王城  俺んち 3

「そうか。それは嬉しいね。実は私も単純に興味があるのだよ。では、早速手配するとしよう」

「あ、あの。俺たちですが」

「ふむ?」

「緊急クエストに参加する予定です」

 俺がそう言うと、ゼンネル氏は、メガネの奥の目をまん丸にする。

「本当かい?」

「ええ。もう1人の仲間が、緊急クエストに参加するので、俺たちも参加する予定なんです」

 そう言うと、ゼンネル氏がメガネの位置を直しながら尋ねてくる。

「君たちは4人パーティーじゃないのかい?」

 そうか。ランダが仲間だと言うことは、ギルドには伝わっていないのか・・・・・・。

「いえ。その、一応パーティーメンバーは6名です」

「6名?初耳だが、一体、他のメンバーは誰なんだい?」

 俺はため息を漏らす。言いたくはないが、相手はギルド長だから伝える必要はある。

「もう1人は、ランダ・スフェイエ・ス。黒ランク冒険者です」

 ランダの名前を聞くと、ゼンネル氏が眉をひそめる。

「知っている名だよ。・・・・・・ギルドを通さない依頼を受けている闇冒険者だね」

 あまり良い感情を抱いていない様子が伝わる。

「後は、ランネル・マイネーです」

「っっっぶっっは!!!!」

 マイネーの名前を聞いたとたん、ゼンネル氏が何かを吹き出して盛大にむせる。気持ちはわかる。驚くよな。俺も驚いたもん。

「き、君。それは冗談かな?彼は『歌う旅団』のメンバーで、今は獣人国の代表だよ?」

「本当です。直近のニュースを知っているならご理解いただけると思いますが・・・・・・」

 エレッサ防衛戦の事を知っていれば、俺たちとマイネーが共闘した事から、この結論に至るまでが想像できるだろう。それこそ簡単な推理だ。

「な・・・・・・なるほど。信じ難いが、確かに有り得る話しだ。しかし、『どうして?』という疑問を抱くのもわかってもらえるかな?」

 ゼンネル氏の言葉に、俺は肩をすくめる。仲間たちも苦笑いしている。

「こっちが知りたいくらいです」

「・・・・・・・あれだね。ますます密着取材を受けてもらいたくなったよ。取り敢えず、その件はこっちで手配させてもらうよ。君たちはダンジョンに行くなら、デナンの町辺りで待機させておくとしよう。向こうもプロだからね。それだけで君と合流できるだろう」


 まだ衝撃から抜け切れていないのか、ゼンネル氏がまたむせる。そして、何度か深呼吸してから付け足す。

「それから、帰りに案内所に行けば、黒ランクプレートを受け取れるようにしておこう。総合受付より待たないで対応してもらえるから、その方が都合が良いだろう?」

 さすがはギルド長だ。見事に気が回る。

「ありがとうございます」

 俺はそう言って、仲間と一緒に立ち上がり、礼をしてから退室する。

「また話しをしにおいでよ。歓迎するからさ」

 ゼンネル氏は、笑顔で俺たちを見送ってくれた。

そのその笑顔の内側で、「チョロい!チョロすぎるよ、カシム君」と嗤っている事に、俺はこの時気付かなかった。

 


 1階の案内所に行くと、すぐに黒ランクのプレートを4つ渡してくれたので、周囲の人たちにジロジロ見られないうちに、俺たちはそそくさとギルドを後にした。

「メルスィンにいる間は、俺んちに泊まるだろ?」

 当然の様に俺が言ったが、すかさずファーンが渋面を作って拒否する。

「やだよ!お前んちって豪邸なんだろ?またカタッ苦しいのはごめんだね!!」

「え~~~!あたしお兄ちゃんの家、行きたい!!」

「あ、わ、私も~~」

 ミルとリラさんは来てくれそうだ。

「別にウチはカタッ苦しくないぜ?」

 一応フォローするが、ファーンは本気で嫌そうな表情をする。

「カシムは時々バカな!そりゃあ、カシムは自分ちだから堅苦しく感じないだろうけど、オレは、スラム育ちの腐れ廃エルフだぜ!豪邸なんかで落ち着けるはずねぇだろ!!」

 コイツ、そこまで自分を貶(おとし)めて何が楽しいんだ?

「・・・・・・そうか。残念だな。俺の仲間を家族に紹介したかったのに」

 俺がそう言うと、ミルは嬉しそうな顔をした。リラさんは真っ赤になってうつむいている。そう言えば意外と緊張するって言ってたもんな。まあ、ウチの家の連中のテンションを見たら、緊張なんかしなくてすむだろうな。

 だが、ファーンは更に嫌そうな顔をする。

「それが特に嫌なんだよ!オレはお前の彼女でも何でもないんだから、いちいち『家族に紹介』とかやめろよ!オレたち結婚前提かっての!?」

 ほほう。それほど嫌なら構わんよ、ファーン君。

 さんざんな言われようだった事だし、その報いは受けてもらおうか。

「わかった。そこまで嫌なら無理にとは言わないよ。どこか適当な所に宿を取れば良いさ」

 俺は、すごく残念そうな表情を作ってファーンに告げる。

「おう。そうさせて貰うぜ!」

 一転してファーンが嬉しそうに言う。なので、俺はリラさんとミルの背を押しながら告げる。

「じゃあ、リラさん、ミル。ウチへ行こうか。ウチは敷地から天然の温泉が湧いているから、大浴場、中浴場、個室の浴室、どれからも天然温泉が楽しめますよ」

「わ~~~~~い!!」

 ミルが歓声を上げて、リラさんは「楽しみです」と笑顔で言う。

「あ、あのさ・・・・・・」

「もちろん男女別だし、大浴場には、露天風呂にサウナまでありますから、旅の疲れを落として下さいね」

 俺は2人に優し~く語りかける。

「あ、あの~。あの~~~~。・・・・・・カシムさん」

「それから、間違いなくパーティーなので、沢山食事もデザートも出ますよ」

「ちょっと!カシムさん!!あのさ、あのさよく考えたら、宿に泊まる金、勿体ないじゃん?!」

 ファーンが必死に俺たちに追いすがって喚く。だが、さらりと言い返してやる。

「ええ?そんなことないだろ?さっきギルドで報奨金貰ったじゃないか」


 そうなのだ。黒プレートと一緒に、報奨金を貰っていた。今回も50000ペルナーだ。本当は10万ペルナー相当の働きだったらしいが、ランクと会わせて減らして貰っていた。実家が金持ちだから、金には困っていない。冒険者としては贅沢な話しだ。

 で、例のように、1人10000ペルナーずつ分け前を貰い、残り10000ペルナーは、今回はランダに渡す事にしている。

 さて、そういう事で、お前の言い訳をぶち壊してやったぞ、ファーン。


「や、いや、その・・・・・・。ほら、哀れなスラム育ちの廃エルフは、御殿での生活を、ちょっと見てみたいな~~~って思ったりして~~~」

 そうか。素直じゃ無い奴め。

「でも俺んち、きっとカタッ苦しいぞ?」

 俺のニヤつく顔に、ファーンが何かを閃いた顔をする。にわかに不安がよぎる。

「てめぇ~。下手にでてりゃいい気になりやがって。オレにはこれが有るんだぜ」

 ファーンがウエストバッグから、愛用の手帳を出して、ヒラヒラ見せる。

「あ・・・・・・」

 形勢逆転だ。俺の血の気が一気に引く。

「わかったよ、ファーン。ウチに来いよ!温泉たっぷり楽しんでくれ!熱湯あつゆもあるぞ!」

 下手したてに、下手に腰を低くしてファーンをなだめる必要がある。そんな俺の耳元でファーンが囁く。

「良かったよ。リラのケツとか胸とかの話し、ここでしなくて済んでよ。ヒッヒッヒッ」

 クッソーーーー!!

 マイネーとの馬鹿話をコイツに聞かれていた事を失念していた~~~!


「2人とも楽しそうだね~」

「仲が良すぎて、ちょっと複雑よね」

 ミルとリラさんが苦笑いしながら、俺とファーンのやりとりを見ていた。

 ま、確かに悪ふざけが過ぎたかな。


「で、お前んち、どこ?」

 ファーンが言うので、通りを挟んでずっと続いている背の高い壁の方を指さして答える。

「これ」

「「ええええええ~~~~~」」

 ファーンとミルが叫ぶ。リラさんは知っていたようで、クスクス笑う。

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