獣魔戦争 アセロラジュース 1
俺は町に戻ると、すぐに気を失ってしまったらしい。
気がついたのは1時間程してからだった。
気を失っている間に、優先的に回復魔法を使ってもらったようで、怪我はすっかり治っていた。ただ疲労感は残る。
目が覚めてまず俺は、まだ多少ふらつくものの、状況を確認する。
俺は、けが人を集めた中央広場近くの大きな建物であるい、集会場に寝かせられていた。集会場には仕切りが設けられていて、怪我の状況によって仕分けられていた。
俺の隣にはリラさんが、簡易ベッドに寝かせられていた。
パーティーメンバーと言う事で、俺はリラさんと一緒の仕切りの中にいた。
側にはミルとセルッカがいた。
ミルは俺が気が付く前から、俺にしがみついて、一緒にベッドに寝ていた。・・・・・・いや、眠っていた。
きっと初めての戦場で、昨日から疲れているのだろう。ハイエルフは眠る必要が無いと言うが、必要が無いだけで、ミルはむしろ眠るのが好きだ。
俺はミルを起こさないように、ゆっくり起き上がる。
その俺に気付いて、セルッカが俺に状況を教えてくれた。
セルッカは、回復魔法専門の魔法使いでは無いが、回復魔法を使える、今のエレッサの町では貴重な人員だったが、俺たちに付きっきりで対応していた。
セルッカは元々バニラ隊として、南門を守っていたはずだが、町に帰還した俺たちの治療に駆けつけたようだ。リラさん信奉者のようになりつつあるセルッカが、自分から志願して対応していたのだろう。
防壁の上で戦っていたセルッカは、当然リラさんのとんでも魔法を目撃した事だろう。更にリラさんへの信仰心が増したように見える。
そのセルッカが言うには、リラさんはかすり傷程度の怪我しかしておらず、それはすでに治療済みで、マナ不足で倒れたわけもないそうだ。一応マナポーションを霧状にして吹きかけて処置している。
俺の寝ていたベッドで、今も寝息を立てているミルが、寝る前にセルッカに話していた説明では「ちょっと精神世界に行ってるだけだから、余計な事しないで寝かせておくと良い」そうだ。
ミルにそう聞いていても、セルッカは心配で、俺の治療はおざなりに処置した後は、ひたすらリラさんの事を見つめていたそうだ。そう俺にズバリと言う当たり、扱いの差にモヤモヤするが、まあ、優先順位的には俺もそうしてもらって良かったとは思う。
人間が、あれ程凄まじい精霊魔法を使ったんだ。しかもあんな魔法を使ったのは、リラさんだって初めてなのだから、相当に消耗した事だろう。
「セルッカ、実はだな」
言っていいのか悩んだが、これは伝えておいた方が良いだろう。
「リラさんは、人間だけど、精霊使いなんだ」
「え?」
セルッカは目をまん丸にする。黒の中に金の混じった不思議な輝きをする瞳で俺を見つめてくる。黒く長い髪を、今は結んでいない。
セルッカが獣人化すると、黒猫風になるが、耳だけは白かった。獣化すると長い髪も、短い猫の毛になるのだから、獣人って不思議だ。部分獣化もできるので、色々便利そうだ。ただ、しっぽが生えるので、服のおしりの部分は布を掛けている感じだそうだ。万一にも風でめくれると結構セクシーな光景なのではと妄想してしまう。男性の服も同じ仕様だが、俺には興味が無い。
獣化するから、獣人は布面積が少ない服や、ゆったりした服を着ていて、獣化しやすいようになっている。
セルッカも、布面積が少ない服を着ているが、魔法使いを示す為に、マントを身に付けている。しかし、そのマントも、獣人らしく、黒地に色とりどりの刺繍が施されている。ビーズを縫い付けたりしていて可愛い上に、丈が短く、腰当たりまでも無い。
獣人のこうした衣装やアクセサリーは、今グラーダの都市部で流行しているので、お土産にしたら大変喜ばれる。
俺の言葉に、目をまん丸にしたセルッカが、俺に詰め寄ってくる。
「ちょっとそれ、どういう事ですか?」
流石に、すぐには俺の言葉の意味は、理解できないようだ。
確かに、人間が精霊使いだなんて、ちょっと常識では考えられない事だ。他にもそういう人がいるのかも知れないが、少なくとも俺は聞いた事が無い。
「リラさんには、精霊使いの素質があると、ハイエルフの里長に言われてな。俺たちが、このミルを助け出した功績の恩賞として、リラさんに上位精霊を付けてくれたんだ」
「ええええええ?!」
俺に詰め寄るセルッカのおでこが俺にぶつかりそうな距離になる。相変わらず女の人に免疫が無い俺としては、恐らく年上であろうお姉さんに接近されてドギマギしてしまう。
が、セルッカは俺に対しては扱いがぞんざいだ。俺の襟首を掴んで、左右に大きく振りながら叫ぶ。ああ。頭がクラクラするからやめて欲しい・・・・・・。
「ちょっと、カシムさん!もう一度ちゃんと説明して下さい!!」
俺、今結構、ちゃんと説明したよな・・・・・・。
俺としては、今の町の状況を早く知りたかったが、この様子だとセルッカはリラさんの事しか知らなさそうだ。
まあ、俺も疲れているしちょうど良い。ベッドに腰を掛けて、ミルの救出から、リラさんがシルフを付けてもらうところまでかいつまんで話し、今は精霊使いになる訓練をしているところだと説明した。
セルッカの目がどんどん輝きを増してくる。もう完全にリラさん信者になった。リラさんも流石に迷惑がりそうだ・・・・・・。困った物だ。
それで、初めてあんな大技を使ったので、精神力的な、精霊使いにとっての魔力のような「何か」を消耗しすぎたのだろうと話す。
精霊の事はハイエルフの判断に任せるのが一番だから、そのまま寝かせておいて欲しいと言うと、セルッカが力強く頷く。
「わかりました。リラさんの事は私がしっかり見ています。カシムさんは、戦況を確認して来て下さい」
「・・・・・・ああ。じゃあ、頼む」
俺はようやくセルッカから解放される事に安堵しつつ、建物の外に出る。
そうだ。俺たちは町に戻ったが、まだ戦闘が終わった訳では無いのだ。
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