黒き暴君の島  〇っぱい会議 1

 風呂は多分こっちだと見当を付けて、リビングに入る手前のドアを開く。すると思った通り風呂場があった。

 それにしても、この館の作りは一体どうなっているのか?普通にトイレも風呂もキッチンもあるし、水道が通っている。

 明かりもランプではなく、天井全体が、自然と明るくなる。

 他の部屋も同じような作りなのだろうか?

 脱衣所から浴室はガラス張りだが、湯気でガラスが曇っているので、すでに湯船にはお湯が張られているのだろう。

「こんな事していていいのかな・・・・・・」

 何だか狐につままれたような心持ちで、俺は服を脱いで浴室へのガラス戸を開ける。

「広いな・・・・・・」

 洗い場こそ一つだが、浴槽は大人が5人は足を伸ばしてくつろげるほどの広さがある。それと、ガラス戸を開けるまでは気付かなかったが、わずかに硫黄の匂いがする。

「これは・・・・・・」

「温泉じゃ!」

「そうだ。温泉だ・・・・・・って?!」

 背後からの声に俺は驚いて振り返ると、当然のように黒竜が俺の後に付いてきていた。そういえばいたような気がする。

「な、なんでコッコが?!」

 俺が慌てると、黒竜は裸で湯船に飛び込む。

「ワシも入るからじゃ!!」

 いやいやいや。そりゃ無いだろ?!

「ダメだろう」

 俺がそう言うと、黒竜がジロリと俺を睨む。

「ここはワシの館じゃ!」

 うっ・・・・・・。その通りだ。

「それに昨日も一緒に入ったでは無いか?!何の不満がある?」

 それも、その通りだ。不満は無い。

 だけど、コッコが黒竜だとなると、ちょっと複雑な気持ちだ。

「はあ~~~」

 俺はため息をつくと、洗い場に向かい、頭からお湯をかぶる。ご丁寧に石けんまで用意されている。

 本当にこの館はどうなっているんだ?誰が維持してるというのか?謎だらけだが、今は考える余裕など無い。すでに頭も心もボロボロだ。

「早よ来い!」

 黒竜は、何故か嬉しそうに湯船から身を乗り出して俺を呼ぶ。仕方ないので、ささっと体を洗って湯船に身を沈めると、当たり前のように黒竜は俺の膝の上に座る。コッコがそうしていた様に・・・・・・。


「なあ。コッコはやっぱり黒竜なんだよな?」

 俺は膝の上の黒竜に尋ねる。何だか色々信じられない。

「そうじゃ」

 黒竜はあっさり認める。

「でも黒竜はあんなに大きいじゃないか。それがどうしてこんな小さくなれるんだ?」

 まず、当たり前の疑問を、ようやく俺は口にする。

 すると、黒竜は頭をのけ反らせて俺の顔を見上げる。

「ワシらに質量など関係ないのじゃ。決まった形はあれど、それに質量や体積などと言った、おぬしらの世界の法則は関係ない」

 黒竜の答えは、俺には理解しきれない。ただ、そう言う物だと思う事にする。それに重さが関係ないからこそ、あれほどの巨体が空に浮遊したりすることも、存在することも出来るのだろう。それで言うと、この建築物も、俺たちの世界の常識は無視して作られていると考えられる。

「それとな」

 黒竜が真剣な表情で俺に言う。

「ワシら創世竜が人の姿になれると言うことは、決して誰にも言ってはいかんぞ。言えばすぐにワシらにはわかる」

 俺は無言で頷いた。そもそも話したところで信じてはもらえないだろう。

「例えワシが許しても、他の創世竜はお前を許さんじゃろうし、知った可能性のある者のいる国ごと滅ぼすに違いない」

「そ、そんなに大事おおごとなのか?」

 俺はつばを飲み込む。

「それはそうじゃ。こっそり人里に遊びに行きたがる奴もいるのじゃ。バレたら面白くないではないか」

 だから理由っ!!!

 スフィアでの玉遊びと言い、創世竜の価値基準が人間とズレすぎている。


「ジーンでさえ知らないのじゃ」

 黒竜の言葉に思わずうなる。

「ええ?!じゃあ何で俺には?」

すると、俺の膝の上の黒竜が、急に立ち上がり俺の方を向き、お湯で暖まった小さな手で俺の頬を挟み込む。

「ワシがおぬしを竜騎士として認めたからじゃろうが!!」

「!!???」

 俺は言葉も出ない。竜騎士として黒竜が認めてくれたのは嬉しい。しかし、何で今ここで、こんなシュチュエーションで宣言するんだ?!

 白竜の時のような荘厳な雰囲気とか、演出とかないのか?!

 後日、俺の話が吟遊詩人とかに伝えられる時に、こんな状況を再現されたりするのだろうか?

 裸で温泉につかりながら、同じく裸の幼女姿の黒竜に竜騎士と認められましたって・・・・・・。

 いや、「幼女」の部分は秘密だとして・・・・・・いや、だとするともっと意味がわからなくなる。

 俺が温泉でくつろいでいて、いきなり全長250メートルの黒竜が現れて「おぬしは竜騎士じゃ」って話になるのか?なんだそりゃ?!


「なんじゃ?なんでそんなイヤそうな顔をしておる?嬉しくないのか?」

 黒竜が不満げな表情をする。

「う、嬉しいです・・・・・・」

 渋々俺が言うと、黒竜は八重歯が光る笑顔で頷く。

「そうじゃろ!!」

 白竜。話が進まないようで、いきなり話が進んだぞ。

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