獣魔戦争  決着 2

 ランダの光の鎧は、「鎧」と言いつつ、胸の赤い宝石の付いた飾りから伸びた、細長い棒状のショルダーアーマーみたいな物だ。その棒状の物に、白いマントがつり下げられていて、さらにそのマントの外側に、バネ状のワイヤーでぶら下げられた金属の尖ったすいが17個付いている。

 その錘がランダの意思で自在に動くのだ。その錘を地面に打ち出して、ランダは空中に浮いたり、連続して打ち込む事で高速で空中を移動する事が出来る。

 そして、「鎧」と言うだけに、防御としてはもちろんだが、その錘は攻撃にも使える。


 ランダの光の鎧は、「オリハルコン」と言う、最高級な希少金属で出来ている。このオリハルコンは、「精神感応金属」と呼ばれていて、人の強い意志によって形状や性質を変化させる特殊な金属だ。と言っても、通常は、多少硬度が変化したり、伸びたりする程度なのだが、天才魔具師ムンクの手に掛かればこの通りである。


 錘は高速で動き回り、その動きは俺でも目で追いきれない。オゥガもオークも関係なく、射程距離に入ったモンスターを次々に貫き倒していく。

 しかも、防御兼攻撃を錘に任せて、ランダは高速で魔法を詠唱している。


『ファイヤー・アロー』


 ランダは魔法名の詠唱ですら、淡々と唱える。「ファイヤー・アロー」は火炎系魔法としては初級の魔法で、矢の形をした炎を飛ばす攻撃魔法だ。

 だが、ランダの「ファイヤー・アロー」は全く違っていた。

 ランダの前方に巨大な光る魔方陣が出現すると、炎の矢が無数に出現して、一気に前方の広範囲に飛翔して行った。炎の矢は、敵に刺さっても貫通して、後方の敵にもダメージを与える。

 当たり所が悪かった敵は、一撃で地面に倒れ伏す。刺さった箇所から火を吹き上げてのたうち悶える敵もいる。


 ちょっと、ランダさん、強過ぎです。ランダ無双しちゃってます。

 味方の兵士たちも、唖然として見ているじゃ無いか・・・・・・。

「い、今だ、一気に進むぞ!!」

 俺がその機を何とか逃さずに前進の指示を出す。なんとなく、ランダに殴られたときの事を思い出して、頬が痛んだ気がする。

「ミル、ファーン、リラ。怪我は無いか?」

 追いついてきた仲間たちとの再会に、ランダの頬が一瞬緩んだ。

「助かりました」

 リラさんが嬉しそうに言う。

 くあ、美男美女だ!眩し過ぎるペアだ!くっそう。

 「光の鎧」とか強過ぎるんだよ!見た感じは、言ったら悪いんだけど、それ、鎧と言うより「カーテンレール」なんですけど!!にしても、そのカーテンレールが強過ぎでしょう!!何から何まで反則だよ!!ああ、味方で良かった!!

「おっせーんだよ」

 俺のひがみを余所に、ファーンが笑いながら、遠慮無くランダの肩を叩く。光の鎧を展開してるのに、良く平気でランダの肩を叩けるものだと、俺なんかは思ってしまった。幸いにも、全自動防御の鎧では無いようだ。

「ランダ。元気だった?」

 ミルが笑いかけると、ランダの表情が明らかに穏やかになる。確か親族なんだよな。


「さあ、最後の仕上げだぞ」

 ランダはそう言うと、再び最前列に飛び出す。

 光の鎧に防御を任せて、再び魔法の詠唱を始める。


『ビーアース・ドヴュレーヌ・エレ・バリュース。阿骨打あくだ。セト。カリギュラ。饕餮とうてつ。マーラー。魔界の最奥に潜む魔神たちよ。闇の枷を解き放ち、そなたらの棲まう地に引きずり込め。アヌ・デイレイ。我希われこいねがう。古の呪法により、盟約を結びし魔神よ。地に堕とされし邪悪の権化、アーリマンの名の下に、我に力を示せ!』


 おいおいおい!!これって旧魔法じゃないか。リザリエ様が魔法改革をする前の、難解で、習得が困難な魔法だ。しかも、詠唱が長い。


『ゼアル・グゥーイード・レバンテン。我が名はランダ。闇の戒めよ、顕現せよ!』


 ランダの周辺に、無数の紫色の光の魔方陣が出現する。魔方陣が回転を始める。

 前方にいた味方が、その光を怖れて、ランダから距離を取る。俺も怖い。尚も詠唱は続いている。


 だがその時、俺たちは、オークと数十のオゥガで堅められた敵陣を突破する事に成功した。そして、すぐ目の前に、オゥガロードを最奥に守った、オゥガの大本営が迫っている。オゥガの大本営はその数約400。

 100のオゥガ参戦でも、あれだけ追い詰められたのに、まだこの先に400もオゥガがいる!

 俺たちに余力などもう残っていない。

 だが、やるしか無い!

 俺たちは武器を構えて突入するべく雄叫びを上げる。

「うおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」

 その瞬間に、ランダの魔法が完成する。


『グラビティ・レイ!』


 その瞬間、激しい耳鳴りが発生して、思わず耳を押さえる。周囲の味方も、みんな苦悶の表情を浮かべて耳を押さえている。ランダの魔法の発動に、全員が足を止めてしまう。そして瞠目する。


 ランダの前に展開された、紫色に光る無数の魔方陣の一つ一つから、これまた無数の黒い光が一直線にオゥガたちを貫いていく。

 黒い光線に貫かれた敵は、ガクガク震えて地面に倒れ伏す。必死に抵抗を見せるが、どう足掻いても地面に立ち上がる事が出来ずに、地面に縛り付けられたようになっている。

 その数約200。


「み、道が開けた・・・・・・」

 俺は呆然と呟いた。

 その時、呆然と立ち止まった俺の横を、大男が通り過ぎる。

「良くやったな」

 マイネーだ。マイネーは俺を追い越しざまに、俺の肩をポンと叩く。

「お、お前こそ、よく我慢したな」

 味方が倒れていく時に、戦わずに堪える事など、至難の業だったに違いない。

「なぁに。・・・・・・信じていたからな」

 そう言ったマイネーが、一瞬だけ振り返り、ニヤリと笑う。

 そして、無言でランダを追い抜き、先頭に出る。

「ここからはオレ様に任せろ!」

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