獣魔戦争  決戦、その後 2

「俺は緊急クエストが発令されたので、急いでレグラーダに向かった。カシムたちは緊急クエストについては聞いているか?」

 俺たちは頷く。

「俺も黒ランクだから参加する必要があった」

 ランダの言葉に全員が頷く。

「そして、レグラーダに付いたら、エレッサの町がモンスターの大群に包囲されていると知った。冒険者ギルドは、今は動けない。それに、エレッサの町は防壁に囲まれた町だし、英雄がいるから、緊急性はそれほどでも無いと判断された」

 ランダの話に、マイネーが鼻息を荒くする。

「やっぱりな!!そりゃあ、緊急クエストの方が重視されるわな!!ったくよ!!」

 俺たちに緊急クエスト発令の知らせを運んで来た鳥獣人のエルンには、そのまま再びレグラーダに救援要請を届けて貰ったのだが、結局無駄になったようだ。今頃事の重大さを知って、慌てて増援部隊を組織して送り込もうとしているだろう。

「俺は、カシムとレグラーダで合流できるかとも思っていたのだが、タイミング的にも・・・・・・。その、カシムの性質から言っても、恐らく巻き込まれているのではと思った」

 ランダの言葉に俺は憤慨した。

「なんだよ!俺の性質って?!」

 ランダが苦笑する。しかし、その表情が見えにくいので話しづらい。俺と同じ事を思ったのか、ミルがランダの頭からフードを外す。

「あたし、ランダの顔見て話したい。だって、すごく優しい目をするんだもん」

 ミルの言葉に、一瞬驚いた表情を浮かべたランダは、ミルを優しく撫でる。

「わかった。俺はお前たちの仲間だからな」

 ランダが顔を隠すのには理由があるのだろう。色々な所から裏の依頼を受けていたと言う話だったからな。だが、俺たちは仲間だし、俺たちの仲間になったからには、世界中に名前も顔も知られてしまう事だろう。素性を隠す事はあきらめた方が良い。

 ランダは俺の方を見て、少し意地悪そうな笑いを浮かべる。

「そうだな。カシムが関わるとなると、恐らく報告よりも面倒な大事おおごとになっていると思ったから、急いで駆けつけたわけだが・・・・・・。俺が間違っていたか?」

「んぐっ・・・・・・」

 そう言われると返す言葉が無い。確かに俺たちの予想を遥かに超えた事態に陥っていた。ランダが来てくれなければ、恐らくもっと被害は大きかったし、もしかしたら俺たちも命を落としていたかもしれない。

「ひっひっひっ。ちげぇねぇや!!」

 ファーンが大笑いする。一緒になってマイネーも笑い声を上げる。

 クソッ。腑に落ちん・・・・・・。

「ともあれ、間に合って良かった」

「ああ。それは助かった」

 俺が答える。すると、ファーンが唸る。

「それにしても、ランダ。あんたとんでもなく強いな」

 全くだ。俺たちの苦労を、たった1人で解決してしまった様なものだ。

「それは違うぞ」

 ランダが真面目な顔で言う。

「俺は状況を判断して、持てる最大限の力を出しただけだ。出し惜しみ無くな・・・・・・」

 つまり、最終奥義を立て続けに繰り出したというわけだ。

「魔法障壁が最後の魔力だった。つまり、それだけギリギリだったって事だ。最終兵器を信じていたからこそ出来た事だ」

 つまりマイネーの戦力を見越して、あの場で力を使い果たした訳だ。とんでもない決断力だな。

 そう言えば、さっきからランダが飲んでいる赤い液体はマナポーションか?にしては透明度が高く輝いて見える。もしや、最高級品のポーションか・・・・・・。


 そこで、ランダが立ち上がる。

「どうしたんだ?」

 ファーンが尋ねると、ランダが全員の顔を見回してから笑みを浮かべる。

「俺は先にダンジョンで待っている」

 ダンジョン?緊急クエストの対象になっている、魔物が出現しているダンジョンの事か?

「『待っている』って言われても、俺たちは青ランクだぞ?」

 緊急クエストの対象は、2つ上の黒ランク以上の冒険者だ。

 するとランダが呆れたようにため息をつく。

「何を言っている?竜との会合に2回成功していて、エレッサの町防衛でも功績を挙げたんだ。黒ランク以上になるのは確定だろう?」

「ああああああああっっ!!」

 俺とファーンが叫ぶ。


 そうだった!!確かに普通に考えれば白竜、黒竜との会合を成功させた上に、黒竜の略奪行為を止める誓約まで取り付けた。その上に、今回もそれなりに功績を立ててしまったのだ。下手をしたら銀、いや、金ランクになってもおかしくない。

 俺としては、たいした事をした感じが全くしないのに、起こった事象だけを聞かされると、とんでもない功績に聞こえてしまう。本当に実際はたいした事はしていないのに・・・・・・。

 白竜の方は、死にかけたけど、白竜自体は俺の事を待っていたっぽいし、黒竜とは一緒に風呂入って、楽しく買い物したりした思い出だ。

 今回はがんばったけど、それは他に戦闘指揮が執れる奴が、この町にいなかったってだけで、そうで無ければ俺が出しゃばる必要なんてなかったはずだ。

 ちょっと、評価が先行し過ぎてしまいそうな実績になってしまった。レベルだって低いのに・・・・・・。

「やべえよカシム!!」

 ファーンがうろたえる。

「ヤバいな、ファーン!!」

 俺もうろたえている。

「おかしな奴らだな。普通の冒険者はランクを上げるのに必死になっているってのに、お前らときたら、ランクが上がるのを嫌がってやがる。名誉とか、栄光とか欲しくないのか?」

 マイネーが首を傾げる。

「そんなものいらない!」

 俺は即答する。

「俺はさ。本当は騎士でも冒険者でも無く、考古学者になりたいんだよ!」

「なんだそりゃ?」

 マイネーが首を傾げるが、説明するのももう面倒くさい。

 ランダが告げる。

「そういうことだ。もし、ランクが黒で無くても、お前なら勝手に巻き込まれてダンジョンに来そうだがな」

 ランダの言葉にマイネーが笑う。今度はファーンは笑わない。すごく嫌そうな顔で俺を睨んでいる。言いたい事はわかったから、今は言わないでね・・・・・・。

「とにかく、俺はダンジョンに用がある。なんとしてもダンジョンの奥にたどり着く。だから、先に行って待っている。今度はお前が俺を助けに来てくれる事を期待している」

 ランダにそうまで言われたら嫌とは言えない。

「わかった。出来るだけ急いで向かう」

「その前に、ちゃんとグラーダに報告に行くんだぞ」

 ランダに念を押されてしまった。それが一番の急務だったな。何だかランダは俺の兄みたいだ。いや、実際の双子の兄たちではなく、なんて言うか、普通の兄妹の兄的な・・・・・・?


 俺はランダと握手を交わす。すると、その手に、ファーン、ミル、リラさんも手を重ねてきた。

「無茶するなよ」

「またね」


 仲間たちの言葉を受けて、ランダはその場を去って行った。

 未だにモンスターの包囲は続いているが、ランダなら、問題なく突破することだろう。

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