黒き暴君の島 〇っぱい会議 2
「でもさ、コッコ。仲間たちには知らせないわけにはいかないんじゃ無いか?説明できないよ」
俺がそう言うと、黒竜がまた俺の膝に座る。自然と「コッコ」と呼んでいるが、黒竜はもう文句は言わない。
「ああ・・・・・・。そうじゃな」
そしてしばし沈黙。
「まあ、あの3人には話しても良い。と言うか、元々おぬしらは、まとめてここに連れて来る予定だったのじゃ」
そういえばそうだったな。
「ところで、こんな良い風呂がこの館にあるのに、なんで最初は風呂入るのいやがってたんだ?」
ごねるコッコを説得して風呂に入って貰った記憶は実に真新しい。
「・・・・・・いや。面倒くさいからじゃ」
黒竜がそっぽを向く。実に単純で黒竜らしい返事だった。風呂を面倒くさがるのに、この館の作りは、一体どういうことなんだろう。黒竜が考えて作ったのでは無いという事なのか?
「あ!!」
俺は急に思い出した。
「そういえばコッコがここにいるって事は、ドランの街では、お前を預けたミチルさんが、必死でお前を探しているんじゃ無いのか?」
そうだよ。ミチルさんは当然コッコが黒竜だなんて知らないのだから、今頃いなくなったコッコを探しているに違いない。
「さあ。ワシは知らんよ」
黒竜は平然と言い切る。
「おい!それはダメじゃ無いか。ミチルさんはお前を預かった以上、多分相当心配しているぞ!」
俺がそう言うと、ジロリと黒竜が俺を睨み上げる。一瞬ゾクッとする迫力があった。コッコの姿に忘れそうになるが、この俺の膝の上にいる少女は、あの暴君黒竜なのだ。
「なんでダメなのじゃ?!ワシはあの者には何の感情も持っておらん。気にする必要なぞないわ!それを言ったらおぬしの仲間もそうじゃ!ワシが気に入っておるのはおぬしだけじゃ!」
そうだ。創世竜は俺たち人間とは違う。それにしても、仲間たちとは、遊んだり世話して貰ったりしたじゃないか。それなのに、ほとんど目にも入っていなかったと言うのか?
俺は黒竜を見て、少し哀れになった。あまりにも淋しい生き物だ。誰かとのつながりが極端に少なく希薄だ。
長く生きるハイエルフだって仲間や人とのつながりを大切に思うと言うのに・・・・・・・。
「やっぱり俺は、お前を幸せにしてやりたい・・・・・・」
思わず俺は膝の上のコッコを抱きしめる。
「お、おい!!!」
膝の上のコッコがもがく。黒竜だというのに、なんと力の弱いことか・・・・・・。しばらくもがいていたが、観念したのか大人しくなる。
「本当に困ったお兄ちゃんじゃのう・・・・・・」
「んっ!んんっ!!」
咳払いがあり、俺も黒竜も一瞬飛び上がる。
「ひゃああああ!!?」
「こらーーーーー!!!何でお前が来るんじゃ!!!」
咳払いに振り返ると、そこには白竜がすました顔で立っていた。ここは風呂場だ。つまり、白竜も一糸まとわぬ姿だ。
俺は盛大に目を泳がせながらも、見るべき所には目が吸い寄せられてしまうのを止めることが出来なかった。
その正体が創世竜の白竜であることは十分わかっているが、今は美しい女性の姿だ。見た感じ20代前半で見事なプロポーションをしている。
かなり大きな双丘に細くくびれた腰。見てはいけない様な所も包み隠すこと無く堂々と立っている。
頭の角が無い。なんと、あれは飾りだったのか?!
俺は助平さんでは無いと言いたいが、健全な男子だ。見てはいけないと思っても、体は言うことを聞いてくれない。見える左目が目一杯見開かれる。出来れば右目でも見たいと思わざるを得ない。
だが危険だ!俺の膝の上には黒竜が無邪気にも乗っかっているのだ。非常に危険だ!!
俺は必死の努力で白竜から顔を背けようとする。
「私も温泉に入りたいからに決まっています」
しなる様な、たおやかな動きで白竜はお湯を体に掛けてから湯船にその身を滑り込ませる。
「入ってくるな!!!」
黒竜がわめくが、白竜は完全に無視している。この2人・・・・・・というか、二柱はどんな関係性なのだろうか?
「なぜです?」
「非常識じゃろうが!!ワシら2人は兄妹じゃ!!おぬしは他人じゃろうが!!!」
黒竜がわめくが、その内容が創世竜っぽく無い。創世竜が「常識」とか「非常識」とか言ってるけど、あなたたちが一番の非常識だというのに・・・・・・。
「何を言ってるのですか?私たちは創世竜ですよ。人間ではないでしょう。それに、黒竜。あなたがカシムの妹というなら、私はカシムの姉になりますよ」
白竜は澄ました表情のまま黒竜に言う。黒竜は白竜に飛びかからんがばかりの表情でうなっている。話している雰囲気から、そうなのかと感じていたが、この二柱は、もしかして姉妹なのか?
「二人はもしや姉妹?」
俺は疑問をそのままぶつけてみた。すると即座に返答があった。
「そうです」
「違うわい!!」
返答の内容は正反対だった。どっちなんだよ・・・・・・。
黒竜が俺の方を向いて、白竜を指さしながら力説する。
「何でワシが、こんな小さい奴の妹になるんじゃ!?」
白竜は澄ました顔をしている。
「今はあなたの方が小さいですよ」
白竜の言うように、今は白竜はきれいなお姉さんで、黒竜は元気な幼女にしか見えない。
「竜の姿になった時の話じゃ!!誰が好きでこんな小さい姿でいるものか!!」
黒竜が暴れるのでお湯がバチャバチャはねる。
「え?それなら、もっと大人の姿になれば良いじゃないか」
創世竜が他の生き物の姿に変身出来るというなら、何も嫌々小さい体ではなく、自分好みの姿に変身すれば良さそうなものだ。
「できませんよ、そんな事」
白竜がニヤリと不敵に笑う。
「え?」
どうしてだ?創世竜は絶大な力を持っている。質量も体積も関係ないなら、大人の姿にもなれるのではないか?
「・・・・・・・出来んのじゃ。」
悔しそうに黒竜も言う。
「私たち創世竜にも、決まった姿があります。最初に象った姿です。私たちは最初は竜の姿で誕生しました」
白竜が語り始める。
「その内、私たちは人の姿をとりたくなり、人間と契約しました。その契約に従い、人間には命の秘密を教え、そして、人間からは11人の命をいただきました。つまり我々は、その時初めて人を喰ったのです。そして、喰った人間から情報を得て、人間の姿を形作ったのです。竜の姿と同様で、最初に作った形が我々の唯一の姿です」
「って事は、黒竜は最初に、この幼い女の子の姿になったから、それ以後もずっと、人の姿になる時はこのままって訳か・・・・・・。それにしても、何でコッコはこの姿になろうと思ったんだ?」
俺が黒竜を見ると、ものすごく悔しそうな表情をした。
「その時は、小さい方が便利かと思ったのじゃ・・・・・・」
ああ。普段がでかすぎるからか・・・・・・。
「変えられないのか?」
俺がそう言うと、黒竜がブンブン頭を振る。
「とんでもない!!そりゃあ、変えようと思えば変えられるのじゃが、それをやった黄金竜の惨劇を見たら、そんな気は失せるわい」
「どういうことだ?」
俺の疑問を白竜が受ける。
「かつて、黄金竜はそれは美しい竜でした。しかし、人型がほんの少し気に入らなかった様です。たくましい壮年の男性でしたが、もう少し若い姿が良いと考えた様で、無理矢理姿を作り替えてしまったのです。その結果、黄金竜の人型は更に年をとり、容姿も衰えてしまいました。しかも、それは竜の姿にも影響し、醜く変容してしまいました」
「しかも奴は、それで懲りずに、何度も姿を変えようと足掻いたのじゃ」
黒竜が身震いしながら言う。
「その結果、黄金竜は人型でも竜の姿でも、とても醜い姿に成り果ててしまったのです。その為、黄金竜は遥か東の島に引きこもってしまいました」
なるほど。そんな事がかつてあったのか・・・・・・。これは黄金竜に会うのは無理そうだな。
「だからワシも、この姿に甘んじるしかないのじゃ」
黒竜が憮然とした様子で言う。
「そうか。でも俺はコッコがこの姿で良かったと思うよ」
俺がそう言うと、黒竜が八重歯を見せて笑顔になり、「そうじゃろ、そうじゃろ」と言いながら、俺の膝の上に戻って来た。
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