獣魔戦争 カシム隊 7
そんなリラの思いを、恐らく全く感じていないであろうカシムは、ガルドの質問に表情を強ばらせて答える。
「ああ。わかっている。敵の大将はオゥガロードだ。この目で確認した」
オゥガとは、モンスターの中では最上位種で、高い知能と、獣人以上の筋力を持つ、大柄の種族だ。組織力もあり、通常は10体程度で行動している。
オゥガは高い知能と戦闘力と、組織力があるにもかかわらず、残忍さがゴブリン同様なので、出現すれば軍が出撃するレベルだった。
それほど出現率が多くないが、一度出現すると、村がいくつか壊滅状態になると言われている。
カシムたちは、オーク主体で構成された敵本陣に、数百のオゥガの姿を視認した。そして、その中央に、一際巨体で、頭に銀色の王冠をかぶったオゥガの姿を見た。
二万以上のモンスター軍を組織し、陣形をモンスターに強いるだけの統率力がある事が納得できた。
それは昨日、マイネーと話した事が確認出来たと言う事だが、予測が当たっても喜べる状況では無い。
『もしかして、聖魔大戦はもう始まってるのか?』
カシムの背中に冷たい物が流れる。
だが、そうした事を考えている時間は無い。刹那の思考を振り払うと、再びカシムが炎の刃を飛ばして叫ぶ。
「方向、右!!!密集隊形に移る!!!」
そのかけ声で、全員が再び直角にターンする。今度は一番右端にいた四番隊を先頭に、堀に沿って南西の小門めがけて走る。走りながら伸びていた陣形をまとめて、密集した陣形に移行する。
小門までは400メートル程だが、その前にはゴブリンたちの部隊、500が待ち構えており、背後と右側面からは、3000のゴブリン一軍が迫る。
敵本陣は追撃には参加せず、元の位置に戻っていく。
そのおかげで、堀とカシムたちを分断する敵はいなくなった。
『これは選択肢が一つ増えたかな』
カシムが思う。最悪の状況になったら、防壁から矢でロープを渡してもらい、堀を飛んで、ロープで防壁を登って町に逃げ帰る事が出来る。
ただし、それが出来るのはウサギ獣人とミルだけだ。他の兵士はウサギ獣人が町に逃げ込む間、弓矢で攻撃されたりしないよう、逃げる時間を稼ぐ為に、死力を尽くして戦わなければならない。リラはその時に逃げてもらうにしても、自分を含めて、他の獣人の兵士は戦場を離脱する事は諦めねばならない。これがマイネーだったら、堀も防壁も跳躍するだけで越えられる。
手は他にもある。杭だらけの堀に飛び込んで、潜って逃げるのもその一つだが、こっちは全滅の恐れがある。トロルの投石で退路を断たれたら、そのまま堀の中で身動きできなくなるからだ。あと、ミルは潜れないから、生き残る事は困難になる。
ともあれ、今は前進する事が一番生存確率が高そうだった。
カシムが隊列の戦闘に出る。左右を矢の形でウサギ獣人が固める。その背後に他の兵士が一塊になり続く。最強の攻撃陣による一点突破の凸陣形だ。
「行くぞ!!一気にここを突破する!!」
「おおおおおおおおおっ!!」
カシムの号令に、兵士たちから雄叫びが上がる。
カシムが火炎刀に、最大の闘気を込める。火炎刀が赤々と輝きを放つ。
「カシム殿!?」
いまカシムの隣を走るのは四番隊を指揮しているウサギ獣人のバナビットだ。
バナビットが、目前にまで迫ったゴブリンたちの動きに、いち早く気付く。
「嘘だろっ!?」
今にも火炎刀を振るおうとしていたカシムが愕然とする。
敵はゴブリンとコボルトで構成された500の中隊で、盾や槍、弓など、装備が整った、モンスター軍でも精鋭なのではと思わせる部隊だったが、カシムたちが至近に近付くや、密集した防御陣から、陣形を変化させる。
前方の100匹ほどのモンスターが左右に間隔を空ける。その奥には盾を構えたコボルトによる、何層にもなる分厚い防護陣が敷かれている。
「なんでモンスターがこんな高度な陣形移動を?!」
カシムが驚くのも無理は無い。
モンスター軍が
カシムたちの足が止まれば、後は包囲してくる味方の本隊3000が到着し、完全な包囲状態に押し込める。そうすれば、後は物量で押しまくれるのだ。足と頭の回転が遅いトロルたちも参戦してくる事だろう。
昨日の戦いで、カシムたちの攻撃力は見抜いているようだ。
「やるしか無い!」
もう止まる事は出来ない。振りかぶった火炎刀をカシムは渾身の力で振るう。炎の刃が敵を襲う。だが、散らばった敵前衛は、わずか5体しか倒せなかった。
「クソッ!!」
本来はここで20は倒したかった。
ウサギ獣人たちの蹴り技が炸裂する。これも本来は数体まとめて粉砕するぐらいの破壊力があったが、一撃に尽き1体ずつしか倒せない。
いら立つカシムたちを余所に、散らばっていた敵前衛が、カシムたちを押し包むように密集してきた。
「構うな!前の防御陣を何としてもこじ開けるぞ!!」
カシムは火炎刀を振り、ゴブリンやコボルトを切り倒しながら叫ぶ。
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