黒き暴君の島 コッコ 1
俺が、黒竜に連れられて、巨大な扉から館を出る。
小さく開いた扉から俺が出ると、扉はまた閉まる。
俺が、周囲を見回すと、俺が扉から出て来たのを見ていた仲間たちが、目に涙を浮かべて駆け寄ってきた。みんな嬉しそうに笑っている。ファーンも目が赤い。
「みんな!!!」
俺も仲間の元に駆け寄る。そして、全員で抱きしめ合う。
「カシム!心配かけやがって!!」
「良かった、良かった、良かった」
「うわ~~~~~ん!お兄ちゃ~~~ん!!!」
みんなが口々に言う。
そんな俺たちの頭上を、1羽のツバメがドランめがけて飛んでいったが、仲間は誰も、それには気付かなかった。
俺は、目の端に映るツバメの姿を見送ると、仲間に声をかける。
「心配をかけた。みんな、すまなかった」
俺も涙が溢れそうになる。仲間たちの気持ちを考えると、いたたまれない気持ちになる。
・・・・・・とてもじゃないが、風呂入ったり、コッコとイチャイチャしたり、お茶したりしていたとは言えない。
そう思うと、感動から一気に血の気が引く思いになる。
ヤバい。どう説明したら俺は助かる?
「・・・・・・あれ?お兄ちゃん、なんかいい匂いがする」
ミルが石けんの匂いに気付く。
「ええ?そう言えば、確かに」
リラさんも、俺を抱きしめた姿勢のまま、クンクンと鼻を動かし出す。
「おい?この匂いって・・・・・・」
ファーンが渋い顔をする。
「そ、そうだ。大事な話が沢山ある!!それに急いでドランに戻らなきゃいけないんだ!!」
俺は大声を上げる。何とか乗り切らねばならない。
「きっとみんな、すぐには信じてもらえないと思うような事だから、心して聞いて欲しい!!疲れているだろうが、街に戻りながら話そう!!」
俺は先頭に立って歩き出す。
「おい!カシム!」
「大丈夫だ。野獣も竜も、虫も俺たちを襲ってくる事は無い。夜通し歩く事になるからな!!リラさん、暗くなったら
俺は有無を言わせずに、前を向いて歩く。言わせてなるものか。それ以上の驚愕で、俺の石けんの匂いを忘れさせてみせる。
結論から言うと、バレた。口が滑ってしまった。それに関してはかなり文句が出たが、帰ったらもう1泊俺のおごりで宿に泊まると言う事で許して貰った。
そして、コッコが黒竜だった事には、一堂、驚きを隠せなかった。さらに、ドランで黒竜がコッコの姿で待っていると言うと、不安げな表情を見せる。
「マジかよ。・・・・・・オレ、黒竜と知って、コッコとちゃんと向き合えるか、正直なところわからないぜ」
ファーンがつぶやく。
「そうね。それではいけないとは思いますが、私もどんな反応してしまうか不安だわ」
リラさんも言う。
俺も最初は驚いてショックを受けたが、黒竜だと恐れる気持ちよりも、喪失感の方が強すぎてあまり意識しなかったが、普通は黒竜と知れば、コッコの姿でも恐ろしい気持ちになるのは当たり前だ。その事に思い至らなかったのは俺のミスだな。
「うん。でも、あたしは平気かな~~~」
ミルが明るい声を出す。
「黒竜は怖いけど、コッコちゃんは可愛かったもん」
ミルは素直すぎるが、今は俺も救われた気持ちになる。
ついでに、コッコを褒められると嬉しい。だが、2人はここまで単純に割り切れないはずだ。それは仕方が無い。
「ミル、ありがとう。でも、俺もそう単純じゃ無いと思う。創世竜の感覚は、俺たちと全く違うところが少なくない。コッコの姿をしていても、間違いなく創世竜なんだ。恐れる気持ちは当たり前だし、慣れてもいけない気がする。だから、みんなは無理せずコッコに接してくれれば良い。嫌なら俺に任せて貰って構わない」
俺が言うが、ファーンが苦笑する。
「いや、カシム。コッコはお前の妹なんだろ?そして、オレはお前の相棒だ。相棒の妹を嫌ったりするはずが無い。ま、多少はぎこちなくなっちまうかも知れないけど、そこは勘弁して欲しいってぐらいだ」
「そうですよ。私もそこを心配していたんです。ちゃんと笑顔でコッコちゃんに『ただいま』って言えるかしらって」
すごいな、この2人は。
どうして、ここまで前向きに、俺の抱えた問題にも向き合ってくれるんだろう?
俺は仲間たちの思いに報いる事は出来ているのだろうか?
俺は本当に人に恵まれていると思う。
それから、俺は、包み隠さず・・・・・・いや、白竜と一緒の入浴だけは話さなかったが・・・・・・それ以外は全てを話した。
黒竜が略奪をやめるという宣言にも全員が驚く。
「こりゃあ、ミルはハイエルフの至宝から、世界の宝に格上げだな。どうする?冒険やめるか?」
ファーンが言う。確かに、各国がミルを保護したがるに違いない。ミルの自由な人生を奪う様な誓約をしてしまったのかも知れないと、俺は後悔する。
「やだよ~~~。あたしはハイエルフだから、夢を追いかけるのが至上の価値観だもん。森のみんなも、黒竜の略奪を止める事より、個人の夢を応援するに決まってるもん!!」
ミルの返事に、リラさんが笑う。
「そうね。あの人たちの反応を見れば、各国がミルの自由を阻害したりしたら、きっとハイエルフとの戦争になるわね。良い勝負になりそうなのは、地上ではグラーダぐらいね」
「いや、グラーダもハイエルフと事を構えたりはしないはずです」
俺がリラさんの言葉に救われる。そして、更にリラさんの考えを肯定するため、俺の考えを話す。
「グラーダは現国王の異常な力を中心とした、強大な軍事力を以て、世界を牽引している。でもグラーダ三世もやがて年老いて死ぬ。俺の祖父はそれよりも早く死ぬ。人間はそんなに長生きできないからな。そうなると、グラーダは、今打ち立てた経済力や、地の利などを生かして国を継続させなければいけなくなる。それなのに、ハイエルフを永遠に敵にしておく事など、現時点でも絶対に避けるべき事だ」
俺がそこまで言うと、ファーンが唸る。
「なるほどね。つまり、ハイエルフがいかにミルを特別視していて、ミルの自由な行動を尊重しているのかを、世界中に知らせれば問題ないって事だな」
「そうだな」
俺は頷く。その為には、グラーダ国王の力を借りる必要があるな。その程度の事は要求させて貰おう。ミルの自由は決して侵害させない。永遠にだ。
「うひゃ~~。それはちょっと恥ずかしいなぁ~~~」
ミルが、迷惑そうに手をブンブン振って文句を言う。
「ごめんな、ミル。俺もとんでもない約束させちゃったと思うけど、多分助かる人はものすごく沢山いるはずだ」
「・・・・・・うん。じゃあ、我慢する」
ミルが渋々頷く。ミルの素直さこそが至宝だな。ちょっと良い子過ぎるところが逆に心配だ。
「でもさ、その誓約には強制力無いんだろ?じゃあ、黒竜の気が変わったら破っちゃえる訳なんだから、その辺もちゃんと説明しないと、後で文句言われるかもな」
ファーンの言葉に俺も頷く。
「そうだな。要は黒竜の気分次第だ。だから、下手にミルや俺たちの行動を制限したり、干渉したりする方が危険だという事にしておこう」
「そうですね。死ぬまで軟禁なんてゾッとします」
ああ。その辺も考えてなかったな。確かにそんな事はごめんだ。
ミルが無理でも、せめてファーンやリラさんを軟禁して、数十年の安全を求める国も少なくないだろう。
特に、黒竜の被害が多いエルカーサ国なんかは。
軟禁もそうだが、監視が付くのもごめんだ。監視者がランダのような話のわかる奴ならともかく・・・・・・。
う~ん。どうしようか?
「それじゃあ、白竜山の村みたいに、黒竜の加護をあたし達が受けてるって事にしちゃおうよ!!」
ミルの発言に、全員で叫ぶ。
「それだ!!」
そんな感じで話がまとまった。
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