獣魔戦争  決戦、その後 4

「最終的に、カシムが竜騎士になっちまえば、全ての面倒ごとも力業でどうにでもなるんだろうがな」

 マイネーがそう言って笑う。

 俺が竜騎士になれば・・・・・・か。

「とにかく、オレ様は大族長を辞めてお前たちの仲間になる。これは決定事項だ!」

 マイネーが断言する。だが、リラさんの意向を聞かずに決定できないだろ。

「リラさんはどう思う?」

 俺がリラさんに声をかけると、さすがにマイネーも黙って息を呑む。リラさん本人に断られたら、さすがのマイネーも無理を押し通す事は出来ない。

「・・・・・・私たちは、確かに今は力がありません。カシム君を守る力も、政治的な事から自分たちを守る力もありません。だから、マイネーさんのパーティー参加を断る事は出来ません・・・・・・」

 リラさんはうつむいていた顔を上げて、マイネーをキッと見る。

「でも、すぐに強くなって見せます!!侮らないでください!!」

 リラさんの決意表明に、ミルもファーンも手を叩いてはやし立てる。俺も鳥肌が立った。すごいな、この人も。

 マイネーがニヤリと笑う。

「ふふふ。さすがオレ様が惚れた人だ。本当にすげぇや。・・・・・・でも、オレ様はお前さんたちを侮ってなんかいないぜ。むしろとことん尊敬している。誰にも真似できない事をやってのけたお前さんたち一人一人が、この町に住む全ての人間にとっての英雄だ。誰が侮れようか」

 そう言うと、マイネーが立ち上がる。


「おう!!みんな!!この町の最高の英雄は誰だ?!」

 マイネーの大声に、周囲にいた人々が声を揃えて叫ぶ。

「竜の団!!竜の団!!竜の団!!竜の団!!」

 叫び声がどんどん広がっていき、俺たちを讃えるエールとなる。

 俺たちは自然と立ち上がった。そして、俺たちに歓声や笑顔を向けてくれる人々の顔を見回す。

 町中あちこちで響く「竜の団」の声。

 広場で、道で、家の中から、2階の窓から身を乗り出して叫んでいる人もいる。

「ほら見ろ!!お前たちは全員が、オレ様たちにとっての英雄だ!オレ様もお前たちの事を英雄だと思っている!!」

 マイネーが両腕を挙げて笑う。そして、リラさんに片目をつぶってみせる。

 リラさんが照れたように頬を赤らめて、ようやく笑顔を見せた。

「さあさ!オレ様たちの、最高の歌姫が、今日の戦いを戦い抜いた者たちの為に、歌を歌ってくれるぞ!!!」

 マイネーが叫ぶと、広場の中央にいた人々がサッと広がって舞台を作る。

 そして、恭しくお辞儀をして手を差し伸べるマイネーの手を取って、リラさんが舞台の中央に進み出た。

 俺は何かの物語を見ているような心持ちになって、その光景を眺めていた。

 そして、リラさんが、歌を歌い始めると、町中がその歌に耳を傾ける。 

 穏やかに聞いたり、涙を流したりしながら。

 歌が今日の戦いでの様々な痛みを、そして悼みを洗い清めて行くようだった。

 






 翌朝早くに、俺たちは大テントに集まっていた。

「カシム。オレ様はまだすぐには旅に参加できない」

 マイネーが言う。昨夜、あの後2人で話したので、その事は承知している。

「大族長を辞めたり、後任を決めたり、ごちゃごちゃとあるからな」

 マイネーが苦々しく笑う。

「後任の当てはあるのか?」

 マイネーは即答した。

「ある。オレ様のお袋だ」

「ええ?!」

 そんな後任ってあるのか?

「何だよ?!オレ様のお袋は他の部族の族長をしてんだぞ。しかも狂王騒乱戦争にも参加していたんだ。軍事経験豊富だぜ!持ち回り的にいっても無理はねえはずだ」

 そう言ってから、声を潜めて付け加える。

「しかも、すっげぇ怖ぇんだぜ。オレ様も族長会議の度にタジタジよ」

 その様子にリラさんがクスリと笑った。その笑顔に、マイネーが穏やかな笑みを浮かべる。


「そうか。それならそのうち合流してくれ」

 俺が言うと、ファーンが続けて言う。

「でもよ、マイネー。ウチのリーダーはカシムだからな!」

 何を確認してるんだよ。別に俺じゃなくてもいいだろ。

 そう思ったが、マイネーが呆れたように言う。

「当たり前だろ?カシムがリーダーだとオレ様も居心地が良い。適当に判断を任せときゃ良いんだからな」

 何だと?

「お前、それって随分じゃないか?!」

 俺が抗議するが、仲間たちはみんな、意味深な表情を浮かべる。

 だが、思い返してみたら、マイネーの奴、いつの間にか俺に色々判断を任せるようになってきてたな。あいつ、楽してやがったのか?

「まあ、カシムをリーダーって認めるなら、オレもマイネーの参加には反対しねーよ。戦力的に当てにさせて貰うぜ」

 ファーンが言う。

 それは言えるな。戦力は大いにアップする訳だ。


 それから、俺は言わなきゃいけない事を思い出す。

「そう言えば、火炎刀、壊してしまってすまなかった」

 そう言うと、マイネーが少し淋しそうに笑う。

「いや。あれは、お前が振れた時からお前にやるつもりだったんだ。どうせ他に誰も使えないんだからな」

 そうなのか・・・・・・。

「それによ。あいつも最後に自分の主人を守るために力を使えたんだ。本望だろう」

 そうか。マイネーにとってあの火炎刀は友人の様な感覚だったのか。そう思うと切なくなってくる。

「・・・・・・そうか。俺が不甲斐ないばかりに、火炎刀に無理をさせてしまったんだな・・・・・・」

 俺の言葉に、マイネーが苦笑を浮かべる。

「そう思ってくれるんなら、せめて『ブレイブブレイド』ってちゃんと呼んでやれよな」

 ええ~。それはなぁ・・・・・・。ブレイブブレイドなんてちょっと恥ずかしいし、火炎刀の方がかっこいいし、あの刀の見た目にも合ってるしなぁ・・・・・・。

 しかし、あれ、もらえる感じだったのか・・・・・・。そう思うと更に失った事が残念でならない。あんな特別な武器を手にする事なんて、生涯無いのではと思う。・・・・・・残念だ。

「とりあえず、お前らは急いでグラーダに向かわなきゃ行けないんだろ?だから、特別便を手配したぜ」

 そう言って、マイネーが大テントから外に出る。俺たちも続いて外に出た。

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