王城  カロン逆侵攻 3

「ラダートは、2歳にして、様々な計略を立てた。例えば、カロンを攻め滅ぼす為の計略の数々。そして、その後の『世界会議戦争』の計画。

 3歳には、計画を準備段階に移す。世界街道敷設の為の測量士、地理学者の選定。カロンに潜入させる内通者として、キエルアの派遣。キエルアは元はグラーダ国の裏切り者で、他国でも名が知れた、グラーダの敵対者だったので、うってつけだった」


 キエルア様と言えば、今はリザリエ様を支える忠臣で、大賢者として、人々に尊敬されている。今は魔法学校の教頭として、生徒への愛情深い、かなり高齢の魔道師だ。俺も尊敬する人物である。尊敬するだけに、語ると長くなるので、やめておこう。


「他にもカロン遷都計画、新王都建設の建築家や、都市開発を研究する学者との協議。各国で、有能な人間の調査。

 国政も、当時の国王グラーダ二世と協議して決めていった。

 一方で、己はこれぞと思った人間以外には、無知で粗野な世間知らずを装っていた。

 そして、5歳で『武者修行』と称して、世界中を巡る旅に出る。

 その『武者修行』でも、認めるべき人物以外には、己の武力を示さず、愚か者の振りを続けておったそうだが、その『武者修行』こそ、現在のグラーダを支える有能な人材を探す旅であった。無論、後の「世界会議戦争」の為の下調べや、間者を仕込む為の旅でもあった。

 全ては己の使命の為に、生まれる前から、これまでずっと、様々なものと戦ってこられたのだ。我が王は」


 そう言うと、祖父は俺の目をジッと見つめる。

「たとえ、その時の心情がいかなる者であったにせよ、ワシもそう信じたように、カシム。お前を竜騎士探索行に命じたのも、やはり、何らかの未来図が見えていたのだろう。それ故に、あの国王は名君なのだ。そして、お前を憎む理由も、お前が生まれ持った才能を恐れての事なのだ。だから、国王を憎むなよ」


 祖父が、確信に満ちた目で見る。

 俺のグラーダ国王への憎しみはもう無い。だが、祖父の言う、俺の持つ「才能」とやらだけは、さっぱりわからない。魔剣も聖剣も俺に資格無しと見なしたばかりだと言うのに・・・・・・。

「ああ。それはわかるな!!カシムの才能を見抜くとは、さすが我が王だ!!」

 オグマ兄さんが、熱く吠える。何で、そんなに嬉しそうなのかわからない。


「国王が、唯一己の意志で決定して、手に入れたのは、王妃アメリア様だけだった。そして、その娘、王女アクシア姫は、その唯一の宝であった王妃の忘れ形見だ。それを、己が恐れる者に奪われるのが、よほど嫌だったのだろうな」

 そう言うと、祖父が「ハッハッハッハッハッ」と、珍しく大笑いする。

「むう。お兄ちゃんと結婚するのは、ミルなんだから~~」

 俺の腕にしがみついて話しを聞いていたミルが、頬を膨らませる。その様子にデレデレになる祖母とメイドたち。



「そして、15歳の誕生日前日に帰国して、翌日の誕生日にグラーダ国、第35代国王に即位する」





 ここから、いよいよ「グラーダ狂王戦争」の序章となる、カロン逆侵攻だ。

 祖父は、それから、グラーダ三世の能力について説明し、カロン逆侵攻や、グラーダ狂王戦争を成功させた最大の要因について説明する。

 

 長くなるので、概略だけをまとめるが、それでも充分長い物語である。




◇     ◇




 まずグラーダ三世個人の武力についてだが、生まれ持った力で、魔法ではなく、マナをそのままコントロールして放出するだけの力である。神や魔神と同じ能力だが、神や魔神は、他者からマナを吸収する事で、そうした力に変え、自らの延命や若さを保つ事、天界や魔界の維持などに使用する。

 よほどすごい力に思えるが、人1人が、無意識で放出するマナの1日の総量を全て活用できたなら、これら全ての事は造作ない事となる。

 神も、魔神も、無意識に放出するマナのほんの僅かな部分を利用して、それでも、自らの命を保ったりする事に日々悩んでいるのだ。その為に、魔法やダンジョンを作ったりする。その開発に失敗すれば、金銭的にも厳しくなるが、何より、使用したマナを回収できなくなるのだ。つまり赤字である。


 だが、グラーダ三世は違う。他者のマナを吸収する事は出来ないが、生まれてからずっと、マナを放出せずに貯め続けている。なので、自ら貯めたマナを使うだけである。どれだけ使っても、1日もすれば回復するのだ。

 第一級神でさえも、力の多発は、消耗のリスクを考えると出来ないのに対して、グラーダ三世は、第一級神並の力の放出が、ほぼ無限にできるのだ。

 それ故に、神も、魔神も、闘神王を恐れる。


 また、闘神王には食事や睡眠、呼吸は不可欠ながら、毒や精神系攻撃は一切効かない。その代償か、プラスの効果となる精神系魔法も無効化してしまうし、実は味覚障害があるそうだ。どんな食べ物だろうと、取り敢えず「うまい」とは言うが、味はしない。食感や、見た目、匂い、雰囲気を楽しむぐらいがせいぜいである。

 もし、手術をすることになったとしても、薬は効かないし、メスも体を傷つけないだろう。ただし、今のところ、グラーダ三世が病気になったことは一度も無い。



 放出する力のコントロールはとても正確で、その力を使って、街道の敷設を行ったのである。その為、グラーダ軍の進軍は、恐ろしく早く、僅か4年で世界を制覇したのだ。


 

 その街道敷設の方法は、グラーダ狂王戦争の大前提となるので、順序は逆になるが、カロン逆侵攻についてを話す前に、まずはその街道の敷設を説明しておく。

 これによって、グラーダ三世自身の、人知を越えた力の一端も説明する事が出来よう。

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