獣魔戦争  決着 4

「い、いや・・・・・・。今のうちだ!敵が目をくらませてる間に前進するぞ!!!」

 俺は全力で誤魔化した。何がそんなに嫌なのか、やっぱりわからないが、とにかく効果があった。これから出来れば多用したいコンボ技だ。

 

 俺たちが撤退を始めて、押し寄せるオークを切り抜けて行くと、背後ですさまじい閃光が炸裂し、俺たちの景色を白く染め上げ、影を前に伸ばしていく。

 次の瞬間、ドッゴオオオオオオオンンンン!!!!という爆音が轟くや、強烈な爆風が襲ってきた。ほぼ全員が地面に倒れたり、膝を付いたりして爆風に耐える。小石なども容赦なく降りかかってくるので頭を抱えて防御する。

 先頭のミルはランダに守って貰っている。


「やった・・・・・・のか?」

 この爆発は、間違いなくマイネーが起こした物だろう。とすると、オゥガロードを仕留めたのだろうか?

 爆風が収まると同時に、とにかく俺は叫んだ。

「今だ!敵の足は止まっている!!敵に構わず、ただ町に走れ!!!」

 周囲にはまだ、爆風で舞い上がった土煙が立ち込めているが、それが晴れるまで待っているような愚は犯さない。

 味方もすぐに立ち上がると、町まで走る。


 敵本陣を抜けて、盾隊を残してきた、敵第一軍の辺りに差し掛かる。すると、何人かの盾隊の生き残りに遭遇した。

「盾隊を救出!負傷者に手を貸せ!負傷者は構わず先に町に進め!!」

 現在、負傷者や死者を抱える兵士がほとんどで、身一つで動けるのは俺たちパーティーを除けば20人程度だ。

 その20人で盾隊を救出、捜索しながら町に急ぐ。

 煙が晴れても、敵はぼんやりと立ち尽くしていて、俺たちに一切見向きもしない。

 オゥガロードの支配が解けているのだ。いつ動き出すかわからないが、確かに完全停止している。この隙に、何としても町に戻らなければならない。

 負傷者や、死者を抱えた兵士たちは、無事に防壁にたどり着いた。そして、開いた隙間から町に入っていく。

 俺たちは、敵第一軍の中に残り、盾隊や、それ以前に倒れた兵士を探す。

「いたぞ!生きてる!!」

 声が上がった。生きている者、すでに事切れている者が複数見つかった。体の一部しか発見できなかった者もいる。

 彼らを担いで、俺たちも町に向かう。


 だが、その時、突然モンスターたちが動き始めた。目に狂気の色を浮かべて、俺たちを見ると、一斉に、無秩序に襲い掛かろうとしてくる。

「やはり必要になったな」

 ランダが光の鎧の力で浮き上がると、腰に納めた光の剣を抜き放つ。

「光の剣、四式発動」

 そう言うや、ランダが光の剣を頭上にかざした。鍔の赤い宝石が輝くと、光の剣から、放射状に細い光の針が放たれる。無数の光の針は、広範囲に広がり、周囲を取り囲むゴブリンやコボルトたちに突き刺さり貫通する。そして、爆ぜる。

 連続して爆音が轟く中、ランダが叫ぶ。

「今だ、カシム!」

 ランダが言うまでも無く、俺は号令を掛ける。

「撤退だ!町へ走れ!!もうこれ以上誰も死なせるな!!」

 見つからない兵士は、もう置いていくしか無い。生きている者を守らなければならない。

 ランダが作ってくれた道を、全員が走る。

 射程範囲外にいたモンスターたちが襲い掛かって来るのを、切り払いながら進む。敵の攻撃は散発的で単調なので、軍としてまとまっていた時より、遥かに対処がしやすい。

 


 そして、ラニカ老の指示で再び開いた防壁の裂け目から、俺たちは無事に町に戻る事が出来た。


 俺たちが町に避難し終わると、弓隊が牽制しつつ、獣人たちが急いで再び防壁を閉ざしていく。

 敵の統率力が失われた今、もう北門、南門への破城槌での攻撃も止まり、外でモンスターが叫んだり、笑ったり、互いに殺し合ったりする音や声が聞こえて来るのみである。

 ひとまずは助かった・・・・・・。



◇      ◇




 激しい爆発があった、爆心地に向かってバレルとローニーが舞い降りる。周囲に沢山いたオゥガは跡形も無く吹き飛んでいる。

 地面はすり鉢状にえぐれていて、爆発のすさまじさを物語っていた。

 その中心地には、マイネーが仰向けに倒れている。人の姿に戻って、全裸である。右手に斧、左手に、銀の冠を持っている。

 そして、バレルたちを見て、疲れ切ったその顔に笑みを浮かべる。

「やりましたね、族長」 

 バレルが手を差し出すと、マイネーは右手の人差し指一本を伸ばす。その指をバレルが掴んで、マイネーを引き起こす。「もうヘトヘトだぜ」

 そういうマイネーには傷一つ無い。オゥガロードに圧勝したのだ。

 ランダの魔法で、敵の半分近くが行動不能にされたとはいえ、オゥガも全滅していた。


「味方も無事に町に戻れたようです。我々も戻りましょう」

 バレルがそう言うが、マイネーが口をへの字に曲げる。

「おい!バレル、ズボン貸せ!」

 マイネーは自らの技で服が燃えてしまい、今は全裸である。

「英雄の凱旋が全裸じゃ格好つかないだろ?」

 バレルがため息をつく。

「嫌ですよ。それに今回の英雄は族長じゃ無い。カシムとその仲間たちでしょ?」

 バレルの言葉にマイネーが情けない表情をする。

「そうだけどよ。ズボン貸してくれよ~。この技使いたくない理由がこの有様なんだけどよ~」

「では私が!」

 ローニーが喜々としてズボンを脱いでマイネーに渡す。ローニーは戦闘時に負傷して、その時に上着も引き裂かれていたので、現在は、トリ獣人の下着である、前だけ隠した布切れ一丁でサンダルを履いているだけの状態になる。

「おお。ありがとよ。でも良いのか?空飛んでいくとなると目立つぞ?」

 マイネーは、そう言いながらも、奪い取るようにして急いでズボンをはく。サイズが違いすぎるのでピッチピチになるが、あるだけありがたい。

「構いません!幼女センス・シアたちの注目を浴びられるのですから!!」

 ローニーは、清々しい笑顔で答えた。

 ハーピーの毒にやられて、1人の若者の人生観が、すっかり変わってしまったようだ。マイネーもバレルも、今更ながらにハーピーを恐ろしいと思った。


 その後、バレルとローニーに片腕ずつ、足でつかまれたマイネーは、戦場を飛び越えて、多くの歓声と、センス・シアたちからの叫声に包まれながらの凱旋を果たした。


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