ダクシェー」の攻略。もう一軍は周辺の要地を抑えていった。



 こうして、「カロン逆侵攻」と言われることになる、一連の戦争は、僅か4日、そして、その後のカロン残党掃討戦を含めても、2ヶ月を待たずに終結する。

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