黒き暴君の島 ギフト 3
俺は空から地上に向かって、とてつもない速度で突っ込んでいく。地面に衝突すると思い焦るが、俺の周囲は暗くなるだけで、衝撃を感じたとも無く、凄まじい速度を感じるまま、闇の中を突き進んでいく。
次に光が現れたのは一瞬で、赤暗い空間に、白いもやのようなものがひしめき合い、蠢いていた。そして、闇。
次は人のようなものや、獣のようなものが密集して、互いに殺し合い、喰らい合っている、おぞましい光景が見えた。そして、またしても一瞬で過ぎ去り、再び地面に突入する。
次の世界では、原始的な建物が建つ世界だった。様々な外見の生き物たちが、その世界で生活しているようだった。その世界を見て、初めて俺は、黒竜が見た地獄の世界の光景を、そのまま見ているのだと悟った。
そうすると、今は地獄の第三層に来たことになる。そして、ここも凄まじい速度で地面が迫って来る。恐らく、黒竜は全速力で飛翔して、地獄の下層を目指しているようだ。
地面に一瞬黒竜の影が映ったが、あっという間にまた地面に潜り込む。
黒竜は地獄の層を成す地面の中を突き進んでいるのだ。土の抵抗を感じないと言うことは、創世竜の力で、自分だけが通る事が出来るトンネルか何かを創造しているのかも知れない。
そして、第四層だ。
第三層にあったような建物は一つも見つからない。赤黒い光を放つ天井に照らされた、岩だらけの荒野で、そこには野生竜の様に巨大な、そして、様々な形をとった、異様な生き物たちが、ひたすら残忍に、喜びながら他者を殺し、喰らう、恐ろしい世界だった。
その残酷さを楽しむ姿は、まるでゴブリンやオークなどのモンスターの様だった。これを見ると、ゴブリンたちが地獄で作り出された種族だというのが、妙に納得できる。
それにしても、そこに住む化け物たちは、どれも歪で不気味で、激しい嫌悪感を覚える姿をしている。
そして、再び闇。
次は第五層となるはずだ。地上に現れた魔王エギュシストラのいたとされる世界。
地面を突き抜けると、今度の地上は、遙か彼方にあり、地平線の果てが見えず、何処までも平面な世界が続いていた。少なくとも、地獄は惑星の様に球体ではないと言う話しは、本当の様だ。
そして、その世界の住人は、やはり姿は様々だが、これまでの層のように密集していないし、服を着ている魔物もいた。
ただし、大きさは創世竜たちの様に巨大だった。
黒竜が体の向きを変えるのが、景色の変化からわかった。
急制動が掛かる。
天井方向を見上げ、地面を見る。
焦っている様子がわかる。
急に体が地面に引っ張られる感じがした。今までのように地面に向けて飛翔しているのでも、自由落下している訳でも無い。地面に向かって、強い力で引っ張られているのだ。
黒竜は天井方向を向いて羽ばたこうとするが、再び頭を下にすると、錐揉み状態になって地面に引きずり降ろされていく。
そして、地面を再び通り抜けると、第五層などとは比較にならないほど広大な第六層に侵入していた。もはや地面など見えない。赤黒いもやが遥か下に見える。
黒竜は必死で姿勢を戻して、地面に引っ張ろうとする力に抵抗する。
しかし、赤黒いもやが次第に近付いてくる。すると、その赤黒いもやを突き破って、信じがたいほど巨大な化け物が黒竜目指して飛んでくる。これまでの層の化け物と違い、黒竜を認識しているようだった。
腕が6本。下半身はあまりにも大きな胴体に隠されて見えない。顔らしき部位には、大きな口だけがあり、鋭い牙が数え切れないほど並んでいる。遥か下方にいるはずなのに、すでに視界の半分近くを埋めるぐらいの巨大さだ。
黒竜は必死にあらがうが、地面に引かれる力には敵わない。
すると、白い輝きが天井方向から飛翔し、黒竜を追い抜いていき、黒竜の真下で静止する。
白竜だ。
しかし、以前白竜山で見た時よりも、ずいぶん体が大きい気がする。
黒竜は、白竜をその目で捉えた瞬間、白竜が更に巨大になる。いや、黒竜が小さくなったのだ。
白竜の羽毛を掴む、小さな少女の手が見えた。人型になったのだ。その瞬間、これまで黒竜を引っ張っていた力が消え失せた。
次に、白竜が赤黒い空に向けて、凄まじい閃光を放つ。
一瞬だったが、この地獄第六層の赤黒いモヤの表面を、視界の届く範囲全て白く染め上げるほど強烈な光だった。
迫って来た超巨大な化け物も、白い光に一瞬たじろぐ様子を見せた。
少女が握る白竜の羽毛が、気のせいでは無いレベルで小さくなった。そのせいで、白竜にも掛かっていた、地面に引き寄せる力が弱くなる。
その瞬間に、白竜が凄まじい勢いで、天井に向かって突っ込んでいく。
そして、黒竜が突入した時よりも速い速度で地獄を上昇し、各階層を突き抜けて、地上の上空まで戻って来た。
これが黒竜と白竜が実際に見てきたと言う地獄の世界の姿だったのか・・・・・・。それにしても、第六層であれほどの化け物がいるのだから、最下層の第七層はどうなっているというのだろうか?
それと、白竜はもともと、黒竜ほどでは無いが大きな竜だった様だが、地獄からの脱出の際に小さくなってしまったのだろう。黒竜を助ける為に、己の力をかなり失ったと見える。
これは一体いつの出来事なのだろうか?遥か昔、今の文明より前の事なのだろう。
映像はそれで終わりでは無かった。
次に見えたのは巨大な窓だ。随分と高い所にある窓の様だが、鎧戸が取り付けられていて、厳重な警備がされているのがわかる。それにしても、この壁、見たことがある気がする。
黒竜は、今はツバメに姿を変えているらしい。しかし、このツバメは炎を吹き出す。
極小の炎の槍で、鎧戸に自分が通れるくらいの穴を開けると、ツバメの黒竜は難なく室内に侵入を果たす。
光を一切通さない暗い部屋に、黒竜が開けた小さな穴から、唯一の光が部屋に差し込んだ。
黒竜が見たのは、真っ暗な室内で、黒竜が開けた穴から差し込む光に照らされた、輝く黄金色の波打つ髪の毛だけだった。
それが何だったのか、俺にも認識できないが、その黄金の輝きを目にしたとたん、黒竜は必死で、無我夢中で逃げ出した。
穴を通り、空に飛び出すと、メチャクチャな飛び方で一瞬でも速く、あの建物から、黄金の輝きから遠ざかりたい様子が伝わった。
そして、俺が、めまぐるしく揺れ動く視界で捉えた地上の町並みは、間違いようも無くグラーダ国王都「メルスィン」であり、あの建物は王城「リル・グラーディア」だった。
そして暗転する。もう何も見えてこない。
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