獣魔戦争  決着 1

 その瞬間、俺の眼前を光が通過する。

 光の帯が俺の前に一直線に伸びる。直線上にいた、オークもオゥガも、問答無用で切断され、光の帯より手前にある体の部分が地面にドドドドドドッと音を立てて落ちる音がした、次の瞬間、光の帯が爆発した。

 ズババババババーーーーーン!!!

 激しい轟音と共に、光の帯の周囲にいたオーク、オゥガがまとめて吹き飛ばされる。


 敵も味方も動きを止めて、呆然とその光景を見ていた。俺も世界の歪みが治っていくのを感じつつ、呆然と爆ぜた光の帯の残滓を眺めていた。

 シャーーーーーーーーーーーッ!

 光の発生源に目を向けると、北の森、つまり俺たちの右側に広がる森を突っ切って、もの凄い速度で空中約2メートルを飛んで来る白い姿がある。

 俺にはそれが何かすぐにわかった。

 白いマントを翻して、高速で飛んできた人物が、俺の前で止まり、フワリと着地する。

「遅くなった、カシム」

 エルフの高レベル黒魔道師で、俺たちパーティーの仲間、ランダ・スフェイエ・スだ。

「た、助かった。ありがとう」

 まさか、ランダが来てくれるとは思っても見なかった。一体何故、ここに来たのか?今の技は何なのか?気になる事は多々あるが、今は本当に助かる。

 

 ランダは、数年前に突如として現れた天才魔具師「ムンク」製作の、傑作と噂される「光の鎧」「光の剣」の光シリーズをもらい受けたという。そして、ランダは今、その鎧を身に着け、剣を手にしている。

「礼はいい。仲間だからな」

 ランダはそう言うと、一瞬の自失から立ち直ったオークやオゥガが押し寄せてくるのを一瞥すると、光の剣を横に構える。

「光の剣、二式発動!」

 小声で呟くと、光の剣のつばに収まる赤い宝石が怪しく光る。

 そして、剣を横薙ぎに大きく一閃する。

 光の剣から、光が伸びる、伸びる、伸びる。

 絶対切断の能力を持つ光の帯が長く伸びて、ランダの振る剣に合わせて、半円を描く。半径50メートルにもなる巨大な半円の範囲にいたオークやオゥガは、一瞬で真っ二つにされる。

しかもその後に・・・・・・爆ぜる。

 ドドドドドドドドドババーーーーーーーンッッ!!!

 爆発が半径50メートルの光の半円の外側に広がっていく。

 たった一撃で、100体以上の敵を葬ってしまった。

 

 敵の攻撃が一瞬収まった隙に、ランダは光の剣を鞘に収める。そして、俺の側に来ると、未だに立ち上がれないでいる俺を助け起こした。

「状況を手短に」

 ランダが俺に尋ねる。

 そうだ。今、何をするべきか考えなければ。呆けている場合じゃ無い。

 幸いにも、俺より早く衝撃から立ち直ったファーンが全体に指示を飛ばす。

「今のうちに集合だ!!負傷した味方を回収しろ!!負傷兵を中央に抱えて凸陣形だ!!!」

 的確な指示だ。助かる。

 俺はその間に、ランダに伝えるべき事だけ伝えた。

「敵の首領は『オゥガロード』だ」

 「オゥガロード」と聞いて、ランダの眉間にしわが寄る。これほど強いランダでも表情が曇るほどの敵なのか・・・・・・。

「状況は理解した。それで、最強戦力を温存している訳だな」

 ランダは、陣形の中央で、ただ腕を組んでいるだけのマイネーを一瞥する。流石に理解が早い。

「では突破口を開こう」

 ランダが平然とそう言い切る。しかし、光の剣を抜くそぶりは見せない。

「ランダ。光の剣は使わないのか?」

 あの攻撃なら、そのまま敵の本営であるオゥガの一軍にも切り込みを入れられそうだが。

「あの技は、1日3回が限度だ。・・・・・・それに、光の剣を使うと、時々刺さる・・・・・・」

 ランダが右腕を見せた。白いシャツの数カ所から血が滲んでいる。光の剣のデザインは、鍔の部分に赤い宝石が有り、そこから放射線状に無数の長い針の様な尖った装飾が伸びている。振るうと確かに腕に刺さりそうなデザインだ。

「改善するように頼んだのだが・・・・・・」

 ランダが少し悲しそうな表情をした。

「ああ・・・・・・それは・・・・・・」

 まあ、掛ける言葉は無いよな。

「だが問題ない。俺は黒魔道師だ」

 ランダが堂々と前進を始める。俺はあわてて、全体に指示を出す。

「凸陣形!前進!!」

 ランダを先頭に、走るのでは無く、歩いて進軍を開始する。ランダのおかげで、陣形を整える事が出来たし、負傷者、死者を囲い、運ぶだけの余裕が出来た。

「言うまでも無いが、オゥガロードを倒しただけでは戦は終わらないぞ。その辺りは考えているんだろうな」

 ランダに言われてハッとした。俺はオゥガロードを倒すところまでしか考えていなかった。

 だが、オゥガロードを倒したところで、モンスターたちは統制を失うだけだ。

 統制を失えば、逃げたり、消えたりする訳では無い。モンスターの本能にしたがって、無秩序に俺たちや町に襲いかかってくるだけだ。そうなると、町の防衛の方はしやすくなるが、戦場にいる俺たちは、逆に大混戦になってしまう。

「フウ・・・・・・」

 ランダがため息をつく。

「まあ、相変わらずと言うわけか。オゥガロードを倒したら、支配が解けて、モンスターたちの動きがしばらく止まるはずだ。その隙に町に逃げ帰るのが良いだろう。迅速に動けるように準備をしておけ」

「お、おお。そうか・・・・・・」

 危なかった、危なかった。完全に何も考えていなかった。

 ゴブリンロードは、まだ何体かいるかも知れないが、ゴブリンロードも、オゥガロードに支配されているのだから、同じくしばらくの行動停止と、更に再支配の時間の猶予が俺たちには与えられる事になりそうだ。

 その「しばらく」が、どの位の時間かはわからないが、その隙に逃げるしか手は無いだろう。

「来るぞ!左右の敵はまかせた」

 敵のオークやオゥガが、先頭のランダ目がけて群れをなして襲いかかってきた。

 しかし、ランダの身にまとっている光の鎧によって、敵はランダに近づく事も出来ず、次々と地面に倒れていく。

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