獣魔戦争  緊急クエスト発令 3

 そのまま俺たちは、町の中を歩いて回り、1時間ほどかけて、ざっくり町の被害状況を確認した。

 町人たちも、兵士たちも、暗い表情をあまり見せずに、懸命に自分の出来る事をしている。

 怪我の治療が済んだ兵士たちも、持ち場に戻り始めていた。

 疲労困憊していたのは、回復魔法をかけ続けている魔法使いたちだった。ようやく一段落ついた彼らは、順番に休憩をしていて、休みに入った魔法使いが、死んだように眠っている姿が壮絶だった。

「今日は魔法使いたちは使い物にならないな」

 マイネーの言葉に頷く。

「レックはいけるんじゃないか?」

 俺がそう言うと、マイネーが頷く。

「そうだな。後3人ほど、回復魔法が得意じゃない奴らがいるから、温存させている。飛行部隊に魔法付与させる奴らが必要だからな」

 さすがはマイネーだ。ちゃんと考えているな。おおざっぱな性格に見えて、実はきめ細かい配慮が出来る男らしい。そんな所が俺とは全然違う。

 俺はファーンはおろか、ミルにまで「ダメダメだね~」と言われてしまう位だからな。そして、自分では何が「ダメダメ」なのかがわからない。


 ・・・・・・何故だろう?

 気がつくと俺が先頭を歩いている。最初は気にならなかったが、防壁の上に到着した辺りで違和感を感じた。

 なぜマイネーが先頭でリードしてくれないんだ?

 俺がジ~ッとマイネーを見る。

「ん?どうした、カシム?」

 マイネーがキョトンとしたように言う。

「・・・・・・いや、何でも無い」

 ま、あまり気にする事も無いか。それより、防壁から敵の動きを見ると、今は再編して、今日中にもう1回仕掛けてくる気配がある。

「また来るな」

 マイネーがボソリと言う。俺とファーンも頷く。ファーンにも、敵の動きがわかるのか。たいしたものだ。

 冒険者のステイタスには「賢さ」「知識」が反映されないが、もし反映されていたとしたら、ファーンのレベルは3などでは無かっただろう。


「次はどう来る?」

 マイネーの問に、俺は考える。モンスターの考える事はわからない。だが、人間であれば、包囲状態で、波状攻撃をかけながら、一つの門に戦力を集中してくるだろう。それに、時間をかければ援軍が来るとわかっているだろうから、かなり強引に、数にものを言わせて攻め込んで来るのではと思う。

 俺が考えを述べると、マイネーがアゴを撫でながら、「なるほどね~」と言う。

 ま、マイネーも予想していた事だとは思う。

 俺はチラリとファーンを見る。ファーンは手帳に俺の言葉を書き取っていたが、俺の視線に気付くと、顔を上げて戸惑った様に半笑いを浮かべる。

「あのよ・・・・・・。オレに意見を求めるなよ。もう指揮はこりごりなんだ」

 まあ、そうだよな。でも意見も聞いてみたい。

「指揮とかじゃ無くって、相棒の意見を聞きたいんだ」

 俺がそう言うと、ファーンが頬を膨らませる。

「お前さ。『相棒』って言えばオレが何でも言う事を聞くとか思ってないか?」

 ・・・・・・思って・・・・・・ない。多分。

「うわ、出た!カシム、お前また気持ち悪い顔してた!!すっげぇやらしい事考えてたろ?」

 ファーンが自分の身を庇って俺に言う。

「ちょ、おい!や、やらしい事は考えてない!やましい思いがあっただけだ!!・・・・・・あ」

 失言した。ファーンがジト目で俺を見る。

「ほら。やっぱりそうだ。カシムはオレを都合のいい女としか思っていなかったんだ」

 ファーンがとんでもない事を言う。

「カシム。それはいかんぞ!女ってのは大事に丁寧に、ちゃんと気を遣って扱ってやらなきゃ失礼だろ?男も女がいないと生まれてくる事が出来なかったんだからな。ちゃんと尊敬しろ?」

 マイネーまで真顔で俺に説教を始めた。

「おお?!あんた、意外に良い奴じゃん!!」

 ファーンの言葉に、マイネーがもの凄いどや顔をすると俺に耳打ちする。

「な?最初の点が低い方が、その後の点の上がり方が良いだろ?」

 く・・・・・・。実地で証明されては、もう俺は兄貴の言葉を信じるしか無いじゃないか・・・・・・。よし、次からは初対面の女の人に印象の悪くなる態度を取っていこう。・・・・・・出来るかな?

「ま、話しを戻すぜ、最低なカシム君」

 ファーンが、完全には話しを戻す気は無い様子で俺に言う。

「オレの見た感じだと、なんかカシムが言った様には感じられない」

 ん?

 俺は改めて敵軍の動きを眺める。確かに、動きが少なすぎる。

「どうも、北門狙いの他に何かありそうだけど、ちょっとわからないな」

 そう言われるとそんな気がする。

「オレ様にはわからねーが、ファーンが言うならそうかもしれんな」

 マイネーがそう言う。しかし、ファーンも随分と信用を得たものだ。

 

 その時、空から鳥獣人が突然に舞い降りてきた。

「族長!!報告があります!!」

 その鳥獣人はオレは見た事がない人だ。息を切らしているので、相当急いで飛んできたのだろう。

「どうした、エルン?」

 マイネーの表情が厳しくなる。この様子はただ事では無いと感じる。

「は・・・・・・」

 エルンと呼ばれた鳥獣人が、すぐに応えようとしたが、俺たちに気付いて言葉を飲み込む。

「ああ。心配するな。この2人は信用できる。カシム、ファーン。援軍要請の為にリグラーダ方面に飛んでもらっていたエルンだ。飛行部隊の1人だ。他にも各地に飛んでもらっているから、今は飛行部隊が8人しかいなかったんだ」

 なるほど。近くの町や村なら、騎馬や獣化して走っても良いが、遠くとなると、鳥獣人の機動力は最適だ。

 この辺りの村や町にはギルドが無いからメッセンジャー魔法使いもいない以上、鳥獣人に情報伝達をしてもらうのが一番確実だ。


 エルンは頷くと、とんでもない事を報告した。

「族長。グラーダ、また、その周辺国に、冒険者ギルドから『緊急クエスト』が発令されました」

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