獣魔戦争  アセロラジュース 5

「にしても、リラさん。・・・・・・良い体してるよなぁ」

 マイネーがテントの天上を見上げてニヤつく。

「リラさん、あからさまにお前を嫌ってる態度だったのに、気付かなかったって事は、お前、リラさんの胸ばっかり見てんじゃないのか?」

 俺がやや呆れて呟くと、マイネーがキョトンとした顔をする。

「はぁ?俺が見てたのはケツだ!お・し・り!!」

 何だと?!

「リラさんは良いケツをしていらっしゃる。腰のくびれも良いし、スリットからチラリと見えたり見えなかったりする太ももが、また良い。獣人どものように、いつも見えてると気にもならなくなっちまうが、奥ゆかしくも大胆に切り込みの入ってるあの服が堪らない。・・・・・・胸も良いが・・・・・・ちょっと小さいかもなぁ~」

 コ、コイツ。ちょっとでも良い奴だと思ってた俺がバカだった。マイネーは最低の馬鹿野郎だ!!

「マイネー!お前の為に言っておいてやるがな!」

「ああん?」

「リラさんの胸は大きめだ!しかも大きすぎない!実にちょうど良いサイズだ!!」

 コイツの間違いを正してやらなければ気が済まない。

「それに!『ケツ』『ケツ』言ってると、まるでリラさんのおしりが大きいみたいじゃないか!リラさんは腰が細いんだ!!だからおしりがちょっと豊かに見えるだけだ!!」

「・・・・・・なんだとぉ!?」

 マイネーのこめかみに血管が浮き上がり、俺を睨みつける。

「リラさんの胸は、確かに普通よりは大きめだが、オレ様の手を見ろ!!大きいだろうが!!オレ様の手のひらにはちょっとだけ小さいんだ!!それに俺は、リラさんのケツがでかいって話をしているんじゃない!そんな事間違ってもリラさんに言うなよ!安産型の良い形をしているって事だ!!」

「ケツについてはわかった!それについては異論は無い!だが、お前の手がでかいのはお前のせいだ!リラさんのせいみたいに言うな!!」

「っ!?・・・・・・確かにそうだ。これはオレ様の見解が間違っていた。謝罪する」

 よし、勝った。

「カシム。お前の言う通りだ。つまりリラさんは完璧だという事になるな」

 マイネーが唸る。

「しかし、そうか。カシムはおっぱい派か・・・・・・」

 そんな派閥に所属した覚えは無い。だが・・・・・・。

「マイネーはおしり派か・・・・・・」

 俺たちは、自然と握手をしていた。

 どうだ、ファーン!俺はお前とこういう話がしたかったんだ!なのにお前が女だと出来ないじゃないか。お前が唯一俺の相棒として欠けているのは、こういうところだぞ!!


「なるほど。オレがお前の相手をしてやれなくてすねていたのは、こういうことだったのか」

 俺たちは慌ててテントの入り口を見ると、ファーンがあきれ顔で立っていた。しかも、手帳に何やら書き込んでいる。

「な!人払いしていたのに!?」

 マイネーが叫ぶ。すると、バックが困った顔してテントに入ってくる。手には食事と酒の入ったやたらと大きいジョッキを持っている。

「族長。今更ですが、『アセロラジュースはどこを探してもありませんでした』」

 『アセロラジュース』が人払いの隠語だったのか。って言うか・・・・・・。

「ファーンさん?いつからそこにいらしたんですか?」

 ファーンがニヤリと笑って、手帳をひらひらと振って見せる。

「そりゃあ、『嫌われてないかなぁ~』とか『軽蔑されたりしないかなぁ~』とか、クヨクヨ考えちゃったりするタイプなのか?辺りからだな」

 うわ。最低な会話が始まる辺りじゃ無いか。その前、お前の事、散々褒めちぎってたんだけど・・・・・・。

「えっと・・・・・・。ファーンは俺の最高の相棒だよ。何一つ不満はございません・・・・・・」

 俺は、頭の芯から大量の冷や汗をかきながら、小声で呟く。

 俺の言葉を聞いたファーンが、ニヤニヤ笑いながらテントに入ってくる。そして、うな垂れる俺の肩に手を置いて囁く。

「そうだよ。オレはさ。お前の唯一の相棒だ。言いたい事、わかるよな?」

 あ、ああ・・・・・・。

「はい。今度、おいしいケーキを奢らせて下さい・・・・・・」

「ヒヒヒ」

 ファーンのいつもの笑い声が、魔物の嗤い声のように聞こえた。


 一方で、マイネーも回復魔法を使う女の人に怒られていた。

「人払いしておいて、あんな話し・・・・・・。最低」

「何だよ!人払いしたんだから、聞いてるなよ!」

 マイネーが抗議するが、女の人は無表情にため息を付く。

「大声、ダダ漏れ!」

 ああ。確かにエキサイトしてしまったと反省する。

 マイネーはまだブツブツ言っていたが、大人しく魔法による治療を続行してもらっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る