獣魔戦争 エレッサの町 5
「紹介する。こいつらがそれぞれ部隊の隊長だ」
マイネーの前に3人の戦士がいる。皆、鎧は身につけず、マイネー同様、布や革の服に、腕を剥き出しにしている。
身に着けていて、木の胸飾りや、金属の飾りだ。鎧と言うよりはアクセサリーに近い。
1人は上半身は前掛けだった。手に長い槍を持っている。その槍は刃先も長く、両刃の剣になっている。柄尻には革を編んだ紐がグルグルに巻き付けられている。短い黒髪で背が高い。ニヒルに笑みを浮かべている。細いが鋭い目つきをしている。
「コイツはジョグ・バレル。ハヤブサの獣人だ。飛行部隊の指揮を執るため、町に残る。ま、飛行部隊つっても8人しかいないがな」
バレルが頷く。
「コイツはイヌの獣人でウォルス・バック。で、隣のがネコの獣人トッティー・バニラだ」
バックは穏やかそうな表情をした逞しい男で、所謂モヒカンスタイルだ。四角くごっつい顔をしている。
その隣にいるのが細身の女性だ。髪が赤縞で、目が金色だ。つり目で不敵に笑っているが、それよりも下着同然の姿に思わず目が行ってしまう。
割と獣人って肌の露出が多いから目のやり場に困る。胸と腰を布で覆っているだけで、褐色の肌の大部分が露わになっている。
下着もズボンも同じ感覚のようで、そこら辺はミルの
「この2人がお前たちと行動をする左翼の隊長をしている」
「よろしく!」
ネコ獣人のバニラが軽く手を振る。
「頼りにしてるよ」
温厚そうなイヌ獣人のバックが手を差し伸べる。俺はその手を取って、「よろしく」と挨拶をする。
「ま、この3人が『エレッサの3バカ』だ。上手い具合みんな『バ』がつく」
「おい、族長!!初対面の奴相手にその紹介の仕方やめろっていつも言ってんだろ!!」
ネコ獣人のバニラがマイネーに噛みつく。
なるほど、バニラ、バック、バレル。3人とも名前に「バ」が付くな。
マイネーは愉快そうに笑う。バックがバニラをなだめて、バレルが肩をすくめる。
「他にケンタウロスのゲド・中略・イシニティーとサル獣人のザック・ラニカ老は、もう先行して右翼に潜んでいる。あいつらはこいつらと違って頭が良い」
じゃあ、どっちかの隊長を1人左翼に回せば良かったのに・・・・・・。そう思わずにはいられない。
しかし、
ちなみに、ケンタウロスの名前は、恐ろしく長いので、マイネーは中略したようだ。超高位魔法詠唱並だそうだ。
もう一つちなみにだが、獣人国は名前が後で、姓が前に来る呼び方で、アズマと同じだ。
「で、作戦だが、あんたらは・・・・・・。あ~~~。スマンスマン。そう言えば名前を聞いてなかったな」
マイネーが今更のように言ってきた。コイツはリラさん以外には全く関心を示していないようだ。まあいい。
「俺はカシム。で、ファーン、リラさん、ミルだ」
簡単に仲間を紹介して済ませる。
「ん?カシムって、なんか聞いた事がある様な・・・・・・」
バニラが首を傾げるが、あっさり「ま、いいか」と諦めていた。なるほど、3バカか・・・・・・。
「うん。ボクも聞いた事がある気がするけど・・・・・・」
この見た目でバックは一人称が「ボク」か。
「ごめん、思い出せないや」
バックがそう言うと、バニラが思いっきりバックの頭を叩く。バチコ~~ンと中々の音が響く。
「思い出せよ、このバカ犬!!!」
なんて理不尽な態度だろうか?!俺たちは思わず目を見張る。バックも目をまん丸にしつつ、バニラを見て固まっている。
だが、バックの様子にも俺たちの様子にもお構いなしでマイネーが話しを進める。
「こっちの準備が終わり次第、カシムたちは、その2人や部下と商隊の荷馬車に身を隠して乗ってもらう」
なるほど、この2人のやりとりは普段の光景なのかと、俺も気になりつつもスルーする。だが、未だにバックは目をまん丸にして固まっている。バニラは全く気にしていない様子だ。
「それから、急いでメルロー街道を南下して、この街から逃げ出すように装う。奴らの先兵は、多分もうこの町を見張っているはずだ」
なるほど。一芝居打つつもりだな。さっき町に入った商隊が、モンスター襲来の話しを聞いて、慌てて逃げて行くというシナリオか。
「で、しばらく南下したら、さっき地図で示した森から引き返してきて左右と正面から挟撃、包囲って寸法だ」
マイネーの説明が終わった。細かい事はバックとバニラに聞けって事だな。
「そうだ、リラさん」
マイネーがリラさんの方を見ると、リラさんは露骨に嫌そうな顔をして身を引く。リラさんのそんな態度は珍しいな。
「森は湿地で、沼とか多くて歩きにくいので、大変美しくて素敵なんですが、その恰好だと大変だと思いますよ」
うん。それって大事な情報だな。何でリラさん限定で注意するんだ?
リラさんは無言で数回頷くだけで、返事もしない。ついでに一度も目を合わせようとしていない。
フフン。コイツ完全に嫌われてるな。俺は少し愉快になると共に安堵する。嫌いな相手には、リラさんの態度はこうも露骨に現れるなら、俺は少なくとも嫌われていない。
「気を付けて下さいね」
しかし、マイネーの奴、こうまで態度に表されているのに、全く気付いていない。どんだけ図太いんだ?
そう思っていると、マイネーが俺の肩をぐいっと掴む。
「あんまり大きな声じゃ言えねぇが、はっきり言ってこの2人、腕は立つがバカだ!だから実質部隊を率いるのはお前に頼みたい。出来るか?」
「聞こえてるぞ、族長!!」
バニラはそう言うと、また隣にいただけのバックの頭を叩く。2度目でもバックは目をまん丸にして固まる。
俺はいきなり50人の2部隊を率いるのか?
実践ではやった事は無いが、訓練ではそのくらいはやってきた。だが、部隊の能力やら特性やら、地形やらも全くわからないのに率いる事は、まあ、無謀だ。
「じゃあ、なんでこの2人が左翼なんだ?」
「ま、相性ってのがある」
マイネーが苦笑いをする。この2人は相性が良いのか?バックが殴られてばかりで可愛そうだが。
「ま、陣形を見てすぐわかった辺り、任せられそうだ」
俺は戸惑う。
「だが、いきなり俺が指揮をとったりして良いのか?」
部隊の士気と、指示系統とか、命令不服従とか色々問題があるぞ。
「大丈夫だ。お前に貸したブレイブブレイドにみんな従うさ」
マイネーはそう言うと、俺たちに手を挙げて、去って行ってしまった。
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