王城  俺んち 5

 すぐに部屋の準備が出来たので、俺たちはそれぞれの部屋に入る。俺は、自分の部屋ではなく、みんなの隣の部屋を用意して貰っていた。

 そして、俺たちはすぐに準備を済ませて、早速風呂に向かう事とする。ファーンの要望だが、俺も、流石にゆっくり風呂に入りたい。

 男の俺は、準備なんてあっという間だ。なので、部屋で待っていると、ドアがノックされる。

 ドアを開けると、部屋に用意されてあったであろう服に着替えたリラさんたちがいた。

 ぱっと見ただけで、来客に合った服を用意するのは、当たり前の事だが、流石に手際が良い。

 リラさんは、白が基調で、所々がレースで涼しそうなワンピースドレス。

 ミルは、明るい黄色の短めのスカートに、襟に花柄の刺繍が入った薄い黄緑色のブラウス。

 ファーンは、自分の室内着を着ている。いつものゆったりズボンにシャツだ。まあ、可愛いかっこうして来たら、それはそれで反応に困る。

「リラさんも、ミルも似合ってますよ」

 以前の轍を踏まない様に、今度は前もって誉めておく。

「おお。進歩進歩」

 ファーンが茶化すが、リラさんもミルもニコニコしているので、どうやら成功したらしい。

 機嫌の良い3人を風呂場に案内する。3人とも大浴場希望だ。俺も大浴場が良い。

 普段は、男性用の大浴場はいつも祖父の部下たちでごった返しているが、今の時間は訓練中だから、ゆったり入れそうだ。

 大きさは男女ともに同じなのに、使用人数に大きな差があるのだ。

 浴室の入り口は、やたらと凝った装飾が施された柱や、扉がある。女性用の浴場前で3人と別れて、俺は更に奥に行った男性用の浴場に向かう。

 男性用の浴場の入り口は、訓練場に面する出入り口近くにある。訓練が終わった兵士たちが、直接外から出入りしやすいようになっている。それだけに、装飾も、女性用の浴室よりも質素だ。

 


 まだ誰も入っていない大浴場に、俺は入り、体を洗って、ぬる湯に浸かり、少し考え込む。

 アクシスの事、それと、今まで憎んできたグラーダ三世国王の事をだ。

 俺は色々考えを改めた方が良さそうだ。俺は何の為に冒険をするのか。もちろん考古学者としての好奇心を満たす事が個人的な目的だが、これからはより積極的に竜騎士となる事を目指さなければいけない。これはもちろんアクシスを救う為だが、それ自体が俺の為でもある。

 それから、「グラーダ狂王戦争」の真実の姿を、俺は知らなければならない。

 あの戦争が、実は地獄の穴の蓋を、完全な物とする事が最終目的だったと、以前「謁見の間」でグラーダ三世が明らかにした。

 それまでは、あの国王の戦争をしたいが為だけの暴挙だと、俺も、世界中も信じて疑わなかった。

 だから、俺は、個人的な感情も伴って、特に知ろうとは考えていなかった。だが、真実を知ってしまい、更に、これまでの恨みも憎しみも氷塊した今、俺はあの戦争の真実の姿が知りたい。

 そして、我が家には、その戦争の始まりから終わりまで、誰よりも深く知っている人物がいる。

 俺は今夜、祖父から「グラーダ狂王戦争」の真実を聞くつもりだった。





 風呂上がり、俺はふと思いついて、そのまま外に出て、ガトーの鍛冶工房に向かった。

 新しい武器について相談しに行かなければいけないからだ。

 その途中、俺は素晴らしい事に、今更ながら思い至った。

「俺の右目よ!!俺の愛している人の姿を映し出すのだ!!!」

 俺は黒竜に貰った、ドラゴンドロップ製の右目に強く念じた。

 今、リラさんはまだ風呂に入っているのだ。つまり、今ドラゴンドロップの力を使えば、愛しい人の姿を映し出してくれるはずなのだ。なぜ今までこの使い方に気がつかなかったのか、うかつとしか言い様がない。

「さあ、俺の右目よ!今こそその力を示すが良い!!フハハハハハハ!!!」

 ・・・・・・・・・・・・。

 何も見えてこない。

「クソ!ゴミスキル確定じゃないか!!」

 俺は、黒竜がくれた右目に、独り毒づく。

「何してんすか、坊ちゃん?」

 完全に油断していたところを、背後から声を掛けられて、俺は驚く。振り返ると、ガトーがあきれ顔で俺を見ている。

「や、やあ、ガトー・・・・・・」

 俺はぎこちなくそう言った。




「装備一切新しくする必要がありますね」

 ガトーが言った。

「ああ。全部ダメにしちゃって悪かったな」

 俺はそう言うが、ガトーは首を振って笑う。

「いや。そんな事当たり前ですよ。坊ちゃんは創世竜に会いに行ったんですから、生きて帰っただけでとんでもない偉業じゃないですか」

 まあ、それはそうだな。

「そうか。ありがとう。・・・・・・で、武器なんだが~~~」

 出来れば聖剣か魔剣が欲しいなぁ~~。だが、ガトーはそうした物が作れない。言いにくい。

「ああ。それなんですがね」

 ガトーが言う。

「坊ちゃんは俺の作った物じゃダメですよ。もう魔法効果のある武器防具が必要でしょう。不甲斐なくて申し訳ないのですが、こんな事もあろうかと、いくつか用意しています」

 流石だ。ガトーはいつも「こんな事もあろうかと」色々用意してくれている。

 

 そして、倉庫に案内されていくと、本当に、大きなテーブルの上に、いくつもの剣と、防具が並んで置かれていた。

「剣は魔剣、聖剣です。まあ、伝説級のとかはありませんが、気兼ねなく使える物です。坊ちゃんが使いやすそうな物を武器庫から探したり、町の武器やから取り寄せたりして集めました。防具はサイズが合いそうな物を、武器庫から持ってきました」

 良い仕事してるな、ガトー。 

「ところで、今朝ギルドで聞いたんですが、坊ちゃんはあの『火炎刀』を使えたそうじゃないですか?持ち手を選ぶ魔剣ですよね、あれ」

 耳が早いな。ってか、もう話題になってるのか・・・・・・。道理でメチャクチャ見られてると思った。

「まあな」

 ちょっとだけ得意顔で答えてやる。

「だったら、火炎系と相性が良いのかも知れませんね。となると、これなんかどうです?」

 ガトーが勧めてきたのは、つばが炎の意匠になっている、直剣のロングソードだ。直剣ながら、切れ味も良さそうだ。

「これはブラム・ローレン作の聖剣で、アポロンの魔力が宿っています。火炎刀には及びませんが、刃から炎を発します」

 ほほう。それは良い物だ。

 俺は、剣を鞘から抜くと、闘気を宿して剣を振ってみる。

 シーーーーーン。

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 炎のかけらも出ない。

「何にも起こらないぞ・・・・・・?」

「そうですね・・・・・・」

 もう一度振ってみたが、やはり何も変化はない。何度振っても同じだった。

「おかしいな。火炎刀を従えたぐらいなら、大抵の聖剣、魔剣は使えると思ったんですがね」

 ガトーも、俺も頭をひねる。

「ま、まあ、次を見てみましょう」

 気を取り直して、ガトーが次の武器を手渡す。

「これは光属性の魔力が籠もった刀です。デイ・フット作の逸品です。ミスリル製で、モンスターに掠っただけで致命傷を与えることが出来ます。また、柄を握っていると、癒やし効果があります」

 それはすごい。恐らく地獄の魔物にも有効な武器だ。是非欲しい。

 俺は刀を受け取り、振ろうとするが、一振りすると、その軌道がガタガタにブレてしまう。所謂「魔剣に認められていない状態」だ・・・・・・。

 ええ~~~~!?


 その後、どの聖剣、魔剣を試しても、全くダメだった。

「坊ちゃん、火炎刀を使ったのって・・・・・・本当ですか?」

 ガトーが疑いの目で見てくる。得意そうにしていた分、余計に恥ずかしい・・・・・・。

 しかし、何でだ?あの時と、今とで何が違う?

 俺はしばらく座り込んで考える。そして、ふと気付いた。

 俺は今、風呂上がりの室内着だ。

 つまり、装備・・・・・・細かく言えばウエストバックが無い状態だ。

 あのウエストバッグの中に、何が入っていたか気付く。

「ちょっと待っててくれ!」

 

 俺はそう言うや、荷物を置いている部屋に駆け戻り、ウエストバッグを持って、ガトーの待つ倉庫に戻る。

 そして、不思議そうにしているガトーの前で、最初に振った炎の剣を振ってみた。

すると、小さい炎が吹き出た。

「出た!?」

 ガトーが歓声を上げる。だが、俺は全く喜べない。

 次々と他の聖剣、魔剣を試してみると、どの武器も、すんなり魔力の効果を発揮する。

「すごいじゃないですか、坊ちゃん!!一体どうしたんですか?!」

 ガトーが嫌な事を聞いてくる。

 

 タネを明かせば、俺のウエストバッグには、黒竜から貰った「赤竜の鱗」が入っている。

 つまり、魔剣も聖剣も、俺にではなく、最強の創世竜である「赤竜の鱗」に従っていたのだ。

 そうだ。あの「火炎刀」も、結局は俺に従ったのではなかったのだ。

 何てことだ・・・・・・。俺は他者(赤竜)の威を借りて、他者(火炎刀)の力で、エレッサ防衛戦で活躍していたのか・・・・・・。これは誇れない。もの凄く情けないじゃないか・・・・・・。

 俺はガックリと床に手を付く。

「どうしました、坊ちゃん?!」

 ガトーが驚く。

「ガトー・・・・・・。悪いんだけど、聖剣とかもういいから、普通の武器防具を用意してくれ・・・・・・」

 赤竜の鱗を持っていれば、聖剣も魔剣も使えるし、魔力の籠もった防具も装備できるだろうけど、俺自身にその資格がないのでは意味が無いと思う。俺だって意地とか、矜恃とかある。

 それに凡才である事なんて知っていたさ。ならば、身の丈に合った装備を身に付けて戦い抜いてやるさ。

 クッソーーーー!俺、かっこ悪い!!

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