王城  俺んち 1

 階下の武器預かり所で、預けた武器を受け取る。

 メインの武器は壊れてしまったので、そもそも持っていなかったが、投げナイフや、短刀など、荷物と一緒に預けてあった。

 その後、広い王城を出ると、左に曲がり、メルロー街道に出て、俺の家の敷地横を通って北上し、冒険者ギルド本部に向かった。


 我が家の敷地から、一本通りを隔てた向かいになるのだが、方向的には北側なので、裏にあたる所にギルドの建物がある。

 王都のギルドだけあって、かなり規模が大きい。我が家の敷地と比べてしまうと、半分以下にはなるが、それでも、メルスィンで3番目に規模の大きい建物となっている。


 冒険者ギルドの、扉のない大きな入り口をくぐると、すぐに食堂に向かう。さっきから人々の視線が痛すぎる。

 かなり遠慮なく俺の事をジロジロ見てきて、どうにも落ち着かない。悪目立ちしたくなくても、目立ってしまう。だが、明後日までの我慢だ。

 祝宴会が終われば、すぐにレグラーダ・・・・・・は間に合いそうもないから、直接デナンの町に行ってダンジョンに挑もう。



食堂に入ると、広い食堂で、沢山の冒険者たちが利用していたが、すぐにファーンたちを見つけられた。

「お待たせ」

 側に行って声を掛けると、すぐにファーンが返事する。

「おせーよ!待ちくたびれたぜ!」

「ああ、悪い」

 俺は素直に詫びたが、ファーンが俺の背中を叩いて笑う。

「ジョーダンだよ。ここはお前のホームだもんな。色々あんだろ?気にすんな」

 ファーンはそう言うと「ヒヒヒ」と笑う。

 リラさんも、ミルも、笑顔で頷く。

「ああ。ありがとう」

 俺はそう言うと椅子に腰を下ろす。

 このギルドの食堂は、基本的に、長いテーブルで、複数のパーティーが同じ列で食事が出来るようになっている。そして、注文した物を、自分でカウンターまで取りに行くセルフ方式だ。なにせ規模がでかいので、そうしなければ回らないのだ。

 で、ファーンたちは昼食をとっくに食べ終えて、今はデザートを楽しんでいた。

 俺は、ちょっと、ギルドでの視線に耐えかねている。ここでのんびり食事とか摂る気にならない。うかつだった。

 ところが、ミルがパーッとカウンターに飛んでいって、何か注文して戻ってくる。

「お兄ちゃんのごはん、頼んできたよ~」

「あ、ああ。ありがとう」

 まあ、そうなっては食べなくては申し訳がないな。


「おう、カシム。これ見ろよ!」

 ファーンが俺に一冊の雑誌を、ページを開いた状態で見せてきた。

「ん?なになに?って、この本『ただちゆう』じゃないか」

 「ただ中」とは「ただいま冒険中」の略で、冒険者の情報をまとめた雑誌で、隔週発行している。主にギルドで販売しているが、結構人気がある雑誌だ。

「んん?え?!・・・・・・ちょっと何だよ、これ!?」

 開かれたページを見て、俺は思わず呻いた。

「『竜の団、大活躍』だってよ。白竜のところまで記事にされてるぜ。本当に『ただ中』に載っちまったな」

 ファーンが「ヒヒヒ」と笑う。

 まあ、それは載るだろうけど、俺が気になったのは記事の最後だ。「後日、密着取材を行いたい」とある。ちょっと面倒だぞ。これはいよいよ、さっさとメルスィンを離れた方が良さそうだ。

「まあ、載ったものはしょうがない。それと、俺たちのパーティー名は、変更不可能だな、こりゃ」

 ため息を付くと、天井を見上げる。

「良いじゃないですか、竜の団。素敵な名前だと思いますよ」

 リラさんがそう言う・・・・・・。

「いや、ちょっと安直かなぁと・・・・・・」

「でも、詩にする時、短くて使いやすそうですもの」

 ああ、そう言う基準か。まあ、詩人のリラさんが「良い」と言うなら良いか。問題は「隻眼竜」の方だな。これは恥ずかしい。しかも、なんら機能はしていないが、一応黒竜に目を入れて貰っているので、厳密にはもう「隻眼」とは言えないんじゃないかと思う。

「不満があるなら、その密着取材とやら受けた時にでも、もの申せば良いじゃないか」

 ファーンはまるで人事ひとごとだな。こうなったら、コイツの二つ名勝手に付けてやろうか。

 「逃げ筆記」とか「飾りの剣」とか、「間違えられた女」とか。フヒヒ。これは良い。

「お~い!何ニヤニヤしてんだ?気持ち悪い」

 この言いよう。よし、良い感じのを思いついたらメモっとこう。


 それから、俺のメシが出来たので、大急ぎで食べると、いよいよ受付に向かう。




 昼過ぎの冒険者ギルドは、やはり人が多い。冒険者が多いがそれ以外の人も多く利用しているようだ。 

 ファーンの言う通り、冒険者は冒険者とわかる恰好をしているが、商人や、普通のおばさんとかも、結構ウロウロしている。

 大都市の本部だけあって、受付の規模がでかく、総合受付の窓口が一番大きいが、目的がはっきりしている人が利用しやすいように、部門毎にもカウンターが設置されている。

 例えば、「依頼受け付け窓口」とか「パーティー斡旋窓口」、「相談窓口」等である。

 で、ほとんどの窓口の受付係は、強面のオッサンばかりで、実にむさ苦しい光景だ。そこかしこで怒鳴り声が響いている。

 まあ、換金所よりはましだが・・・・・・。


 で、俺たちは結局総合受付で順番を待つ。

 ミルは物珍しそうにキョロキョロしたり、依頼書が張り出されているところを見に行ったり、待ち時間も楽しそうだ。

リラさんが、ずっとニコニコしているが、その笑顔が張り付いた感じで、意外と緊張しているようだ。人が多いのが苦手なのかも知れない。

 考えてみれば、いつもはファーンと2人でギルドに来ていたから、リラさんと来るのは新鮮だ。

「名前出せば、待たなくていんじゃね?」

 いつも通りリラックスした様子のファーンは、新鮮味がないな。

「次の人ぉ!!」

 がなり声で受付から呼ばれたので、俺が代表して受付に行く。

「はいよ、どうした?」

 ぶっきらぼうな様子で、無精髭の男が俺に言う。

「ギルド長に面会したい。紹介状がある」

 男は訝しげにしたが、俺の冒険者証を見ると、顔色を変えた。

「あんた、本物か?!」

 マジマジと俺の顔を見てから、ハッとして頷く。

「お、おお。わかった。で、紹介状は?」

 俺はギルバート様からの紹介状を受付係の男に渡す。

「ちょっと待っててくれ」

 そう言い残すと、慌てた様子でカウンターの奥に消えていった。

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