黒き暴君の島 誓約 3
「そのワシが、その程度のお願いを聞けないとでも思っているのか!!」
ええ?そっちか?俺はてっきり怒られるのかと思って首を縮めてしまった。
「よかろう!!カシムよ!おぬしが生きている限り、ワシは宝を奪ったりせんと誓おう!!ただし、それは、ドランからの年貢が正当に支払われている限りの話じゃ!!」
「おや。『誓約』とは大きく出ましたね」
白竜が面白がって言う。
「『誓約』じゃ!!困った兄の願いを聞けなくて、何が妹か!!」
黒竜の目がぐるぐる回っている。顔も真っ赤だ。もしかして混乱して訳がわからなくなってるのか?
「ちょっと待ってくれ。そんなに急いで決めなくて良い。黒竜にとっては大切な事なんだろう?」
逆に俺が、黒竜を抑えようとする発言をする。黒竜をだましたり利用したりするつもりは無い。ちゃんと納得して決めて欲しい。
「構わぬ!!それに宝はもう十分すぎるほど持っておるわい!!」
それならそれでもいいが、問題もある。
「それならありがたいんだけど、俺が生きている間ってのはやめてほしい」
「何故じゃ?」
「俺は、創世竜に会いに行く任務があるだろう?今回だって死んだかと思ったくらいだ。次にも死んじゃうかも知れないだろ?」
俺が言うと、黒竜が眉尻を下げて俺を見る。俺に突き立てた指からしおしおと力が抜けていき、腕ごとだらんと垂れ下がる。
「・・・・・・それは嫌じゃのう。じゃが、確かにその可能性もあるな・・・・・・」
黒竜はウンウン唸る。
そして、何かを思いつき、また力を取り戻して、腕を振り上げて、再び俺に指を突き立てた。
「ではこうしよう!ワシは、おぬしとおぬしの仲間が生きている間は、略奪行為をやめる事を誓約しよう!!無論、仲間とは、ワシが世話になったあの3人だけの事じゃ!!」
ええ?!いや、それはまずいって!!
「いや!コッコ!それはやめた方がいい!!というか、決める前にちゃんと考えよう!!」
俺は、全力で黒竜を説得しに掛かろうとした。だが、その前に、白竜が挑発的な発言をしてしまう。
「おや、勇ましい。そんな誓約は私でも絶対に出来ないというのに・・・・・・。取り消すなら今ですよ。誓約には強制力はありませんが、なんと言いますか、もし破ったら相当恥ずかしいですよ。私なら絶対にそんな誓約は出来ません」
言葉では黒竜に再考を促しているが、表情や仕草、口調が、完全に黒竜を挑発している。
「取り消したりせん!」
「いや!コッコ、取り消すんだ!俺の仲間にはな・・・・・・」
俺がほとんど悲鳴の様に叫びながら、黒竜の指を握る。
しかし、黒竜は俺の手を振りほどいて、腰に手を当てて、ひくついた笑顔を白竜に向けて、小さな胸を突き出すと宣言する。
「ワシは、そこの小さな竜と違い、大きな心を持つ竜じゃ!!その程度の誓約で怖じ気づいたりせんし、後悔もせん!ワシは黒竜の名で立派に誓約してみせる!カシムとその3人の仲間が生きている内は、ワシは不当な略奪をせんとここに誓約する!!証人は白竜じゃ!!」
勝ち誇った様子の黒竜に、白竜がだめ押しをする。だが、この確認はとても重要だ。
「お見事です。見直しましたよ、黒竜。ところで、その誓約が不利になったからと言って、よもや、カシムやその仲間を殺したりしないでしょうね?」
「当たり前じゃ!そんな事したら、誓約をただ破るよりも恥ずかしいわい!!」
黒竜の言葉に、白竜が微笑む。
「その認識が私と同じで安心しました。・・・・・・ところで黒竜。カシムの3人の仲間の内、1人は確か・・・・・・ハイエルフでしたね?」
「あ」
黒竜の顔色が、見る見る青くなっていく。俺も頭を押さえる。
「だからやめろって言ったんだよ、コッコォ~~~。俺がコッコを騙してるみたいになっちゃったじゃないか・・・・・・」
ハイエルフの寿命は無いも同然だ。となると、ミルに何も無ければ、黒竜は永遠に略奪を禁じられた事になる。
「そ、そ、そ、そ、そんな事は、き、き、き、気付いておったわい。じゃ、じゃからカシムは、なにも気に病む事は・・・・・・ない」
黒竜が、かろうじて聞き取れるようなか細い声を出して、力なく笑った。
「コッコォ。なんかごめん」
机の上から黒竜を抱え下ろして、俺は膝の上にのせて頭をなでる。
「よいよい。・・・・・・で、もう一つのお願いとは何じゃ?」
力無い声で黒竜が俺に尋ねる。
「ああ。もう一つは難しい事じゃないと思うんだけど、一度ドランにコッコとして戻って欲しい」
「それは何でじゃ?」
「コッコを預かってくれたミチルさんが、心配していると思う」
俺がそう言うと、コッコはそっぽを向く。
「それは知らんと言ったろうが」
「そうだけど、コッコの事をどう説明すればいいのかわからないんだ。仲間にはコッコが黒竜だったと話せば、いなくなっても納得する。でもミチルさんは多分、ギルドの職員や冒険者を使ってでも、コッコを探し続けるに違いない。俺が探さなくて良いと言ったとしてもだ。少なくとも、俺がミチルさんの立場だったらそうするし、コッコの事を心配して心を痛め続けるだろう」
俺がそう言うと、黒竜が「むうう」と唸る。
「だけど、コッコが一度ドランに戻ってくれれば、ちょっといなくなってただけで済んで、俺も黒竜の話を持ち出さなくても済む。それで、俺と一緒にグラーダに行くフリだけしてくれれば良い」
「でも、面倒じゃ・・・・・・。それに、ワシが黒竜の姿で行くと、街は大騒動になるじゃろ?さっきも街で黒竜に変身したら、至る所で人間どもが騒ぎを起こしておった」
それを聞いて俺はビックリした。
「街で黒竜の姿になったのか?!」
それは街中、大パニックになった事だろう。大惨事じゃないか。その上でコッコがいなくなったなら、ミチルさんの心配は俺の想像を軽く超えてくる。
「大丈夫じゃ!誰にも見られておらん」
コッコが少し元気を取り戻して自慢げに言うので、それについて何かを言う気が失せてしまう。
「じゃあ、近くまで竜の姿で・・・・・・って、それでも黒竜は大きいから確実に見つかって、また街がパニックになるなぁ」
「じゃから、面倒なのじゃ」
すると、白竜が「やれやれ」と言い、続ける。
「それでは私が一肌脱ぎましょう。私は白ワシに変身出来ます。その姿なら人目を引かず、人型の黒竜を運ぶ事が出来ます」
何と、と言うか、多少は想像していたけど、創世竜は人型の他にも変身出来たのか。俺が驚いていると、黒竜がムキになって怒鳴る。
「いらんわい!ワシじゃって鳥にぐらい変身出来るわ!!」
「あら、何に変身出来るのですか?」
「つばめじゃ!早いぞ!」
黒竜は胸を張るが、俺も、多分白竜も同じ感想を持っただろう。
『また小さいものに・・・・・・』
「・・・・・・じゃあ、それで頼めるかい?」
俺が言うと、黒竜が首を振る。
「いや。ワシだけお願いを聞くのは不公平じゃな。ワシからのお願いも聞いて貰おう」
当然だ。
「俺に出来る事なら」
「ふむ。良い心掛けじゃ。では、戻ったら一緒に服を買いに行こう。それと、また風呂に入るのじゃ」
「コッコォ~~~~!!」
俺はたまらず黒竜、いやコッコを抱きしめた。
「ああ。そう来ましたか・・・・・・」
白竜は冷めた目で俺たちを見る。
「やはり私が間違いで、黒竜が正しかったようですね。黒竜にも謝りましょう」
「?」
俺と黒竜が、白竜を見て首を傾げる。
「カシムは小さい子が好きだという事です」
「そうじゃろっ!!!」
「違うっっ!!!!」
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