王城  俺んち 4

 メルスィンで王城に次ぐ規模の敷地と建物があるのが、我がペンダートン家だからな。壁はずっと先まで続いている。建物の高さはそこまでないので、高い壁越しには木ばかりで見えない。

 壁と木が高いのには理由があって、ウチには200人の騎士が居て、訓練場もある為、訓練の声や、音が抑えられる様に、周囲に配慮しての事だ。防衛や防犯の為ではない。その為、訓練所から離れた所の壁はもっと低い。

 

 入り口はいくつかあるが、正門から帰る方が都合が良いから、壁沿いに半周して、南側の大通りに向かう。

 歩きながら雑談をする。

「そう言えば、祝宴会だけど、服はウチのを借りる感じでいいか?」

 ミルとファーンに声を掛ける。もちろんリラさんもウチのを使っても良いが、リラさんの場合は、普段来ている物で、充分美しい。なんと言っても、謁見の間での歌唱にも耐える素敵な服装だ。

「ドレス着れるの?うれし~~~!!」

 ミルは喜ぶ。ファーンは・・・・・・。

「ああ。いいぜ」

 また嫌がってごねると思っていたが、あっさりとオーケーする。

「?・・・・・・んだよ?」

 驚いて言葉を無くす俺に、ファーンが首を傾げる。

「ドレスだぞ?」

 一応確認する。

「わかってるよ!さすがにこの恰好じゃヤバい事くらいわかるっての!」

 ファーンが憤慨する。

「お、おお。流石ファーンだ。時々バカじゃないだけあるな」

「だろ?!」

 ファーンが得意そうに胸を張る。

「じゃあ、私も借りて良いかしら?」

 おおっと!!まさかのリラさんからの言葉。

「リラはいつものじゃないのか?充分大丈夫だと思うぜ?」

 ファーンが俺の考えを代弁してくれる。多分祝勝会でも、その方が喜ばれそうな気がする。

「でも、私だけのけ者みたいで、ちょっと淋しいわ」

 少しすねた様子が可愛い。それに、リラさんのドレス姿っていうのも、見てみたい。

「じゃあ、お貸ししますよ」

 ウチには様々な衣装が沢山ある。サイズもすぐに合わせてくれるので、問題ない。どんなドレスを選ぶのか楽しみである。


 王城通りに出て右折すると、その先に我が家の正門がある。少し歩くと、壁が道からグッと敷地側に引っ込んで、その手前は道に沿った生け垣に変わる。色とりどりの花も植えていて、生け垣の中を歩く散歩道もあり、通りを行く人や、親子が楽しそうに歩いている。

 ビオトープもあるので、中に入って遊ぶ子どももいる。木陰もあり、常夏のグラーダでは、憩える空間となっている。

 祖母の案で、道行く人々が楽しめる様にしているのだ。


 そして、その先に正門がある。正門には、警備の詰め所がある。

「戻ったよ」

 俺は、詰め所の使用人に挨拶すると、見知った使用人が「カシム坊ちゃん!!お帰りなさいませ!!」と、嬉しそうに言うのに手を振って、仲間と一緒に敷地内に入る。

「すっげーな!お前、やっぱ、ペンダートンなんだな!?」

 ファーンがキョロキョロしながら言う。まあ、下手な国王よりも格が上な家柄なのは確かだ。

 リラさんも、ミルも、少し緊張した様子で、黙って付いてくる。

 

 敷地に入ると、まるで森の中の様に、背の高い木が、道の両脇に立ち並んでいる。そして、幅の広い道は左右に蛇行して伸びて進み、その先に大きな噴水がある。そこを右に曲がると、急に周囲が開けて、目の前に大きな館が姿を現す。

 正門からだと、本邸である、この館正面に、一番近いのだ。

 それでも、正門から数分歩くことになる。

 そして、館の玄関前には、10人ほどの使用人が、道の両脇にずらりと整列して立っていた。

「うお!何なの?!これ?」

 ファーンがビクッと後ずさる。

「うひゃ~~~」

 ミルもポカンと口を開けている。

 そんなに驚くことはないだろう。100人のハイエルフの整列に比べたら、遥かに規模も、格も小さいだろうが。

「ちょっとした仕掛けだよ。正門から伝声管で、本邸に連絡して、俺たちがグネグネ屋敷までのんびり歩いている間に、人を集めたってだけだよ。貴族の見栄ってやつだ」

 俺は、この大げさな感じはあまり好きではないが、使用人が喜んでやっているんだから仕方が無い。特に、こうしてたまの来訪者があると張り切る。

 

 俺は、そのまま使用人の間を通ると、俺が横を通るタイミングで、深々と頭を下げていく。慣れていても気恥ずかしい。

 そして、玄関の外には、執事長と、メイドたちが立って出迎えていた。メイドたちは、深々と頭を下げている。

 その前に俺が立つと、執事長が大きな声で挨拶をする。

「お帰りなさいませ、カシム様!」

 その後、使用人と、メイドたちが、深々と頭を下げたまま「お帰りなさいませ、カシム様!!!」と、声を合わせて言う。

「うおおおお~~~!!」

 ファーンが叫び、ミルはキョロキョロ落ち着かない。リラさんだけがすました風で立っているが、顔が引きつっている。可愛いなぁ。

「ただいま、バルド。みんな」

 俺が声を掛けると、全員が頭を上げる。

 上げるや否や、いきなり執事長のバルドの横にいた、イヌ獣人メイドのリアが叫ぶ。

「ああ!!!カシム坊ちゃんが、恋人を3人も連れて来たぁぁぁ!!」

「は?!ちがっ」

 言いかけた時には、リアはもう、開け放していた玄関の中に駆け込む。

「これは大変だ!!奥様にお知らせしなくては!!奥様ぁぁ~~~~~!!」

 我が家では、祖父は「旦那様」、祖母は「奥様」、父は「若様」、で、俺と兄たちは「坊ちゃん」と呼ばれている。・・・・・・が、今はそれどころではない。

 俺は「圧蹴」を使ってダッシュし、家の中に駆け込むリアに追いつき、その手を掴んで止める。

「リア、違う。落ち着け」

 そう言うと、リアは「あ・・・・・・」と言って、手を掴む俺を見る。それから、モジモジと頬を赤らめてうつむく。

「そのぉ~。お坊ちゃんがその気なら、リアは4人目でも構いませんよぉ~~」

「は・・・・・・?」

 俺はそのまま固まる。

「何を言ってるんですか、このバカ犬!!」

 見かねたもう1人のメイド、ベアトリスが、メガネを光らせてリアの頭をひっぱたく。

「いったぁ~~い!!だってぇ。お坊ちゃんがあんまり情熱的にあたしの手を引っ張ったからぁ~~!!」

 リアが訳のわからない事を言うのは、今に始まった事じゃないが、ちょっとまともになって欲しい。

「あいつ、マジでおっぱい好きなのな・・・・・・」

 引き気味にファーンがボソリと呟く。確かにリアはかなりでかいが、そうじゃ無いし、そういう事を言うな・・・・・・。ミルが頬を膨らませてるし、リラさんの目が怖い。


 俺は取り敢えず咳払いをすると、改めて仲間を紹介しようとする。

「バルト、みんな。彼らは・・・・・・あ」

 今度は、すっごい目でファーンが睨んでいる。「てめぇ。まだオレの事、男と思ってんじゃねーだろーな?」と思っている事が明確に伝わる殺意の籠もった目だ。

「じゃない、彼女たちは、俺のパーティーの仲間だ。その、つまり『竜の団』メンバーだ」

 俺の言葉に、使用人たちが色めく。

「こちらが、ファーン。リラさん。ミルだ」

 順々に紹介する。

「仲間たちが泊まる部屋を用意してくれ」

 俺が指示すると、バルドが「かしこまりました」と頭を下げた後、聞いてくる。

「部屋は個室がよろしいですか?それともお嬢様方は同室がよろしいでしょうか?」

 俺は仲間たちを見る。

「あたしはお兄ちゃんと一緒が良いな~」

 ミルが言うのを、すかさずリラさんが叱る。

「ダメです!」

「じゃあ、オレたち3人は一緒で良いな」

 ファーンが意見をまとめる。

「かしこまりました」

 バルドが返事をすると、すぐに使用人たちが動き出す。


 ようやく、俺たちは屋敷に入る事が出来た。が、入ったら、今度は祖母が階段を下りて来ていた。

「恋人って、カシム。今の本当?!」

 すごく嬉しそうに慌ててやって来る。

 クソ。またか・・・・・・面倒くさい。

 俺はため息交じりに仲間を振り向くと、アホなやりとりで、すっかり緊張が取れた感じの仲間たちと目が合ったので、笑い合った。

 まあ、なんだかんだでグッジョブだ、リア。

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