王城  カロン逆侵攻 1

 その日の夜は、例によってパーティーとなった。

 ファーンも、リラさんも、ミルも、我が家のアホなノリに、すっかり緊張も解けたようで、食事やおしゃべりを楽しんでいた。

 リアが、隙を見ては、俺の幼い時の話しとか仲間に聞かせようとするので、こっちは気が休まらない。

 

 父は、今はデナンの西の、くだんのダンジョンの包囲任務に当たって不在なのと、キース兄さんも、今日は親衛隊の勤務でいない。その分、オグマが暑苦しく、俺たちに絡んでくる。


 

 仲間たちは、間近にいて、食事や談話をする祖父、生ける伝説ジーン・ペンダートンにとにかく感激していた。

 リラさんは特に色々話したいようで、ずっと祖父の側を離れず、楽しそうにしゃべっている。

 ファーンは、リアやベアトリスと笑い合って何か話している。余計な事を言ってないと良いのだが・・・・・・。

 ミルは、俺の側で甘えながら、食事やおしゃべりを楽しんでいるし、しょっちゅう、いろんな使用人やら、祖母やら、オグマ兄さんに声を掛けられ、可愛がられて嬉しそうにしていた。完全にマスコットと化している。

 これでコッコもここにいたら、可愛いツーショットに、みんな、どれだけデレデレになっていたか知れない。まあ、コッコは俺が一番可愛がるがな。



そして、食事が済み、お茶やデザートの時間になると、沢山居た使用人たちが退勤となる。またしても残ったのは、バルドと、ベアトリス、リアの3人と家族だけだった。

 


 そのタイミングで、俺は居住まいを正して、祖父に話しを切り出した。


「じいちゃん。頼みがあるんだけど」

 俺の言葉に、祖父は片眉を上げて、鋭い視線を送ってきた。これは見抜かれているな、と、思いつつ、俺は言葉を続ける。

「『グラーダ狂王戦争』の真実を知りたいんだ」

 俺の言葉に、それまで談笑を楽しんでいた他の者も、口を閉ざして注目する。

 祖父は頷くが、俺の言葉の先を無言で促す。

「俺は、これまで、何故俺だけがグラーダ国王・・・・・・陛下に、憎まれているのか、わからなかった。だけど、今日、その理由をギルバート様から聞いてわかったんだ」

 すると祖父が微かに笑う。

「ほう。ギルバートの奴は、お前に話したのか」

 俺は頷いて、話しを続ける。

「それを聞いて色々納得出来た。だから、俺は国王陛下の事をちゃんと知らなければいけないと思ったんだ」

 祖父が立ち上がる。俺も立ち上がった。

「ようやく覚悟が決まったようだな」

 祖父が俺の元に歩み寄ってきて、両手で俺の肩を叩く。力強い手だ。

 俺は頷く。そして、仲間たちを順々に見てから告げる。

「みんなにも聞いて欲しい」

「はい」

「ああ」

「うん」

 3人が頷いて俺を見つめる。

「俺は竜騎士になる。必ず創世竜との会合を成功させる」

 俺の宣言は、これまでの、「いざとなったら逃げれば良い」。「会合なんか成功しなくても良い」といった姿勢を改める宣言だ。

「よし!良く言ったぞ、カシム!!」

 ファーンがウインクして見せる。

「もちろん、お手伝いしますよ」

 リラさんが「フフフ」と笑って答える。

「お兄ちゃんなら、絶対大丈夫だよ!!」

 元より心配していなかったミルが、明るく言う。

「何を今更」

 と、ファーンが、変な声でクール気取りに言う。おい、それって・・・・・・。

「当たり前だろ!お前は今更、何言ってやがんだ?!」

 今度は低い声を出して見せて偉そうにふんぞり返る。

「ほら、ランダもマイネーもそう言ってるぜ!!」

 妙なものマネしやがって・・・・・・。だが、そうだな。確かにあの2人が言いそうな事だ。

 俺は苦笑する。そして、同時に安堵のため息を付く。わかってはいたが、俺の仲間たちはたいした連中だ。

「そんな訳で、俺は国王陛下の本当の姿を知って、自分の目的として竜騎士を目指したいんだ」

 すると、祖父が嬉しそうに笑う。

 俺が修行や訓練で、上手く出来た時に見せてくれる、俺の好きな祖父の笑顔だ。

「ようやく、お前の旅のスタート地点に立ったな」

 そうだ。ここからが本当に、俺自身の旅のスタートとなるんだ。他人の意志や思惑、状況に流される旅ではない。俺の主体的な意志による、俺の為の旅だ。

「では、話そう」






 俺たちがそれぞれ、話が聞きやすい所に座るのを確認して、祖父も腰を降ろして話し始めた。

「まず、世界会議戦争が始まるより16年前の話しをしよう」

「そんなに前の?」

 ファーンがメモを取りながら呟く。そう言えば、ファーンもミルも、グラーダ三世が演説した場には居なかったし、俺も話してなかったな。

 祖父は、ファーンの言葉に頷く。

「そうだ。『歴史』というのは、現在に至るまでの記録であり、それまでの過去があって、現在がある。『物語』は始まる前にも、必ず『物語』があるのだ。そして、『物語以前の物語』を知っている方が、より『現在』を、『知りたい歴史の時点』を知ることが出来る」

 その通りだ。だからこそ、「俺の物語」以前の物語として、グラーダ闘神王の、世界会議戦争、俗に言う「グラーダ狂王戦争」の物語を知りたいと思ったのだ。

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