獣魔戦争  特攻 6

 俺の声が届いたのか、徐々に味方が集まって来た。

 しかし、無情にも戦場に倒れていく兵士もいる。集合した味方の数が明らかに減っている。

 集まった兵士の中にも、手傷を負ったり、仲間に担がれて来たりしていた。もはや生きてはいないであろう味方の体を引きずる者も・・・・・・。

 死体であろうと、回収して町に連れ帰ってやりたい気持ちはよく分かる。もし、この場に残していけば、その体はモンスターどもに食べられてしまう事となるのだ。

 今は命の無い者の体まで護りながら戦う余裕など、微塵も残っていないので、置いて行くように命令する事も出来たが、俺はそこまで非情にはなれなかった。


 大切な仲間を殺された兵士が、目を真っ赤にして仲間の死体を担いでいる。悲しみと怒りで気も狂わんばかりの表情をしている。

 次第に力がなくなっていく友の名前を、懸命に叫び続ける兵士もいた。

 この数日で、俺も共に戦い、顔も名前も覚えた奴も、言葉を交わした奴も倒れていった兵士の中にいる。

 これが戦なのだ。被害が出るのはわかっていた。元より成功率の方が少ない作戦だ。わかってはいるが辛い。

 後方に置き去りにしてきてしまった盾部隊は、一体どうなっているのかも、もうわからない。ただ無事を願うしか無い。

 それでも、全滅してしまわない為にも、前進しなければいけない。



 俺はかなり大きな矛を構えて叫ぶ。

「一点突破だ!!続けぇぇ!!」

 そして、矛を構えたまま、今持てる全力での「圧蹴」で、正面のオゥガに突進する。


 「圧蹴」の勢いでオゥガに矛を突き立てる事には成功したが、オゥガは一撃では倒れなかった。

 矛に胸を貫通されたオゥガは、ニヤリと笑うと、矛を握る俺の手を、矛の柄ごと握って捕まえ、思いっきりのけ反って、自分に刺さった矛の柄ごと俺を地面に叩きつける。

「ぐあっっ!!」

 激しい衝撃に、景色が歪む。平衡感覚が狂って、立ち上がる事も出来ない。

 後方で青ざめているリラさんの顔が見えた。かなり歪んで見えるが、何をしようとしているのか、すぐに理解した。

「リラさん!ダメだ!使うな!!」

 もつれそうになる舌を、必死で動かして叫ぶ。

「でも!!」

 リラさんの声が届く。リラさんは、また精霊魔法を使おうとしていた。

 だが、昨日の大魔法で、「眠っていただけ」とはいえ、ほとんど死んだ状態になったのだ。あの状態がいい状態なはずが無い。精霊魔法を使わせる訳にはいかない。


 幸い、俺を叩きつけたオゥガは、自らの無茶な行動のせいで絶命して動かなくなったが、すぐに他のオゥガが俺に攻撃を仕掛けてきた。

 無我夢中で地面を転がって逃げようとするが、実際はどこから攻撃されているのかもわからなかった。

 敵の攻撃をかわせたのはたまたまだ。だが、それが何度も続くはずが無い。

 俺は、今日2度目の「絶体絶命」を悟った。

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