獣魔戦争  モンスター軍襲来 1

 エレッサの町の南の大門の外では、門を守る町の兵士や人々と、40台の馬車を連ねた商隊が、大もめにもめていた。

 商隊の護衛部隊と、町の兵士達が一触即発の状態になる中、商隊の代表者がエレッサの町の人々に罵声を浴びせて、大慌てでメルロー街道を南に駆けて行く。

 40台の幌をかけて商品を満載にした荷馬車と、それを守る護衛隊が走り去る中、エレッサの町の人たちも、去りゆく商隊に向かって罵声と共に石を投げつけて見送った。


 もちろん、それは演技で、商隊の代表者も、商隊を護衛する護衛隊も、エレッサの町の兵士たちが変装しているのだ。

 他の戦士たちは、幌付きの馬車の中で息を潜めている。40台の荷馬車には、100人近くの兵士が乗り込んでいる。


 演技はへたくそだし、変装もおざなりだが、遠くの森の端で監視しているであろうゴブリン如きにはわかるまい。怒鳴り合って、石を投げる事で、商隊とエレッサの町が敵対していると思うだろう。そのポーズだけで、ゴブリン程度なら充分だませる。

 ゴブリンは町の戦力が減ったと思い、奴らを率いる何者かに報告するだろう。


 戦術としてはそれほど珍しい手ではないが、相手は人間では無い。例え、ロードクラスのボスの頭は良くても、集まったモンスターたちの知能は幼児レベルだ。見たまま報告するか、報告するまでも無いと考えるだろう。

 


 俺たちは陽が高くなった街道を、馬たちにむち打って一路南に走る。

 大街道メルロー街道は、普段であれば利用者が多く、沢山の人々と行き会うのだが、誰ともすれ違う事は無い。

 マイネーが手を打って、エレッサの町に向かう南北の街道を封鎖しているためだ。モンスターが攻め寄せてきているのに、知らないでエレッサに来て、戦闘に巻き込まれないようにしていた。

 まとまった戦力として援軍が来てくれるのを待つ状況だ。

 その連絡が行く前に出発した俺たちの商隊が、エレッサに到着した最後の訪町者となっていた。



 馬が疲れるので、町がすっかり見えなくなった辺りで速度を落とす。そのまま町から10キロメートル程離れてようやく止まる。

 全員無言で馬車から降りる。

 馬車を、街道の横の草地に移動させると、素早く馬を馬車から外す。そして、馬たちはそれぞれ手綱を引かれて、俺たちと西に迫っている森の方に連れて行く。

 森の近くは湿地になっていて、少し行くと、地面がぬかるんでいて、森の手前には小川や沼があった。

 俺達は森の手前で一度止まる。馬は森の中に連れて行けない。草も小川もあるここで待っていてもらう。近くにある木に1頭ずつ少し離して結びつける。不安は残るが、エレッサを解放してから連れに戻るか、増援部隊が見つけて回収してくれるだろう。

 馬たちは、それぞれに水をがぶ飲みしている。草もこの辺りは多いから数日は大丈夫だろう。

 

 馬から離れて、俺たちは森に入る。部隊は全部で113人だ。

 イヌ獣人のバックが率いる部隊が、バックを抜いて50人ちょうど。

 ネコ獣人バニラのが率いる部隊が、バニラを抜いて57人。

 で、俺たちが4人だな。

 一応確認したところ、10人程度で1グループとなって小隊を作っているそうだ。俺は訓練では5人1組に慣れているが、ここは彼らのやり方に任せて、細かい指揮は小隊長にしてもらおう。

 俺は仲間とバニラとバックに指示を出す形にしよう。即席の指揮官だから、細かい事は任せるしか無い。

 だが、何せバニラとバックはちょっと不安だ。

 なので、小隊の隊長も呼んで、まず作戦の確認を行う。

 馬車での移動中に聞いた、地形の話しも合わせて確認していく。


 森に入る手前から湿地になるが、森に入ると、そこかしこに沼がある。

 この先すぐには、もう大きな沼が一つあるらしい。

 そこから先に進むと、大きな岩が、槍のように木々を突き抜けて、無数に突き立っている「槍岩の林」と呼ばれるところがあるらしい。観光名所になりそうだが、そうはならない。

 何故なら、その周りは小さな沼が点在している上に、草木が茂っていて、とても歩きにくいところだそうだ。獣人の狩人がそう言うのだから、かなり困難な道のりになるのだろう。

 だからこそ、ゴブリンたちも、南の森の奥地は通らないと踏んでいるのだ。

 そして、「槍岩の林」を抜けると、湿地帯は抜けるが、茂みに隠れて、穴が至る所に口を空けている地帯に出る。


 俺たちは、そこの穴の中に潜んで、タイミングを合わせてモンスターたちの背後から、町に向かって押し込んで行く事になる。

 そうすると、北側の右翼部隊も攻め寄せてくるので、モンスター軍を包囲する形となる。

 もちろん包囲殲滅できれば良いのだが、恐らく数の上で圧倒的にこちらが少数なので、モンスター軍を混乱させた隙に突撃して、一気に防壁に抜けてから、南北の大門から町に逃げ込む形となるだろう。

 その際に、出来るだけモンスター軍の数を、有利な形で減らす事が俺たちの目的だ。


「つまり、俺たちは、出来るだけ兵士たちから死者を出さずに、町に戻らなければならない。俺たちが1人でも減れば、その分その後の防衛戦が困難になり、町の人たちを危険にさらす事になる。だから、単独で突出する事無く、無理せずに戦う事だ。勇気と蛮勇を間違うな!お前たちの命は町の人たち数人の命と同じと思え!!」

 俺が静かに檄を飛ばす。小隊隊長たちも、バニラもバックも真剣な表情で頷く。周囲で聞き耳を立てていた兵士たちも表情を引き締めた。

 

 俺の檄はある程度効果があったようだ。

「なかなか良い事言うじゃん」

 バニラが笑って、隣のバックの頭を殴る。またしても理不尽な目に遭ったバックは、やはり目をまん丸にしてバニラを見て固まる。

 なんか、このやりとりに慣れてきた気がする。そう思うとごっついバックがなんか可愛い。自分より遥かに小さいバニラに良いようにやられて、いちいち驚いたような表情をするが、決して文句を言ったり、離れたりせずに側にいるのだ。まあ、相性が良いのは本当だろう。

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