獣魔戦争 緊急クエスト発令 1
大テントに集まったのは、マイネー、バック、バニラ、バレル、ラニカ老、それと、回復魔法の使い手で、マイネーを治療していた魔法使いジャニスである。
竜の団からは、カシムとファーンの2人だけで、リラがまだ目を覚まさない為、ミルがリラに付き添っている。
商隊の護衛隊長も参加している。本名は明かさなかったが、周囲から「赤目隊長」と呼ばれている。
一同、昼食を摂りながらの会議となった。
「まずは、今日の初戦は良く耐えきった。ご苦労」
最初にマイネーがそう言って会議が始まる。
その後、各所の戦況報告と、被害報告が出される。
その結果、敵の残存兵力は約12000。増援の気配は無い。
こちらの被害は死者が48名。その内兵士が18名で、義勇兵が29名。さらに戦闘支援に当たっていた町民からも死者が7名出ている。
怪我人は更に多い。重傷者が60名で、その内9名は兵士で、義勇兵が25名。戦闘支援者と、非戦闘員で26名出ている。
戦闘要員で明日の戦闘復帰が難しい者も数名いる。回復魔法のおかげで、怪我もすぐ治るが、万能では無い。
現在戦える者の人数は470名に満たない。
今後の状況によっては、兵士以外の町民も、支援ではなく、戦闘要員として戦に駆り出す必要も出て来るかと思うが、そうするといかんせん武器が足りなくなる。
それから、ファーンの指揮能力について、周囲から賞賛の声が上がった。賞賛を受けたファーンは、慣れない周囲の評価に、戸惑ってしまった。
ファーンは、カシムとマイネーが立てた作戦を遂行する為に、代理で指揮を執っただけではなく、防壁内での連絡系統を組織した。防壁上での戦闘要員を減らしても、櫓に兵を3人ずつ配して、全ての櫓との連絡がスムーズに行くようにしたのだ。その為、柔軟な人員配置がその都度出来たし、マイネーも、北門が苦戦している事を知り得たのだ。
ファーンは幼い頃より、自らの母親にも「いらない子」と言われ、母が失踪してからは、スラム街でも周囲に疎まれて蔑まれてきた。
アインに拾われて冒険者の道を目指すが、「探究者」という、戦闘に全く参加しない謎の職業を自称している為、誰からも「役立たず」と言われてきたのだ。
カシムと出会う直前に、冒険者ギルドのファーンの担当をしていた受付嬢に、叱られ、カシムと出会い、旅をしていく内に、ファーンも変わってきている。
それは、カシムが自分の「探究者」の役割に対して、何故か理解を示してくれているし、人の役に立つ為のヒントや、機会をくれているからだった。
また、カシムがリーダーとしても、人としても、未熟で頼りないところが見られるし、他のメンバーも問題がある。だから、このパーティーをまとめるのは自分だと考えだしてから、より周囲の役に立てるようになってきたと、自分では思い始めてきた。
そこに、いきなりこんな大役を任されたのだ。
カシムは、結果がどうあれ誉めてくれるに違いないと確信していたが、周囲からも誉められて、認められるとは思ってもみなかったのだ。
だから、いきなりの賞賛の嵐に、すっかり戸惑ってしまっていた。
「誇って良いんだぞ、ファーン」
カシムが嬉しそうに笑いかけるのを見て、ようやくファーンの顔に笑みが浮かぶ。
次にリラの精霊魔法についてだが、周囲には、あれが精霊魔法である事は伏せるべきだと結論づけられた。
その代わりに、「1年に1度の大魔法」と発表する事にされた。
精霊魔法は、地上人にとては謎だらけの魔法で、伝説とかおとぎ話の世界に出てくる、何でも出来てしまう魔法と、大部分の人が捉えている。
その為、リラが精霊魔法を使えると思えば、かなりリラに対して無茶な要求をしたり、いざとなれば、精霊魔法でなんとでも出来ると思い、戦いに対する姿勢が緩んでしまうのではという事だった。
ハイエルフの冒険者とパーティーを組んでいたマイネーのその判断は正しいと、カシムも賛成する。
カシムはセルッカに話してしまっていたが、セルッカは結局あの後もリラの側を片時も離れなかった様だ。
ファーンがカシムと入れ違いに入室した時に、セルッカがファーンに精霊魔法の事を聞いてきたので、ファーンが気を利かせて口止めをしておいたとの事だ。
「すまん、ファーン」
カシムが小声でファーンに礼を言うと、ファーンは「ヒヒヒ」と笑う。
「ま、そういうところだな、カシム」
カシムのミスをカバーできた事が、やはりファーンは嬉しい。
ミルとカシムについては触れられなかった。触れる必要が無かったからだ。ミルは一部の兵士からは「戦神」扱いされている。カシムの名前で、人々が奮い立っている。もはやエレッサの住人にとっては、敢えて語る必要が無いのだ。
それから、午後と、明日の防衛について話し合われた。
カシムはマイネーと南北に別れて今後の防衛の指揮を執る事となった。
「俺たちはそのまま東守備で良いのか?」
そう発言したのは、商隊の護衛をしていた赤目隊長だった。
「俺たちは、結局昨日からほとんど戦闘をしていない。楽で良いが、それでも報酬はきっちり払ってもらう事になる」
赤目のここでの発言は、報酬の出し渋りに対する牽制でもあるが、その真意は、激しく戦闘行為をしている連中から、赤目たちに、不満や非難の声が出ないかと言う事だ。
「あんたもわかっているだろう?裏の包囲はただの見せかけだ。形だけ包囲している。今後も恐らく裏は戦場になる事は無いだろう。裏が戦場になるのは、この町が陥落した時だ」
赤目がマイネーに向かって言い放つ。
赤目の発言の意図を理解した上で、マイネーが大きく頷く。
「何を言っているんだ?お前たちが裏を固めてくれているからこそ、オレ様たちは背中を預けて戦えるんだ。お前はファーンの指示に、実に的確に対応したらしいじゃないか。いてくれて助かったと思う。報酬はきっちり支払う。それに見合うだけの働きは示してもらっていると、オレ様は評価している」
マイネーがきっぱりと宣言する。すると、赤目がため息を付いてニヤリと笑う。
「なるほど。確かにあんたは獣人国の大族長だ。若いのにたいした器だ」
赤目が感心して言うと、マイネーは一つ頷く。
「そりゃあ、そうだ。オレ様だからな!」
その言葉に、赤目含む数人が笑い声を上げる。
「自分で言う辺りが可愛くないんだよな、コイツ」
ファーンがボソリと呟く。
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