黒き暴君の島 ギフト 5
「ああ。黒竜、白竜。俺は仲間の元に戻るよ」
俺が振り返ると、黒竜も、白竜も微笑みながら頷いた。
「では、少し待ちなさい」
そう言うと、白竜が別室に姿を消した。
俺は装備を確認する。特に問題は無さそうだ。
「カシム。おぬしの仲間に、ワシらが人型になれるのを話すのは構わない。じゃが、ワシが信用しているのはあの3人だけじゃ。それ以外の者には話してはいけないし、あの3人も、決して他言せぬように、しっかり言い含めるのじゃぞ。さっきも言ったが、他の創世竜が、決しておぬしらを許さんじゃろう」
黒竜が念を押す。と言う事は、ランダには話すわけにはいかないな。
俺は頷く。
「コッコは、先にドランの街に行って待っててくれ。ミチルさんを早く安心させて欲しい。宿に戻っても良いし、冒険者ギルドに行ってもいいけど、道はわかるかい?」
俺が黒竜に尋ねる。
「ああ~~~。ま、なんとかなるじゃろ」
「服はどうする?」
さすがに今のようにボロボロ毛皮の半裸ではまずいだろう。
「ああ~~~。じゃあ、街であの服に着替える。着替える場所は目星が付いておる。・・・・・・あ。そうじゃった。これもおぬしの耳に入れておいてやった方が良いかのう」
黒竜が下から俺を見上げる。
「おぬし、地獄教に狙われておるぞ。気をつけい。ワシも地獄教のやつばらに攫われて、下衆な責め苦を受けたわい。ワシじゃなかったら大事じゃったろう」
俺は驚く。そして、黒竜の体を引き寄せて、全身見回しながら叫ぶ。
「十分大事じゃ無いか!!コッコ!!怪我とかしてないか?!大丈夫か?」
そんな俺の手を、黒竜が払いのけて叫ぶ。
「ええい!!落ち着け、たわけが!!ワシは創世竜じゃぞ!!どんな怪我をしようと、その実痛くもかゆくも無いんじゃ!!それに大丈夫じゃからここにおるのじゃろうが!!」
ああ~~。そう言えばそうだった。だが、そう聞いても、コッコが酷い目に遭わされたのだという事実には、戦慄を覚える。
「それで、どうなったんだい?」
地獄教の奴らはどうなったのか、という問いだ。
「この島にいた地獄教の奴は2人だけじゃ。ワシをダシに、おぬしを呼び出してから、ワシもおぬしも殺すつもりだったようじゃ。しかも拷問好きのゴミくずじゃった。服が汚されてはかなわんので、そやつらは焼き殺してやったわ」
そうか・・・・・・。俺が暗い表情をしたのを察して、黒竜が俺に問う。
「なんじゃ?殺してはいかんかったのか?殺人とかいう禁忌じゃったのか?」
俺は首を振る。殺人は人間のルールで禁じられている。
それは創世竜のルールには当て嵌まらない。
そんな無意味な倫理観を、創世竜である黒竜に強要するつもりなどない。しかも、地獄教となれば、人間社会でも殲滅すべきモンスターと同類の害悪だ。
「いや。ただ、俺はコッコが人を殺したところを想像したくなかっただけなんだ。すまない。単なる感傷だよ」
俺が言うと、黒竜はケラケラと笑う。
「なんじゃ。そんな事か」
「でも、コッコが無事で良かった」
俺が笑いかけると、コッコが俺の頬をつねる。
「いて」
「いて、じゃない!おぬしは考えがたらん!!地獄教がおぬしはおろか、ワシにまで危害を加えに来のじゃ!!それがどういうことかちゃんと考えい!!」
ああ。それもそうだ。つまり俺は地獄教に監視されていたということになる。
一体いつから?
・・・・・・いや、これはグラーダにいた時からと考えるべきだろう。
島にいたのは2人。創世竜がそう言うのだから、それは間違いないのだろう。そして、その2人はもういない。
しかし、地獄教がそれであきらめるとは思えない。
さすがに、ペンダートン家に手出しが出来るとは思えないが、これからは地獄教の監視に気を付けよう。それと、対策も考えなければいけない。
俺の脳裏には、あの恐ろしい弓矢使いヴァジャの顔がすぐに思い浮かんだ。俺の右目を打ち抜き、呪いをかけた呪術師だ。決着を付けなければいけない。だが、どこで何をしているのか?
グラーダに戻って、父に聞いてみるのが一番だろう。グラーダ軍は、今、地獄教殲滅のために動いている。急いでグラーダに戻る理由が、これでまた一つ増えた。
「情報ありがとう。それと、危険な目に遭わせてごめん。・・・・・・その、創世竜だから大丈夫だとは知っているけど、それでも言わせて欲しい。怖い目に遭わせてごめん、コッコ」
俺が黒竜の頬を両手で挟んで、真剣に自分の思いを伝える。すると、目の前の黒竜の顔が赤くなり、俺の手を振りほどくと、俺にしがみついてくる。
「おぬしは、お兄ちゃんなのに可愛いのう!!」
「コッコだって、黒竜のくせに可愛いぞ」
俺が微笑むと、背後でため息が聞こえた。
「もう、あなたたちが相思相愛だと言う事は十分わかりましたから、あまり見せつけないでください」
白竜が呆れた表情で立っていた。
「そうじゃろ!!」
「ちがう!!」
2つの声が部屋に響いた。
「では、これを」
白竜が差し出したのは、一通の手紙だ。白い封筒に、赤い封蝋が押されていた。封蝋にデザインはない。
俺が手紙を受け取って白竜の顔を見る。すると白竜が続ける。
「この手紙には、あなたが私、白竜と、そこの可愛い愛人である黒竜の二柱の創世竜が、あなたを『竜騎士』と認めたという事が書いてあります。証拠は必要でしょう?」
「い、いや。ありがたいんだけど、ちょっと聞き捨てならない表現があったんだが・・・・・・」
白竜は澄ました顔で続ける。
「心配いりません。文面にはきちんとした文章で書いてあります。それと、黒竜の誓約も書いてあります。すなわち、カシム、ファーン、リラ、それと、ハイエルフのミルの4人が生きている間は、黒竜島との契約以外では他国、他者から宝を強奪する事はしないという内容です。それで良いのですね、黒竜?」
白竜に問われて、黒竜が頷く。
「もちろんじゃ!!カシムに嘘をつくわけにはいかん!!」
「本当にいいのか?俺との口約束で十分だ。ミルはハイエルフなんだぞ」
俺が黒竜を心配して見つめる。そこまでして貰わなくても良いのにと思う。
「かまわんのじゃ。どの宝物よりも、今はおぬしの方が大切じゃ」
黒竜が優しい表情で俺を見つめる。
「なんでそこまで?たった1日なのに?」
俺がそう言うと、黒竜がケラケラ笑う。
「それを言えばおぬしの方こそじゃろうが。さっきなど大人のくせに、大声で泣き叫びおってからに」
それを言われると、俺も笑うしか無い。
「ハハハハッ!確かにそうだな!」
「そうじゃろ?」
俺と黒竜で笑い合う。時間なんて関係ない。種族も関係ない。互いを大切に思い合うのには、互いの心があれば良いのだ。
もう、コッコは黒竜で、黒竜もコッコだ。俺に2人の違いはもう無い。
「やれやれ。私などは、カシムが生まれる前から見守っていたというのに、つれない事です」
白竜が首を振る。
「そんな事は無いよ、白竜」
俺は白竜に向き直り、姿勢を正す。
「俺は白竜に導かれて、今ここに至っている気がする。それに返しきれない程の恩もある。改めて感謝する」
俺は深々と頭を下げる。
「おや。殊勝なことです。ジーンなどより、よほど情がある」
俺は苦笑いを浮かべる。
「じゃあ、グラーダに戻ったら、じいちゃんに2人に会いに行くように伝えておくよ」
俺が言うと、黒竜が思案気な表情でつぶやく。
「しかし、人間は老いると弱くなるじゃろう?大丈夫かのぉ?」
俺は断言する。
「それなら大丈夫だ。じいちゃんはきっと、2人が会った頃より、今の方がずっと強くなっているはずだ」
俺の言葉に、2人とも目を見合わせてから笑う。
「それは楽しみですね」
それから白竜が話を戻す。
「それで、この手紙ですが、グラーダ国王に直接渡しなさい。それまで、決して誰もこの封を破ってはなりませんよ」
俺は手紙の封蝋をジッと見てから頷く。
「確かに。でも、この手紙は誰からの手紙だと言えば良い?」
俺が尋ねる。
創世竜が人型になれるなんて事は、誰も知らないのだから、白竜がこんな手紙を書いたと言っても信じないに違いない。
「心配いりません。この手紙を読めば、あの国王は、誰が書いたのかなんて追求する事も無く、全てを信じるでしょう」
そうなると、何が書いてあるのか気になるが、白竜との約束通り、この手紙はグラーダ三世に直接渡すまで、決して誰にも触らせない様にしよう。
「さて、これであなたの評価が、また上がってしまいますね。私でも黒竜を大人しくさせる事は出来なかったのですからね」
白竜がおかしそうに声を上げて笑った。
俺と黒竜は頬を染めて見つめ合い、互いに苦笑を浮かべた。
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