黒き暴君の島  創世竜の秘密 3

「どうやら、黒竜には気に入られたようですね」

 美しい女性の姿の白竜が、微笑を浮かべる。

「白竜が黒竜に話をしてくれていたのか?」

 俺は思った事を素直に尋ねる。「暴君」とまで呼ばれる黒竜が、俺を快く思ってくれる理由が、それなら納得できる。

 しかし、白竜は首を振る。

「まさか。そもそも黒竜は、私が言った程度では話を聞きません」

 そうなのか?俺は隣に座る黒竜を見る。すると黒竜は口をへの字に曲げる。

「当たり前じゃ!!ワシは単純におぬしが気に入ったまでの事じゃ!白竜からは何も聞いとらん!!」

「それはまた何でだい?」

 ついコッコに話しかけるような口調になってしまう。

「最初はおぬしがジーンかと思ったので驚いてしまった。だが、腹も立っておった。あやつは『竜の友』と呼んでやったというのに、結局一度も会いにも来ぬ。白竜の方もそんな感じじゃろう?」

 黒竜が白竜に視線を投げかけると、白竜も渋面を作り頷いた。

「全く、ジーン・ペンダートンは情の無いことです」

 そう言っても、俺だってもう一度白竜の棲み家に「来い」と言われたが、本当に行くかはわからない。行くだけで命がけ過ぎる。こうして白竜の方が来てくれたから再会出来たに過ぎない気がする。

 黒竜の棲み家に向かうのだって、きっと同じくらいの危険があるだろう。いや、野獣の多さから言えば、黒竜の棲み家の方が、実は危険なのでは無いかと思う。

 俺は黒竜に運ばれたからわからないが・・・・・・。


「じゃろう。じゃが、こやつがジーンでは無く、その孫だと聞いたからどうした事かと思ったが、なるほど、確かにそのくらいの時は経っておったと気がついたのじゃ」

 さすがは創世竜だ。時間感覚が違う。

「そのままなんとなく殺しそびれていたら、こやつらが風呂に入れるわ、食い物を食わせるわ、服を着せるわ、ワシで好き放題しおってのう・・・・・・」

 黒竜が不満そうに鼻を鳴らす。

「あれ?そういえばあのドレスは?」

 俺がふとそう言うと、黒竜はとたんに顔が真っ赤になる。

「・・・・・・・あ、あれはな・・・・・・」

「破いたのかい?」

 コッコから黒竜に変身(?)したら、あんな小さな服は破れて当然だ。

「や、やぶいてなどおらん!!ちゃんと持ってきておるわい!!・・・・・・あっ」

 そう叫ぶと、黒竜は更に真っ赤になる。

 俺は黒竜に微笑みかける。

「なんだ。ちゃんと気に入ってたんじゃないか。よかった。あれは本当に似合ってたしな」

「おぬし!!おぬしのそういう所じゃぞ!!おぬしの仲間の言う通りじゃ!!」

 黒竜が逆上して俺をポカポカ叩くが、全く痛くない。

「なんだよ、コッコ。持って来てるなら着れば良いのに。髪も結んでやるよ」

 今の裸同然の姿は、怪我しやすそうで、どうも不安な気持ちにさせる。裸足なのも危険に思える。

 が、見た目はコッコでも黒竜なんだから危険などないのだろう。俺の気持ちの問題か・・・・・・。

「・・・・・・白竜がいるからそれは無しじゃ・・・・・・」

 おや?黒竜は照れているのか?創世竜にもそんな感情があるのか?

「そういえば、コッコ」

「黒竜じゃ!!」

「ええ~~~。さっきはコッコで良いって・・・・・・」

「後でなら良い!!」

「・・・・・・じゃあ、黒竜。俺の仲間はどうなった?」

 一番の気掛かりだ。混乱から冷めると、仲間の安否が気に掛かる。

「さあのう・・・・・・。本当は4人とも連れてくるつもりじゃったが、おぬしが邪魔したからのう」

 そうか・・・・・・・。俺は仲間を守ったつもりだったが、最初から危険は無かったのか・・・・・・。

「じゃあ、きっとあいつらはここを目指すはずだ。あいつらは俺の事を簡単にあきらめるような奴らじゃ無い」

「信じているのですね?」

 白竜が言う。俺は静かに頷く。白竜の目も、俺と同じように、俺の仲間がここに向かうと信じている目だ。白竜は一度、俺の仲間たちの決意を見ている。

「安心せい。あやつらにはワシの匂いをしっかり付けてある。どんな野獣も竜も、あやつらには近寄らんだろう」

 そういえばコッコといる間は、野獣に襲われることは無かった。

「匂いか・・・・・・。そういえば黒竜の口の中にいた時、さわやかな香りがしたなぁ・・・・・・」

 思わずぼそりとつぶやくと、隣で黒竜がビクッと震える。

 見ると、また真っ赤になってモジモジしている。なんだ?そういえば、最近嗅いだことがある匂いだったが・・・・・・。

 黒竜が誤魔化すかの様に、鳴らない口笛を吹く。すると、あの香りがした。

「ああ!!思い出した!!オレンジの香りだ!!」

「ひゃああ」

 黒竜が叫ぶ。

「そういえばコッコ。前日から、やたらとオレンジジュースを飲んでいたな?今朝もオレンジばかり食べていたし・・・・・・。そうか。だからオレンジの香りがしたんだ」

 俺は納得して頷く。すると、隣で黒竜がモジモジと小さな声でつぶやく。

「・・・・・・だって。おぬしを口に入れて運ぶつもりじゃったから・・・・・・」

 んんん?黒竜って、以外と乙女なのか?コッコの顔でそれをやられると、たまらなく可愛くなるのだが・・・・・・。

 俺は無言で黒竜の頭をなでる。


「んっ!!んんっ!!!」

 白竜が咳払いをする。

「そうじゃ!!そもそも何でおぬしがここにおるんじゃ!!!」

 黒竜が急に立ち上がって、白竜に指を突きつけた。

 すると、白竜がお茶をすすりながら、じろりと黒竜をにらみつける。黒竜が一瞬ひるむ。

「そんな感じで、あなたたちだけでは話が進まないからですよ」

 白竜の言葉が凍てつく雰囲気を漂わせている。

「うっ」

 俺と黒竜はグウの音も出ない。

「まあ、いいでしょう。どうせ話が進みそうも無いですし。カシム、あなたも黒竜の唾液まみれです。一度風呂に入ってきなさい。服は私がきれいにしておきます」

 白竜がそう言うが、唾液のほとんどは、もう黒竜の息吹で吹き飛ばされていた。が、肌がベタベタするのは本当だ。

「しかし、風呂って・・・・・・」

 入っている場合じゃ無いだろう。そう言いたかったが、白竜に睨まれる。

「私が不快なのです」

 そう言われれば、もはや是非も無い。俺は怖ず怖ずと立ち上がる。

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