獣魔戦争 決戦、その後 5
外には、飛行部隊8名が立っていた。全員が怪我もすっかり癒えていた。
「こいつらがお前たちを運んでくれる」
飛行部隊の手には、ロープにつながれた篭の様なものが付いた何かが握られていた。そして、ロープの先は、彼らの腹に巻いたベルトに付けられていた。
「ちょっと、まさか・・・・・・」
嫌な予感がする。
「おう!空の旅だ!」
マイネーが笑顔を向けるが、ちょっと怖い事になりそうだ。リラさんがすっかりおびえている。
「心配するな!人を運ぶのにも慣れてるんだぞ!」
マイネーがそう言うと、バレルが頷く。
「心配はいらない。最初だけちょっと揺れるから、しっかりロープにつかまっていてくれ」
そう言うと、篭を俺たちの前に置く。
篭は、丸く、足を出して座れるようになっている。篭の中には毛皮が敷かれていて、クッションもあり、膝掛けまで用意されていた。座り心地は良さそうで、背もたれもあるし、座るスペースも広いので、その気になれば寝そべる事も出来そうだ。
そして、丸くなった縁に4本のロープが付けられていて、その2本の先端が1人の腹のベルトにつながっている。
つまり、2人1篭、4組で俺たちを送ってくれるという事だろう。
「さあ、座って」
バレルに促されて、俺は恐る恐る篭に近づく。
「あのさ。参考までに聞くんだけど、一番飛ぶのが上手いのって誰?」
すぐにバレルが手を挙げる。すると、ものすごい早さでリラさんがバレルの腹につながっている篭に飛び乗った。
『ああ、ずるい』
俺たちはみんな、一度は空の旅をしている。白竜につかまれて空を飛んだ時だ。だからといって、空を飛ぶのが怖くないわけでは無い。
俺がもたもたしているうちに、ファーンもミルも、自分が乗り込む篭を決めてさっさと座っていた。
残ったのはグラルと・・・・・・ローリーだ。いや、ローニーだっけ?
昨夜もふんどし姿でセンス・シアたちと踊り狂っていたよな・・・・・・。
なんで、最高の笑顔で俺を見ているんだ?まあ、ミルを任せなかっただけ良しとするか・・・・・・。
「じゃあな」
マイネーの別れの一言はあっさりしていた。
飛行部隊が空に舞い上がる。
篭は意外にも滑るように上昇していった。確かに飛び立つ時に少し上下に揺れたが、その後はほとんど揺れる事も無い。
町の上空を北に向かって飛んで行く。
「ひゃっほーーーーーー!!」
「たのしぃ~~~!!」
ファーンとミルが大喜びしている。ミルは前回も大喜びだったが、ファーンもそうか・・・・・・。あいつ空中戦指揮のために、バレルに抱えられて空を飛び回っていたんだよな。すっかり慣れちまってた訳か。
俺はまだおっかなびっくりだ。
先頭を行くリラさんはどうしてるだろうかと思ったが、なんと前方から歌声が届いてきた。リラさんが歌を歌っている。それも、心躍るような明るい歌を。
その歌声を聞くと、足下を流れる景色も心地よく感じられる。
エレッサの町は、未だにモンスターに包囲されているが、昨夜よりも明らかに数が減っている。これならエレッサの町はもう大丈夫だ。犠牲は多かったが、町は救われた。
俺は篭に仰向けに寝そべって、空を見上げた。俺の頭上では獣化したグラルとローニーが、ゆっくりと翼を動かして、気流に乗って空を飛翔している。その上には青空と、ちぎれ雲が所々に浮いている。
こうして一つの旅が終わったのだ。
俺は大きくため息をついた。
その後、2日掛けて俺たちはグラーダの王都メルスィンにたどり着いた。
メルスィンの半径10キロメートルには、大きな市壁が張り巡らされていて、そこから先は飛行禁止となっているため、許可無く空から進入する事は出来ない。
その為、俺たちは市壁の手前で降ろして貰った。
思いの外、空の旅は快適だった。天気にも恵まれていた事もあり、俺たちは空からの景色にすっかり夢中になってしまった。
山や森、野原だった地形に、徐々に畑が見えるようになり、ちらほらと見えていた家が、だんだん増えていくその景色の変化が、見ていて飽きない。
そして、市壁に近づく頃には、すっかり下は建物に埋め尽くされるようになっていた。
俺たちを見上げて手を振る子どもたちや、行き交う馬車。洗濯物を干す母親たち。
地上を旅しては見られない景色がそこにあった。
こんな旅を、もう一度してみたいと思わせるほどの2日間だった。
なので、空の旅の終わりは少し淋しく思えていた。
「みんな、2日間ありがとう。楽しい旅だったよ」
俺たちは飛行部隊のメンバーと別れの挨拶を交わす。何とも別れ難い思いを感じつつ、握手を交わしていく。
「皆さんの活躍、今後も期待しています」
「族長の事も頼みますね」
バレルと4人は、このままエレッサに戻るが、他の3人はこの後、各地にエレッサの町の事を報告しに行かなければならない。メルスィンの冒険者ギルド本部にも報告する為、最後の1人、ケイトスが俺たちに同行して、市壁の中に行く事になっている。
帰るメンバーと、報告するメンバーを見れば、選出基準が頭の良さだと言う事が一目瞭然だった。選出メンバーはその事を十分わかっているが、帰るメンバーは恐らくその事に気付いていないだろう。
ちなみに、ケイトスは飛行部隊の中で一番頭が良いし、礼儀もわきまえており上品だ。
ケイトスはメルスィンの冒険者ギルド本部に、直接報告をしに行く任務を任されていた。良い人選だ。
市壁の外で、他の7人とは別れ、俺たちは市壁をくぐり、歩いてメルスィンに向かった。
少し歩くと、遠くに巨大な白い建物が見えた。
ほんの数ヶ月しか離れていなかったのに、やけに懐かしく感じる。俺にとっては幼い頃から、当たり前の様にそこにあった景色だ。
世界の中心と言われるグラーダ国の王城「リル・グラーディア」だ。
その光景に俺たちは思わず立ち止まって息を呑む。
見ると、周囲の旅人たちも、何人もがその場所で立ち止まって、白亜の巨城の威容にため息をもらして眺めているのに気付いた。
特に初めて見る人たちにとっては、感動を与える光景なのだろう。
俺はそこに向かい、闘神王に白竜、黒竜との会合について報告しなければいけない。あの闘神王と話をするのだと思うと気が重い。俺の成功を手放しで喜んだりするとは思えない。
そして、その先に何があるのかまだわからないが、きっとランダとの合流を果たしてみせる。
そう胸に誓って、俺たちは前に向かって歩き出していた。
第五巻 -完-
第六巻 「王都」に続く
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