獣魔戦争  緊急クエスト発令 4

「何!?緊急クエストだと?!!」

 マイネーが怒鳴る。

「そ、それはどんな内容だ?」

 俺が尋ねると、エルンはまだ、俺をいぶかしんでいる様子だが、ちゃんと説明してくれた。

「はい。地獄の魔物が出現したとの事で、グラーダ近郊にいる黒ランク以上の全冒険者対象で緊急クエストが発令されました。モンスターが出現したのは、リグラーダ近くの町、デナン近くに新しく作られたダンジョンです」

 なんだって?!

「デナンだと?ここの近くじゃねーか!!」

 マイネーが険しい顔をして唸る。

 そうだ。デナンの町はレグラーダの南にある町で、ここから直線距離で100キロぐらいか。充分近いと言える。


「いつ発令された?」

 エルンが答える。

「魔物の出現が確認されたのは5月14日。発見した冒険者グループは1人を残してダンジョンで全滅。その後5月19日に報告を受けて調査隊がダンジョンを調査し、魔物の出現を確認。翌5月20日に緊急クエストが発令されました」


 エルンの報告に頭の中にカレンダーを描く。俺たちがエレッサの町に到着したのが5月22日だから、2日前に緊急クエストが発令された事になる。そして、モンスター軍がエレッサの町に襲来したのが5月23日だ。


「確認する。魔物ってのは、モンスターの事じゃねぇよな?」

 マイネーも同じ考えを持ったようだ。

 今エレッサの町を包囲しているモンスターが、ダンジョンで目撃された魔物ではないかという事だ。

「はい。間違いなく地獄の魔物だそうです。かなり強大な魔物が沢山ダンジョンに出現しているとの事です。その為に黒ランク以上の冒険者が集められています。6月1日までにレグラーダに集結してダンジョンに向かうそうです」

 エルンの報告に、マイネーが唸る。

「って事は、こいつらは無関係だって事か?」

 マイネーが忌々しそうに、町を包囲するモンスター軍を睨む。

「・・・・・・いや、マイネー。違うぞ」

 俺は黒竜たちとの会話を思い出す。そして、黒竜の記憶を通して俺が見た地獄の光景も一緒に思い出して、身震いする。

「どういうことだ?」

 マイネーが俺の方を見る。

「マイネー。俺は白竜や黒竜と会って、地獄について聞いてきた」

 マイネーとエルンが驚きの表情を浮かべる。

「白竜の噂は聞いているが、黒竜にも会ったのか?!良く生きて帰ってこられたな・・・・・・」

 俺は曖昧に頷く。危険と言うより、一緒に風呂に入ったり、楽しく過ごした記憶しかない・・・・・・。

「その話しはいいさ。まあ、とにかく、それによって、俺はかねてから言われていた『モンスターは地獄の尖兵』なんじゃないかという説が、正しいという確証を得たと思う」


 地獄の第三階層では、地獄の魔物たちが原始的ながら社会を築いていた。形も人間に近かった。

 しかし、もう一層下の第四層にいくと、魔物たちは俺たちの世界で恐れられている恐ろしく、不気味で、奇妙な姿をした化け物になっていた。そして、互いに殺し合い、喰らい合っていた。しかも残虐な行為を楽しんでいた。

 それは正にモンスターの姿と同じだ。

 そして、地獄の特徴は、下層に墜ちるのは簡単だと言う事だ。

 力の弱い魔物が捕食されそうになった時に、とっさに下層墜ちして逃げたとする。しかし、下層には更に力の強い魔物が捕食しに来る。それを繰り返し墜ちていくと、第六層にまで到達する。第六層には、『魔王』が存在していて、地獄の中にも支配関係が出てくる。

 そして、地獄のもう一つの特徴が、力が強い魔物程、下層に縛り付けられて、上に上がれなくなっていく。


 俺が想像するところでは、地獄の第三層の魔物たちが第六層辺りまで墜ちて、魔王等に体を作り替えられ、地上に送り出されたのがモンスターなのではないかと思う。

 モンスターはオゥガほどになっても、結局は第四層の魔物より弱い存在である。ならば、地上に送り出し易いのだろう。

 一般的に知られている「魔物」という奴は、間違いなく第四層で俺が見た怪物たちの事だろう。あと、人を惑わせるのは実体の無い第二層にいた奴らでは無いだろうか。

 だから、第三層の魔物は、モンスターとして地上に現れているのだろう。


 と言う事は、今回のモンスター軍の発生源は、恐らくそのダンジョンで、魔物が今もモンスターを送り出そうとダンジョンを支配しているのだろう。

 これ程の事を仕掛けてくる以上、間違いなくどこかの魔王が後ろで手を引いているに違いない。


「これはグラーダ王が言っていた聖魔大戦の前哨戦なのかも知れない」

 俺のつぶやきに、マイネーが片眉を上げて考え込む。

「そいつは大事おおごとだ。だが、今は差し当たって、この町の防衛をどうするかだ!いいか。はっきり言っておく!」

 マイネーが声を潜めつつ、厳しい表情で告げる。

「援軍は来ない!!」

 そうだ。そうなのだ。

 援軍が来ない。これが一番の問題なのだ。



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