黒き暴君の島 ギフト 4
「気が付いたのじゃ!!」
目を開けると、嬉しそうに叫ぶコッコの顔が至近に見えた。
「おや。しぶといですね。運が良い事です」
白竜が俺をのぞき込む。
「どうじゃ?どこか苦しくないか?痛くはないか?」
黒竜が、俺の顔をペタペタと触りながら、心配そうな表情を見せる。
「い、いや。どこも痛まない・・・・・・」
あれほど痛く苦しかったのが、今は嘘のように無くなっている。頭もスッキリしている。右目に違和感も無い。
「適合しましたね。これで安心です」
白竜が言うと、黒竜が胸をなで下ろした。
「よかったのじゃ。ワシのせいでカシムを死なせてしまうところじゃった。本当にすまなかった・・・・・・」
シュンとしおれている黒竜に、俺は上体を起こしてから苦笑して頭を撫でる。俺はソファーに寝かせられていたようだ。
「いいよ。大丈夫だったんだし。それにコッコも善意でしてくれたことだろう?その気持ちは嬉しいよ。ありがとう」
黒竜が真っ赤になって黙り込み、白竜をじろりと見る。
「・・・・・・こういうところじゃな」
白竜が何やら納得して頷く。
「なるほど。そういう所ですね・・・・・・」
何の話しだ?まあいい。
「ところで、多分・・・・・・。俺、今、黒竜が地獄に行った時の景色を見たんだと思う」
俺がそう言うと、白竜が頷く。
「恐らく、直前に地獄の話しをしたので、そのドラゴンドロップが黒竜の記憶とリンクして、適合中に、カシムの頭にその情報が流れ込んだのでしょう」
うん?よく分からないが、魔法みたいなものかな?
「その中では、白竜は今よりかなり大きかったみたいだな?」
俺が言うと、黒竜がシュンとなってうつむく。
「ぐううう~。そんな昔のことを・・・・・・」
「そうですよ。この子を助ける為にかなり力を地獄に捨てて来てしまいました。おかげで竜の姿の時は小さくなりました。力も最強ではなくなってしまいましたし・・・・・・」
おお。白竜はかつて創世竜最強だったのか?!
「そうか。やっぱり姉として、妹を助けたかったんだな」
俺は白竜に、これまでに無い好感を抱いた。白竜も初めて穏やかな笑顔を見せる。
「ええ。姉ですから」
「姉じゃないじゃろうが!!!」
黒竜が叫ぶ。
「そりゃあ、あの時は助かったわい!しかし、事ある毎に蒸し返して姉気取りするのはやめるのじゃ!!」
「ではやはり、『母だから』と言い直しましょうか?」
「もっと気持ち悪いわ!!」
俺は2人(二柱)のやりとりに頬が緩む。なんだかんだ言って、この2人は仲が良いのだ。互いの絆のようなものを感じた。
これは、他の創世竜にも言えるのだろうか?
この世に十一柱しかいない創世竜は、互いに支えたり、思いやりを持って接したりしているのだろうか?それはわからないが、そうだったらいいなぁと俺は思った。
「ああ。それからな」
俺は思い出して、騒ぐ2人に声を掛ける。
「王城に黒竜が侵入したのも見た。あれは何だ?」
俺が言うと、2人は言い合いをやめて、真剣な表情に戻り、俺を見る。
「おぬし、アレを見たのか?」
「黒竜!あなた何て事をしたのですか?!」
黒竜が冷や汗を掻き、白竜が緊迫した様子で黒竜を問い質す。
「アレって?」
俺が再度尋ねると、白竜が殺気を放つ目で俺を見る。静かだが恐ろしい目だ。
「カシム。いずれあなたも知ることになるでしょう。でも、今はまだ知らない方が良い事です。忘れなさい」
「そうじゃ。いずれ知るべきだが、それは今では無い。知れば魔物に狙われる事になるじゃろう。それに好奇心は世界をも滅ぼすぞ」
黒竜が言う。
「忍び込んだあなたが、それを言いますか?」
白竜は黒竜を責める表情で睨む。これには黒竜も反省の色を見せる。
「むう。もう二度とあんなマネはしないのじゃ・・・・・・。と、ところでな、カシム」
黒竜が強引に話しの流れを変えるが、これには俺も敢えて乗っかっていかなければならない。下手をすれば本当に白竜に殺されてしまいかねない。
「なんだい、コッコ?」
「適合したという事は、今度こそ、その眼の力が使えるのではないか?目を開いてみい!」
黒竜の話しに乗る形で、俺はまぶたに力を入れるし、左目を閉じて、右目で物を見ようと集中する。しかし・・・・・・。
「すまない。やっぱりダメだ」
俺の言葉に、黒竜は頭を抱えて叫ぶ。
「なぜじゃぁぁぁぁ~~~~!!ワシを愛しておらんのか、カシムゥ~~~!!」
「いや、だからさ・・・・・・」
この目の機能は「愛する者を見ること」、「時空を越えて会いに行けること」だ。はっきり言って使い道が無い。今の俺にとってはゴミスキルに等しい。
「創世竜の炎が吹き出す眼」とかにしてくれた方が良かったし、かっこいい。そういう意味で残念だ。
「それで、カシム。次はどの創世竜に会いに行くつもりですか?」
白竜が不毛な話しを割って、まともな話しに引き戻す。
俺は少し考えてから答えた。
「やはり聖竜だろう。一度グラーダに戻ってからの話しだが・・・・・・。」
俺の答えに、今度は白竜も頷く。
「そうですね。それが良いでしょう。後は以前なら難しかった紫(むらさき)竜も、今のカシムの仲間たちなら、何とかなるかも知れません。とにかく、黄金竜と海竜、何よりも赤竜はやめなさい。あまりにも危険です」
もちろん赤竜は最初から最後まで予定していない。絶対に近付いてはならない、暴君以上の暴君だ。ひたすらに凶暴で好戦的な創世竜なのだ。
「おお。紫竜と言えば、これじゃろ」
黒竜が、また手を空中のひずみに突っ込むと、何かを取り出した。赤い小さな貝殻のような物だ。
「あら。あなたどうしてこんな物を?」
白竜がその赤い貝殻を見つめて、不思議そうに黒竜に尋ねる。
「ワシはコレクターじゃからな!赤竜が出かけておる隙に奴のねぐらに忍び込んで借りてきたのじゃ」
黒竜が胸を反らして威張る。
「それは盗んできたと言う事ですよね。・・・・・・呆れました。よもや同じ創世竜相手にまで、そんな行為を働いているとは」
白竜が額を押さえる。
「で、これは何だい?」
俺が尋ねると、黒竜が俺の手に、その赤い貝殻を握らせる。
「これは赤竜の鱗の破片じゃ!」
「ええ!!??」
この世に「創世竜の鱗」なんてアイテムがあったのか?
ねぐらには落ちている物なのか?
何か、黒竜の表情を見ると、落ちている物を拾ってきた以上のヤバイ事をしでかしたような雰囲気がある。
「フフン。紫竜は創世竜では最弱でのう。特に赤竜との相性が悪く、赤竜の鱗があれば、奴の炎は無効化出来るのじゃ」
「ええええ??」
また俺は叫ぶ。
「こんな小さくても、人間1人なら充分守れるじゃろう。紫竜と会うことがあれば必要じゃ。必ずカシムが自分で身につけるのじゃぞ。仲間には不要な物だが、おぬしには役に立つ」
これまたとんでもないアイテムを手に入れたようだ。今度のアイテムは「眼」と違って価値も実用性もある。今のところ、紫竜に合う予定は無いが、有り難くもらっておこう。
「おや。おしゃべりもここまでのようですね。カシム。お迎えが来ましたよ」
白竜が窓の方を目で示す。見ると、空は夕曇りになっていた。
「あれ?俺ってどの位意識を失っていたんだ?」
意識を失った実感も無いが、かなり時間が経過していたようだ。
「まあ、4時間ぐらいじゃろうな」
「そんなに?」
俺は驚きつつ、窓から外を眺めてみた。
空は陽が沈みかかり、黒竜島の曇った空が暗さを増していた。そして遥か下方にある地面を見ると、黒っぽい岩だらけの地面が広がる中、目立つ黄緑色がちらりと見えた。
あれはミルの髪の毛の色だ。この黒竜の館付近まで仲間が来ている様だ。ミルは偵察の為先行しているのだろうが、実に目立つ。あれで盗賊職なのだから、目立つ髪の色はまずいなぁとか思ってしまう。森の中では目立たないのだろうが、ここでは一発でバレてしまう。
そう思って、ミルの後方をよく見ると、これまた目立つ薄黄緑色と明るい栗色に白い色がはっきりと見える。黒い地面、曇った空には、とてもよく目立つ。一応岩に隠れるように進んでいるようだが、こんな上からだと丸見えである。
それでも、やはり仲間たちは俺が生きてる事を信じて、危険を顧みずに、こんな所まで来てくれたのかと思うと、胸にこみ上げてくるものがある。
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