王城  俺んち 2

 俺たちが待っていた時間は僅かだった。ベンチで待っているリラさんの所に戻ったとたん、きれいな女性職員が俺に声を掛けてきた。

「お待たせしました。ご案内します」

「あ、ああ。よろしくお願いします」

 思ってたより早く声を掛けられたので、流石に驚く。

「ミル!行くぞ!戻って来い!」

 うろちょろギルド内を探検していたミルを、ファーンが呼び戻すと、俺たちは、女性職員の案内で、奥の階段を上っていく。


 ギルド本部は6階建ての、大きな建物だ。見た目も立派な館で、試験場やら訓練場やらも併設されている。

 俺たちは最上階の6階に案内された。

 6階の階段すぐ近くに、グラーダ国の冒険者ギルド長の執務室があった。俺たちは、その執務室の隣の、応接室に案内される。

「またカタッ苦しいのは嫌なんだけどな~~」

 ファーンがブツブツぼやいていた。まあ、仕方ないだろう。 

 応接室に入ると、豪華なソファーに腰を下ろしていたギルド長が立ち上がり、俺たちを迎え入れる。

「やあ、竜の団の方々。掛けたまえ」

 ギルド長は、エルフの女性で、短い髪にメガネを掛けた人物だった。見た目は20代だが、エルフだけに実年齢はわからない。

「私がギルド長のゼンネルだ。以後お見知りおき願おうか」

 ゼンネル氏が握手を求めてくるので、俺たちは順番に握手をする。

「君がハイエルフのミル君か。会えて光栄だ」

 ゼンネル氏は、ミルを見て嬉しそうに頷く。エルフだって、ハイエルフに会うことは珍しいから、その気持ちはわかる。

 俺たちがソファーに座ると、ゼンネル氏が、テーブルの上にギルバート様からの手紙を丁寧に置く。

「手紙は読ませて貰ったよ。・・・・・・?どうかしたかな?」

 俺が戸惑っているのを察して、ゼンネル氏が尋ねる。

「あ、いや。やけに早いなって思いまして」

「『早い』とは?」

 ゼンネル氏のメガネが輝く。

「いえ。俺が受け付けで紹介状を渡してから、俺たちが呼ばれるまでも早かった上に、ゼンネルさんは、もう手紙も読んでいらっしゃるので、それでちょっと驚いて・・・・・・」

 正直に疑問を話すと、ゼンネル氏がニヤリと笑う。

「フフン。なるほど。だがね、答えは簡単さ」

 そう言うと、何故かゼンネル氏が立ち上がり、ソファーの後ろに回り込み、部屋を行ったり来たりしながら説明し出す。


「まず、受付の彼だがね。元レベル35の盗賊職だったのだよ。彼に掛かれば、1階分の階段はひとっ飛びだ。つまり、ここ6階に来るまで、僅か6歩で事足りる。そして、用件を伝えて手紙を私に渡す。私としても、君の名前を聞けば、会うにやぶさかではないからね。後はほら。テーブルの横の伝声管で、1階の案内係に声を掛ければ、すぐに君たちを案内できる。そして、君たちが階段をゆっくり登ってくるまでの間に、私は手紙に目を通せる、と言う訳だ」

 そしてゼンネル氏は、俺にビシッと指を突きつけると、得意満面な顔で話しを締める。

「考えてみれば、簡単な推理なのだよ」

 ミルとファーンが拍手をする。

 なるほど。説明はよく分かった。だが今のは推理じゃないだろ。あなたが知っている事を話しただけなんだからな。

 ただ、今の台詞を言ってみたかっただけって所だろう。

「はい。わかりました」

 おざなりな返事をして、本題に入りたい。


「それで、ランクの件なんですが・・・・・・」

 俺が切り出すと、ゼンネル氏が微妙に残念そうな顔をする。もう少し遊びたかったようだが、こっちは遠慮したい。

「君。冒険者には遊び心が大切だよ?まあ、遊び心で命を落とす冒険者もいるけどね」

 ゼンネル氏が、ブツブツ言いながら再びソファーに腰を下ろす。

「君はランクが上がるのが困ると言う事だが、貢献度から言えば、白金ランクに相当するよ。今朝方届いた、新しいニュースも併せれば当然だろう」

「ですが、俺はつい最近冒険者になったばかりですし、俺たちのパーティーは、はっきり言ってレベルが低いです」

 ゼンネル氏に、パーティーの実情を伝える。

「うん。まあ、正直に言うとだね。実はギルドの方でも君たちのランクの扱いには困っているんだよ。国からの圧力なら無視できるけど、ハイエルフからの圧力には屈しない訳にはいかなくて、かなり飛び級させてしまったからね。しかも、功績としてはそれでも足りないくらいなのが本当だったんだよ。君の功績はギルド史上初ばかりで、功績の基準がわからないんだ」

 なるほど。それはそうかも知れない。功績だけを考えれば、ランクを上げたいが、レベルは低いし、あまりにも急激に上げすぎるのも、他の冒険者たちとのバランスを考えると控えたい。

「君たちは、すでに世間からの注目のまとではあるが、その実情は謎だらけだからね」

 つまり、知名度はともかく、本当に腕が立つ冒険者だったら、ランクが上がっても、他の冒険者も納得するだろうけど、今の状態だと面倒が起きかねないと言う事だな。それは当然だ。

「君たちのランクに関しては、宰相からの手紙も考慮させて貰うが、この手紙にもある通り、国の権力に左右される訳にはいかないので、私の采配で事を図って良いとの事だから、その通りにさせて貰うよ」

 むむむ。そう言われると手紙の内容が気になる。考えてみれば、「賢政」の書いた手紙だよな。ちょっと、展開が怪しくなってきたぞ。

「しかし、上げる交渉ならともかく、下げる交渉とは珍しい。これもギルド史上初なんじゃないかな」

 ゼンネル氏が「クックック」と笑う。

「では、君のランクは、そうだな。レベルを鑑みて、抑えて黒ランクにしても良いよ」

 おお。黒ランクなら緊急クエストにも参加できるしちょうど良い。願ってもないランクだ。

「それでお願いします」

 俺が勢い込んで言うと、ゼンネル氏が人差し指を立てて「チッチッチ」と言う。何やら楽しそうだ。

「条件がある」

 出た。ほら怪しい展開だ。

 ゼンネル氏が、最初から準備していたのだろう、テーブルの下から、雑誌を開いた状態で取り出して、テーブルの上に置く。

 これさっきと同じ展開だぞ。

「今号の『ただ中』に、君たちの記事が載っている。これによると、密着取材をしたいと書いてあるのだが、君たちには、この取材を受けて欲しい。これが条件だ!!」

「なんでだーーーー!!!」

 思わず叫んでしまった。心の叫びが抑えきれなかった。

 だが、ゼンネル氏は、俺の叫びがよほどおかしかったのか

腹を抱えて大笑いする。

 リラさんとミルは驚いているが、なぜかファーンも大笑いしている。他人事じゃないだろうが。


「あっはっはっはっはっ!君は愉快だね。さっきも言った通りだよ。実情を世間に知らしめる事。そして、君たちは注目を集めていて、ちまたでの人気も高い。だから、取材を受けてくれれば、ギルドにとってもかなりのメリットがある。それこそ単純な推理だよ。あっはっはっはっはっ!」

 ゼンネル氏は笑うが、俺としては、密着取材で俺の底の浅さが露呈されて恥をかくだけなら良いが、かなり失望されるに違いないと思っているので、出来れば断りたいのだが・・・・・・。かと言って、白金ランクになんかされたら目も当てられない。

 つまり、選択の余地なんてない訳だ。

「・・・・・・承知しました」

 俺は仲間とアイコンタクトで了承を得てから、ゼンネル氏にそう答えた。

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