獣魔戦争  モンスター軍襲来 2

 次に俺たちは、部隊の魔法使いを呼び寄せる。

 バニラ隊、バック隊に2人ずついる。思ったより少ない。

 だが、商人の積み荷の中にマナポーションがあったので、結構どっさり持ってきている。遠慮無く支援魔法を使おう。


「これから約10キロ程、隠密行動で、この厄介な森を抜けていかなきゃいけない。その為に全員に支援魔法をかけてもらう。出来る支援魔法があれば、その都度手を挙げて合図してくれ」

 呼ばれた魔法使いたちは頷く。そこで、リラさんが前に出る。魔法の説明はリラさんに任せるのが一番だ。書記にはファーンがいる。

「では、あると良い支援魔法を上げていきます。中には私が使えない魔法もありますので、出来る人がいれば助かります」

 そして、リラさんも挙手しながら挙げていった魔法は次の通りだ。


 疲労軽減魔法、監視魔法阻害魔法、精神異常耐性魔法、魔法探知魔法。

 これらは毎朝リラさんが俺たちにかけてくれる魔法で、一定範囲にいる人間に対して有効だ。その効果は約12時間程度。効果、持続時間、魔法範囲ともにその人の魔法の能力で変わってくるが。

 それから、遮音魔法。

 今回のように隠密で行動する際に必須だ。ただし、全く音を聞こえなくする魔法ではなく、物音が一定範囲外に届きにくくなる魔法だ。範囲内では、普段と変わらない物音になる。また、逆に外からの音も若干聞こえ難くなる弱点がある。その為、斥候や一部の者には掛けない方が良い魔法だ。

 罠探知魔法、物理障壁魔法、夜間には暗視魔法。擬態化魔法、遮蔽魔法。色々出てくる。

 更に虫除け魔法。これは蚊やハエ、アブ程度の虫を寄せ付けにくくする魔法だ。全然完璧ではないが、まあ無いよりはマシだ。匂いで敵に気付かれたくないので、匂いの出る薬品や煙などは使えない。


「それと、ヒル除け魔法」

 リラさんがそう言うと、魔法使いたちの目がまん丸になり、リラさんを凝視する。周囲にいた兵士たちもざわついてリラさんを見る。

「そ、そんな魔法があるのですか?」

 黒髪の女魔法使いがリラさんに尋ねる。周囲の注目を浴びて、リラさんが逆に驚く。

「え?え?その、皆さんはご存知無いのですか?」

 周囲の全員が頷く。表情が真剣だ。俺は魔法の事は詳しくないからわからないが、珍しい魔法なのか?

「そんな便利な魔法があれば、我々は是非知りたいです。何処で買えるのですか?」

 魔法は魔法屋か、特別に許可を得ている人物から、ちゃんと代金を支払って買わなければいけない。法律で決まっている。代金も魔法ランクによって一律で、値引きできない。

「そんなたいした魔法じゃ無いんですよ。私の村では当たり前の魔法でしたし・・・・・・」

「いや、私はアメルの魔法学校で学びましたが、そんな魔法の存在は知りませんでした。私たちの生活に、ヒル除けの魔法があればとっても便利ですから、そうした魔法はチェックしてました」

 熱心に聞く女魔法使いは、ネコ獣人の、たしかセルッカとか言ったか。随分と生真面目な性格のようだ。

 ちなみに魔法学校で教わる魔法は、授業料に入っていると言う事になっている。だが、授業料は安いので、国が出している事になる。一括契約という奴らしい。その為、よく「無料ただで魔法が習える」なんてちょっと誤解されている。


 だが、他の獣人たちも、真剣に耳を傾けているから、よほど需要がある魔法なんだろう。

「え~~~と。私は教えられないのですが、私の村の魔法使いが教えてくれました。昔、四級神の神様が直接売り込みに来たそうです。神様の名前はデコトー。そんな珍しい魔法とは知らなかったので、売っている所はわかりません。私の村は遠過ぎますから、行くのは大変ですよ」

 リラさんがそう言うと、全員が唸る。

「そんな便利な魔法、ここじゃ助かるんだけどな~~。この辺り、もうヒルいっぱい出るし」

 バニラが言うと、数人が手を挙げる。

「俺、もう噛まれた」

「俺もだ」

 獣人は肌の露出が多いからな。獣化すると体型が変わるので、支障を来さないように服はゆとりがある物や、布面積自体を少なくしているのだ。

「獣化してしまえば何てことは無いんですが、ボクたちは普段は獣化しないので」

 獣化のデメリットは、一定時間経つと、疲労するらしい。種族によって疲労度は様々だが、いちいち疲労軽減魔法やら、疲労回復魔法なんて掛けていたら、日常生活が成り立たなくなる。

 疲労を最小限にする部分獣人化という、一部だけ獣化する能力もあり、それを得意としている種族もいる。トリ獣人が一番獣化が持続するらしい。

 ウサギ、タヌキ、キツネ、イヌ、ネコは部分獣人化が得意だそうだ。

 希少種である獅子、虎、ヒョウや、クマ、サイ等の大型動物が元の種族は、獣化の反動が大きいそうだ。


「わかりました。では、支援魔法を掛けていきます」

 そう言うと、書記をしていたファーンがまとめた、わかりやすい表を見ながら、支援魔法を使う魔法使いを割り振っていく。

 リラさんは、疲労軽減魔法とヒル除け魔法の担当だ。

 熱心に質問していたセルッカは支援魔法が得意らしく、ヒル除け意外は全部使えた。戦闘時には、また戦闘用の支援魔法を掛ける予定だが、その時も活躍してくれそうだ。

 1人、少年の様な見た目の魔法使いは、攻撃魔法に特化しているので、支援魔法は不得手だそうなので、今回は出番無しだ。戦闘での活躍を期待しよう。


 それぞれの魔法使いの元に、1小隊10人ずつ集まり、魔法を掛けてもらう。兵士たちは、特にヒル除けの魔法に期待して目を輝かせていた。

 何気にリラさん凄いよな。これで、稀にだが精霊魔法も使えると知ったら、みんなどんな顔をするだろうか・・・・・・。結構誇らしい。

 俺とファーンとミルも、必要な魔法を掛けてもらう為に、小隊に混ざって並ぶ。



 俺たちの装備はいつも通りだが、黒竜館で上から見た時に、ミルの髪やら服装がとても目立ったし、リラさんの白い服も目立つので、取り敢えずその事は伝えてあり、全員濃い緑のマントを借りて身に着けている。頭もフードを被っている。

 リラさんも今回はベージュの長ズボンに、深緑の長衣だ。腰にはいつものコルセットのような幅広の革ベルトで、靴もサンダルからブーツに変えてある。

 ミルはいつも通りだが、緑の上衣で、長靴下は黒。短パンはやはり白だが、まあいいか。それに、森と言えば二人はエキスパートだから大丈夫だろう。

 魔法を掛けてもらいながら、そんな事を考えていた。


 俺とファーンは、特に代わり映えしないが、一つ変わっているのは、俺の腰の「火炎刀」だ。

 聖剣、魔剣のたぐいを手にした事は何度もある。だが、それを使うのは訓練でも一度も無かった。それを実践で、しかも1部隊を指揮しての戦いで使うのだ。


 指揮できるかどうかも不安だし、仲間の身も心配だ。

 部隊の兵士は、ほとんどが名前を知らないし、顔だってちゃんと見ていない。どんな能力を持っているのかも把握できていないのだから、まともな指揮が出来るとは思えない。

 部隊の兵士たちは、俺がマイネーから火炎刀を預かったという事で納得しているが、「納得」と、「信頼」は全く別物だ。

 部隊を指揮するには、この「信頼」こそが大切だ。それを短時間で得なければならない。

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