黒き暴君の島  創世竜の秘密 1

 ランプが一つだけ灯った地下室は、暗く、じめじめとして陰気な雰囲気がある。そして、この地下室には血の臭いが染みついていた。

 ここは黒竜島の唯一の街「ドラン」で、地獄教徒が使用する家の地下室だ。祭壇があり、拷問道具もある。これまで多くの人が、ここで拷問の末に殺されていた。

 ドランは鉱山の街ではあるが、酒とギャンブルと、色の街であった為、治安は悪く、食い詰め者も少なくない。この街で姿を消した者がいても、さほど不審に思われない。

 地獄教徒が、人を掠って儀式のため、または快楽の為に殺しても、それが発覚することはまず無い。

 地獄教にも様々な宗派があるが、この建物はジンス派の施設だ。

 今この地下室には3人いた。

 1人は大男で、もう1人は背の小さい男。そして、大男に羽交い締めにされた幼い少女の3人である。


 少女は右目からは血を流し、ぐったりとしている。そして、硬い石の床には少女の眼球が、凶器となったスプーンの横に転がっていた。


 男2人は地獄教信徒で、ジンス派の暗殺者である。2人は、他宗派であるラジェット派から依頼されて、カシム・ペンダートンの追跡をしていた。

 依頼内容は監視だったはずだが、ジンス派は武闘派で、好戦的である。テロや殺人を好む集団なのだ。

 カシムの「監視」だけでは我慢が出来なくなり、自分たちで害する事に決めたようだ。

 しかし、カシムたちは創世竜の領域に入っていく。


 創世竜は地獄教を憎んでいて、何故か信徒が領域に入ると、たちまち察知して殺しに来る。そのため、領域に入ったカシムを追跡することは出来ない。

 そこで、カシムが保護したらしいこの少女を、カシムがいない間に掠い、カシムが領域から帰ってきたら、少女を人質としておびき出し、そこで無抵抗のカシムを、楽していたぶり殺すというのが、この2人の計画だ。


 少女は、カシムが来るまで生きてさえいれば、どんな状態でも構わないのだ。殺さない程度にいたぶるのは彼ら地獄教徒にとっての得意分野であるし、何よりも快楽を伴った行為だった。

 これから、この幼い少女を、どう痛めつけるかが、彼らを興奮させていた。


「服が汚れる」

 少女が目を抉られた後で呟いた言葉に、小男の嗜虐心がくすぐられた。それならば、この大切なドレスを引き裂いてやれば、どんな絶望的な表情を、この少女が見せてくれるだろうか?

 あまりにも幼い少女であるが、構うことはない。犯して耳や指を切断してみるのも良い。針を体中に突き立ててみるのも面白そうだ。

 傷ついたら、死なない程度に治療してやれば良い。これまでの経験で、やり過ぎないように痛めつけることは簡単だ。


 小男が下卑た笑いを口元に浮かべて、少女の服に手を掛けようとした時、男が悲鳴を上げる。

「ぎゃああああああああっっっ!!!」

 男の手首から先が、突然崩れて、たちまち灰になった。

「触るな、汚らわしい」

 右目から血を流し、大男に羽交い締めにされた少女が、不敵に笑う。

「うがああああああああっっっ!!!!」

 少女を羽交い締めにしていた大男も叫ぶ。男の両腕が消えていた。

 男たちは、激しい苦痛と、何が起こったのか理解できない混乱の中、硬い石の床を転げ回る。

「おぬしら地獄教徒の匂いには、吐き気がするわい」

 少女が、転がる小男を蹴り飛ばす。蹴られたことによるダメージは小男には無い。

 しかし、少女の態度の豹変に、唖然として転がりながら少女を見上げる。そして息を飲む。


 少女の周りに、炎の揺らめきが見える。目をえぐり取られた苦痛など、まるで感じさせない。それどころか、抉られたはずの右目を平然と開けると、そこは空洞なはずなのに、まるで何事も無かったかのように、黒い目があった。

「ワシの領域に入らなければ、見逃してやろうかと思っておったのに、そっちからワシに接触してくるとはのう。愚かじゃ」

 少女が可笑しそうに笑う。

「しかも、カシムを殺すじゃと?!それにワシの大切な服を汚そうとしおったな?」

 2人の男は、少女の放つ圧倒的な迫力に、もはや身動きもままならない。

「フフフ。安心せい。ワシはおぬしらと違って、いたぶって楽しむ趣味は無い。・・・・・・ただ焼き尽くしてやるだけじゃ」

 少女が黒い炎を纏った手を、身動きが取れない男2人に近付ける。

「ひ、ひいい」

 男たちは、小さい悲鳴を上げることが精一杯だった。少女の手が触れると、一瞬で全身が灰になる。骨すらも残らない。

 

 地下室は少女だけになる。

「さて。それではそろそろ行くかの」

 少女はそう呟くと、赤いドレスを丁寧に脱いで、髪を結んでいたリボン、靴下、靴、下着をまとめて抱える。

 そして、目の前の何も無い空間に服を差し出すと、空間が歪んで、服一式と少女の手が空間の歪みに飲み込まれる。歪みから手を抜くと、服は姿を消していた。

「あの服は、ワシの宝物じゃ」

 少女は満足そうに言うと、体を一揺すりした。

 すると体が黒い霧に覆われ、みるみる大きく伸びていく。

 真っ黒い霧と化した少女の体は、縦に細く伸びて、地下室の天井を貫通して、家の天井も突き抜けて空に伸び上がると、空中で一気に巨大化した。


 ドランの街の空を覆うばかりの巨体に変化する。


 その姿は創世竜の一柱、黒竜であった。

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