黒き暴君の島  ギフト 2

「後だな。俺はこれから他の創世竜に会う為に、世界中旅をして回っている。しかも出来るだけ急いだ方が良さそうな感じじゃないか。つまり、俺が仮に黒竜のことを愛していて、この眼の機能が使えたとして、そんなに黒竜に会いにばかり来ていたら、俺は旅が出来ないだろ?」

 俺がそう指摘すると、黒竜はすっかり青ざめて、両手で自分の頭を押さえて大声で叫んだ。

「そうじゃったーーーーーーーーー!!!」

 しかも、叫んでのけ反った為、そのまま後ろに倒れて、頭頂部を床に強かに打ち付けてしまった。

「グオォ~~・・・・・・」

 黒竜は、ぶつけた頭を押さえて床を転がる。

「コ、コッコ!?大丈夫か?!」

 俺はあわてて黒竜を抱え起こして、ぶつけた所を確認する。プックリと大きなタンコブが出来ている。

「おいおい。創世竜って人型だと、こんなに脆くて弱いのか?」

 俺は愕然とするし、少し恐ろしくなる。

 黒竜は人型でいる時は、俺を叩いても力は弱く、見た目通り幼児並みだ。その上、この程度の衝撃でケガをする。

「平気じゃ!」

 黒竜は涙目になりながらも強がる。

「で、でも、コブが出来ているぞ」

 頭のコブをさすってやると、黒竜が俺の手を払いのける。

「本当に平気じゃ!このコブも涙も、痛がるのも、言わば演出に過ぎん!!本当はこのくらいは全く何でもないわ!!」

 強がっているようにしか見えない。もし、黒竜が人型でいる時に幼児並の強さなのだとしたら、誰でも創世竜を殺せることになる。俺はそれがたまらなく恐ろしい。

 黒竜はコッコで、もう俺にとって大切な存在だ。その黒竜が、こんな危険な所にいて、もし人型の時に何かあったらと思うと、それだけで冷や汗が伝う。


「あなどってはいけませんよ、カシム」

 その声に振り返ると、白竜が立っていた。

「人型でいる時、私たちは力は弱く、空も飛べません。転べば怪我をするし、切れば血が出て、容易く切断出来るでしょう」

 白竜が淡々と語る。

「しかし、私たちは創世竜です。真実、私たちをその程度の事で傷付ける事など出来ません」

 白竜の目が青く光るや、蒼い炎が白竜の全身を包む。

 凄まじい存在感だ。圧倒的な力を感じる。俺の膝が震える。

「まあ、私たちは人型でも、闘神王の100人や200人は軽くひねり潰せるでしょう」

 きっと白竜の言う通りだろう。

 なぜ痛がったり傷つくような演出をする必要があるのかは不明だが、創世竜はきっとどんな姿をしていても、本質的な力は全く変わらないのだ。


「言ったろう?平気じゃと。じゃが、せっかくじゃから慰めてくれてもよいぞ!」

 黒竜は何を言っているんだ?コッコだと思えば可愛いが。

「ところで、何を騒いでいたのですか?」


 白竜がそう言った時、俺の体に異変が起きた。急に体中の血が沸騰したように感じた。

「ひ、秘密じゃ!」

 黒竜がとっさに、白竜にそう言ってとぼけるのを聞いたが、俺は地面に倒れてしまう。頭が抉られるように痛む。

「ぐああああああああああああ~~~~~~~!!!」

 あの地獄教の危険な弓矢使いヴァジャが、俺に掛けた呪いの時の様な激しい苦痛が俺を襲う。苦痛のあまり、地面をのたうち回る。

「カ、カシム!?どうしたのじゃ?!」

「何事ですか?!」

 黒竜と白竜の慌てる声が聞こえる。だが、俺は痛みのあまり、目をギュッと閉じて歯を食いしばる事しか出来ない。

「この感じ・・・・・・。黒竜。あなたまさか、ドラゴンドロップをそのままカシムの体内に入れましたね?」

「め、眼じゃ!眼の替わりにしてやろうとしただけじゃ・・・・・・」

「愚かな事をしましたね。ドラゴンドロップを直接人間の体の中に入れたりしたら、適合障害を起こしてしまう。ドラゴンドロップに適合できなければ、カシムは死にますよ」

「なんじゃと?!そんな事知らんかったんじゃ!!ど、どうしよう?カシムは大丈夫か?!」

「わかりません。人間がドラゴンドロップに適合出来る可能性はとても低いのです・・・・・・。ちょっと困りましたね」

「ちょっとではない!とても困る!白竜、頼む。カシムを助けてくれ!!」

「私はあなたほどカシムにこだわっていませんから、困るのはちょっとです。それに、こうなったら今更ドラゴンドロップを取り出しても手遅れです。カシムが適合出来るように願う事ぐらいしか出来ませんよ」

「そんなぁ~~~。カシム、すまん!がんばってくれ!死なんでくれ、お兄ちゃん!!」


 そこで俺の意識は途絶えた気がする。

 と、言うのも、俺の視界が暗転して、痛みが感じられなくなると同時に、俺の目に様々な光景が映し出され始めたからだ。

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