黒き暴君の島 コッコ 2
そして、実際に夜通しで歩き続けて、朝日が昇る頃には、ドランの街にたどり着いた。
途中で食事のための休憩はあり、その時にリラさんに支援魔法をかけ直して貰った。
マナポーションも遠慮無く使って貰った。
これも俺の支払いで、新しく買い直して貰う事にした。もちろんリラさんは遠慮して断ってきたが、それではあまりにも甲斐性が無いと言うものだ。しっかり買い直させて貰おう。
曇天のドランにも、朝焼け、夕焼けはある。
朝焼けに染まるドランの街は、やはりゴミゴミと込み入った様子だった。
黒竜が出現して、大騒動になったと聞いていたが、街は静かな朝を迎えており、混乱は一時的だったようで安心する。
黒竜は、昨日の日暮れ前にはドランに戻っているだろうが、ミチルさんにはものすごく心配をかけた事だろう。今も、きっと心を痛めているに違いない。一刻も早く戻ってあげなければいけない。
本来なら、冒険者ギルドにまず報告するべきなのかも知れないが、俺たちは真っ先に宿に戻る。
宿に戻ると、ミチルさんが真っ赤な目で俺たちを出迎えてくれた。ミチルさんの隣には、赤いドレスを着たコッコが立っていた。
俺が微笑むと、コッコもニッと笑い、俺にしがみついてくる。
その様子を見て、仲間たちにも自然な笑顔が浮かぶ。
「ただいま、コッコ」
「留守番、偉かったな、コッコ」
俺に続いてファーンが言って、コッコの頭をなでる。
リラさんも穏やかな表情を浮かべ「ただいま」と言う。
ミルも同じく、ニコニコ笑いかけると、コッコと一緒になって俺にしがみつく。
「うん。やっぱりあたし、これが好き!!」
それから、コッコと目を合わせると、互いに笑い合う。
「申し訳ありません、カシム様。わたくし、とんでもない失態を犯してしまいました」
ミチルさんが深々と頭を下げる。俺は何のことかわかっているが、今は知らないふりをする。
「どうしたんですか?」
「実は、昼間にコッコちゃんと外に買い物に行ったのですが、目を離してしまい、コッコちゃんとはぐれてしまったのです」
「ああ、でも見つかったんでしょう?」
俺は、出来るだけ軽い調子で話す。
「いいえ。それだけではありません。はぐれている間に黒竜がドランに現れて、街中が大変な混乱に陥ってしまいました。他の職員も協力して探してくれていましたが、夕方になってようやく他の職員が発見して保護してくれたのです。でも、もしコッコちゃんの身に何かあったらと思うと・・・・・・」
話しながら、ミチルさんは涙をボロボロこぼす。
この人は自分の失態を包み隠さずに話してくれた。そこには誤魔化しは無い。それだけで、この人にコッコを預けて良かったと思える。
実際は、コッコが自らミチルさんと離れた末に攫われ、さらにその後、自ら街を出て行ったのだが、それは話せない。
この人の誠実さを裏切る事になるが、勘弁して欲しい。せめて、この人をねぎらう事で少しでも酬いろう。
「ミチルさん。大変ご心配をおかけしたし、きっと心を痛めた事と思います。ですが、こうしてコッコが無事ここにいる事は、そして、こんな良い笑顔を見せているという事は、ミチルさんのおかげだと思います。本当に感謝しています」
俺が深々と頭を下げると、コッコがそれを察して、俺から離れると、俺と同じように頭をぺこりと下げる。
「ミチル。ありがとう」
黒竜が人間に礼を言い、頭を下げたのだと思うと、これはとんでもない事だが、コッコはちゃんと俺たちに合わせてくれているのだ。後で、褒めてやらなきゃだな。
ミチルさんも、コッコの言葉に感じ入った様子で、また今までと違う涙を流し、コッコを抱きしめる。
「ごめんね、コッコちゃん。ありがとう、コッコちゃん」
その後、俺はミチルさんと一緒に冒険者ギルドに報告に行く事になった。コッコも一緒に行きたがったので、仲間たちには部屋を新たに取って貰い、先に休んでいて貰う事にした。
また同じ大部屋が借りられたのは助かった。
コッコは俺に肩車を要求してきたので、俺はコッコを肩車してギルドに向かう。コッコは普段大きなくせに、肩車で見える少し高いだけの景色にはしゃいでいた。
その様子に、隣を歩くミチルさんも微笑む。良かった。この人の気持ちを軽くしてあげる事が出来たようだ。
ギルドでもちゃんと謝らなければいけないな。この人の立場を少しでも良くする責任が俺にはある。
ギルドのドラン支部に入ると、早朝だったこともあり、受付には、あの厳つい男がいて、俺の顔を見るや、大慌てで奥の部屋に駆け込む。
すぐにやってきたのは副支部長だった。そして、面談室に俺を案内すると、すぐに申し訳なさそうな表情で俺に頭を下げる。
「カシム君。こちらの不手際で、君の大切な妹を危険な目に遭わせてしまった。本当に申し訳ない」
俺は、すぐにそれに対して応える。
「とんでもない事です。話に聞くと、ドランは大変だったそうじゃ無いですか。そんな中、精一杯の対応をしてくれた事、とても感謝しております。なので、謝らないで欲しいです。それに、面倒見てくれたのがミチルさんで無ければ、コッコも街に戻らずに、荒野に逃げて行ってしまってた事でしょう。コッコもそう言ってました。なので、ミチルさんのおかげで、コッコと俺は再会できたのです。本当に良い人選をしてくれました。ありがとうございます」
俺は、考えてきた通りの台詞を一気にしゃべると、頭を下げ返す。すると、副支部長は、少し意外そうな表情をしてから、ようやく笑みを浮かべる。
「いやあ。そう言ってもらえると、私も少しは気持ちが軽くなる。それにしても、前も言ったが、君は若いのにたいした男だ」
そう言って、一緒に入室したミチルさんと目を合わせてから穏やかに微笑む。
「では、ミチル君。君もご苦労だったね。今日は帰って休みなさい」
副支部長の言葉に、ミチルさんは苦笑する。
「副支部長。それがですね、カシム様のご厚意で、宿をもう1日取っててくれまして。なので、お休みをいただいて、温泉でのんびりさせて貰おうかと・・・・・・」
ミチルさんの言葉に、副支部長が声を上げて愉快そうに笑う。
「それはいい。そうしなさい。ただね、他の職員もコッコさんの捜索を手伝ったのだから、お土産を頼むよ」
副支部長の言葉に、ミチルさんも明るく笑った。
そして、ミチルさんは俺に頭を下げると、部屋を出て行った。
ミチルさんがドアを閉めるのを見送ると、副支部長が俺の方を見て言う。
「それにしても、お早いお戻りですが、何かトラブルでもありましたか?」
それは当然の疑問だ。
「いいえ。目的は達してきました」
俺が答えると、驚きとともに、怪訝そうな表情を浮かべる。
「それにしては随分と・・・・・・」
デナトリア山に行って、黒竜との会談を終えて、この街に帰ってくるにはあまりにも早いという事だ。
「詳しくは説明できませんが、黒竜の力でドランに早く帰って来れました」
嘘は言っていない。ファーンたちも、黒竜が野獣除けをしてくれたから、最速で黒竜の館にたどり着けたし、帰りも夜通し、ほぼ一直線にドランに帰って来られたのだ。
それが無ければ、度々野獣と戦闘したり、迂回したりで、往復でも最低2日以上かかる。
「なるほど・・・・・・。では、黒竜との会談が成功したのですね?」
副支部長は顔を紅潮させて、出来るだけ声を抑えているが興奮した様子を見せる。俺の答えに期待して、目を輝かしている。
「はい。黒竜と会談し、俺は『竜騎士』と認められました」
「っっっが!!!」
俺は一瞬腰が引けた。副支部長が体をのけ反らせて、両腕を力一杯天井に突き上げたのだ。叫び出したいところを、ギリギリでこらえたような声が漏れた。
それから少しして、ようやく副支部長が呼吸を整えて、顔を赤らめつつ俺の手を取る。
「すごいじゃないか!!すごいじゃないか!!おめでとう!!」
「あ、ありがとうございます」
俺の手がブンブン振られる。そして、俺の隣に座るコッコに目を向けると、にっこり温和そうな表情を浮かべて言う。
「コッコ君。君のお兄さんは、素晴らしい人物だよ。私も心から尊敬するよ」
その言葉に、コッコは嬉しそうに笑顔を見せると頷く。そして、俺の耳に口を寄せる。
「おぬしが褒められると、何とも嬉しいものじゃな」
俺もコッコが褒められると嬉しいから、気持ちはわかる。何だかくすぐったいような気持ちになる。
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