黒き暴君の島 創世竜の秘密 2
黒竜によって、黒竜の館に捕らわれた俺の元に、突然現れたコッコが、俺に信じられないことを言った。
「ワシは黒竜じゃ」
嘘だ!嘘に決まっている!!そんな事あるはずが無い!!
コッコの言葉に、俺は首を振って抵抗した。
「違う!コッコじゃ無い!そうか、黒竜の力で幻を見せているんだな?!これは現実じゃ無い!!」
そうだ。さっきからあまりにも現実離れしたことばかり起きている。
このどうやって作ったのかもわからないほど巨大な建物といい、創世竜の元に突然現れて、黒竜に対して対等に振る舞う白い女の人といい・・・・・・。
極めつけがコッコの登場だ。
黒竜が俺に幻術を掛けて何のメリットがあるのかわからないが、このままではいけない。
何とか正気に戻らなければ。
「何を言っとるんじゃ?幻なんかではない。コッコはワシ、黒竜じゃ」
コッコの姿の黒竜がまだ言う。
「おや?黒竜、あなた『コッコ』なんていう名前があったのですか?」
女性が、手にお茶のセットを乗せたお盆をもったまま、テーブルの横に立つ。
すると、コッコは俺のそばをすり抜けて、ドカッとソファーに座り込む。片足をソファーの上に乗せると、腕を広げて背もたれに乗せる。体が小さいので、かなり無理して手を上げているように見える。
「違うわい!ワシが人型でいる時に、こやつらと出会ってしまってな。名前を尋ねられて、うっかり『黒竜』と言いそうになって言い淀んだら、こやつが勝手に勘違いして、『コッコ』などと呼び出しただけじゃ」
混乱し続けている頭で、俺はコッコとの出会いを思い返した。「君の名前は?」との俺の問いに対して、確かにコッコは「こっ・・・・・・こ」と言い淀んだかのようだった。
「我ら創世竜が、人型をとれる事は秘密じゃからなぁ~。かといってこやつはワシの宝を持っていたから、すぐに殺すのもどうかと思って、しばらく調子を合わせていただけじゃ」
そんな・・・・・・。そんなバカな・・・・・・。俺の目に涙が滲む。
「じゃあ・・・・・・コッコは?」
コッコの姿の黒竜が、少しため息をついて眉をひそめる。
「元々おらんよ。コッコとおぬしが呼んでいたのはワシじゃ」
俺はもう立っている事なんか出来ず、膝から崩れ落ちてしまった。涙が溢れる。たまらなく悲しかった。
「うわあああああああああああああああああ~~~~~」
「な、何じゃ何じゃ?!!」
「おやおや」
俺は人目も気にせず大きな声を上げて泣き叫んだ。
たった1日だったが、俺にとってコッコはもう大切で、心の底から彼女の幸せを願うくらい愛情を感じていた。たった1日だが、本当に妹になってくれたことを喜んでいた。
たった1日なのに、たった1日だったのに・・・・・・なんでこんなに激しい喪失感があるのだろうか?
俺にもわからないが、とにかく悲しくて感情が抑えられない。
「うわああああああああああああああああ~~~~~」
俺は床に突っ伏して、声の限り叫んで泣いた。
「黒竜・・・・・・。ちょっと悪ふざけが過ぎたようですね」
そんな女性の声が聞こえたが、頭には入ってこない。
「・・・・・・いや。人のフリをしたのは悪ふざけのつもりはなかったんじゃ・・・・・・」
コッコの姿をした黒竜が、泣き崩れる俺の側まで来て立つ。そして、俺の頭をポンポン叩く。
「カシム・・・・・・お兄ちゃん。すまんのぉ」
俺は顔を上げて黒竜を見る。黒い大きなつり目が、困ったような表情を浮かべている。
「おぬしらが出掛けるときに『愛してる』と言ったのは悪ふざけじゃったが、その気持ち自体は嘘では無い。おぬしの妹になるのも嬉しかった。じゃが、ワシは創世竜じゃ。おぬしの妹になる事はできんのじゃ」
俺は、黒竜の顔を下から仰ぎ見る。コッコの顔をした黒竜。
俺はまだ混乱の中にあり、深い失意に打ちひしがれていたが、コッコの心は、せめて本物だったのか?
「ワシはな。ジーンも好きじゃったが、カシム、おぬしの方がずっと好きじゃ。じゃから、コッコは嘘でも黒竜のワシはおぬしの妹でよい」
「おやおや、何を言ってるのかわかりませんね」
女性があきれ顔で黒竜を見る。
俺は黒竜の言葉を受け止めつつも、首を振った。
「イヤだ。俺は・・・・・・コッコが良い」
「何じゃと!!??ワシがせっかく言っておるというのに!!」
黒竜が地団駄を踏む。だが、あきらめたような表情を浮かべると、俺の頭を小さな両手で挟むと、苦笑して言う。
「わかったわかった。コッコで良い」
全く何の解決にもなっていないのはわかるが、俺はもうそれにすがるしか無かった。コッコの細すぎる腰にしがみつき、小さなおなかに顔を埋めて静かに泣いた。
「しょうがないお兄ちゃんじゃな・・・・・・」
コッコが俺の頭をポンポンと叩いた。
それから少しして、ようやく俺も落ち着いた。
コッコは黒竜だという現実を、何とか受け入れた。落ち着いてみると、さすがに醜態だったと、恥ずかしい気持ちになる。
黒竜に促されて俺はソファーに座る。テーブルには女性が用意してくれたお茶が湯気を立てている。黒竜は俺の隣に座り、女性が俺の前に座った。
こうなると、さすがにその女性の正体もわかる。
「あなたは白竜ですね?」
すると女性は頷く。
「そうです。それから、前にも言いましたが、敬語は不要です」
俺は頷いた。
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