黒き暴君の島 妹 3
「コッコ。俺はペンダートン家に手紙を書くよ。それと、少しの間この宿で待ってて欲しい」
俺はコッコに言う。
「俺たちは、まず黒竜に会わなければいけない」
コッコが俺が胸からぶら下げた巾着袋をジッと見る。
「宝物を返す為?」
俺は頷く。
「もちろんそうだよ。黒竜もこの宝物を探しているかも知れない。昼間も言った様に、黒竜も困っているかも知れない。だから、早く返してやりたい。でも、他にも理由がある」
「どんな?」
コッコが俺を見つめる。コッコは祖父の話は知っていたようだけど、竜騎士伝説はしっているのだろうか?
「う~~ん。一応、俺は竜騎士になるように命令されているんだよ。だから、黒竜に会って話しをしないといけない事になっている」
俺の表情から、コッコは何かを感じ取ったようだ。
「イヤなの?」
俺は首を傾げる。
「正直言って、竜騎士にはなれると思っていないし、危険すぎる任務に困っている。でも、黒竜に会いたいのは本当だ。黒竜に会って、俺は聞いてみたい事がある」
俺の言葉に、コッコが怪訝そうな表情をする。
「どんな事?」
俺はまた首を傾げる。
白竜の時は、過去の文明について話してもらった。とても面白いし興味は尽きない。もし黒竜に会ったら何を聞こうか?生きて黒竜に会って、話しをする所まで持って行けるかばかりが気がかりで、そこまでは考えていなかった。
「う~~~ん。何だろう?俺は世界がどうなっているのかとか、昔に何があったのかを知りたいだけなんだよな~~」
コッコが更に顔をしかめる。
「なんで?危険なのに?」
何故かって事なら簡単に答えられる。
「ただの好奇心だよ」
笑顔で言う俺に、仲間は苦笑し、コッコは盛大に顔をしかめた。しばらくは、そんなしかめた表情で俺をジッと見つめていたが、やがて、ため息をつくと、ようやくコッコが笑顔になる。
「わかった。待ってる、お兄ちゃん」
俺はコッコをきつく抱きしめた。
妹になるとコッコが決めてから、俺は急にこの子が愛おしく思えて仕方が無い。同情とかでは無く、家族としての愛情に目覚めてきているようだ。声を大にして、俺の妹は可愛いぞと叫びたい。
「偉いぞ、コッコ」
「ん。・・・・・・気を付けてね」
これは何としても生きて帰らないといけない。命を大切にする理由がまた増えた訳だ。
コッコは明日、冒険者ギルドで預かってもらおう。
コッコには俺の手紙を渡す。一週間経っても俺たちが戻らない場合は、商人に頼んで、コッコをペンダートン家まで送り届けてもらえば良い。
もちろん、ギルドに依頼料と、食費、滞在費、交通費も支払っておく必要がある。
だが、そうする事で、待っている間もコッコは快適に暮らせるだろうし、俺たちが戻らなくても、コッコはペンダートン家で手厚く育ててもらえる。
そうした事をコッコに伝えると、理解して了承してくれた。
コッコは本当に賢い子だ。とても物心ついた時から荒れ地で育ってきたとは思えない程だ。もしかしたら逸材なのかも知れない。義理とは言え、妹が逸材なんて、想像するだけでとても誇らしい気持ちになる。
今なら俺の兄たちの気持ちがわかる気がする。
そうと決まれば、行動は急いだ方が良い。
今は20時少し過ぎだ。
冒険者ギルドは17時に閉まるが、夜間でも規模を縮小して25時間体勢で開所している。ギルドへの依頼や冒険者の帰還や用事が夜中になる事も少なくない為である。
俺は急いで身支度をして必要資金を持ってギルドに行く事にした。
準備が出来たので、俺はリラさんに、静かに声を掛ける。
「じゃあ、行ってきます。コッコの事、よろしくお願いします」
するとリラさんは「フフフ」と笑い声を漏らす。
「任せて下さい。カシム君の大切な妹ですものね」
リラさんの言葉に、頬が熱くなるのを感じた。
首を伸ばして部屋のコッコを見ると、ファーンやミルと遊んでいる。宿に置いてあったボードゲームを始めたようだ。コッコとミルが、ファーンにルールを教えてもらっているようだ。
その様子を見て、俺とリラさんとで笑みを交わす。
「いってらっしゃい」
「行ってきます」
俺は急ぎ足で冒険者ギルドに向かう。冒険者ギルドは港の方なので、温泉街からは少し離れている。せせこましい道を北上して行けば港に行き着く。昼間も来たので場所はすぐにわかった。
この島の冒険者ギルドは、支所になっている。
と言うのも、この島は黒竜の島だが、街は本土のカナフカ国に所属している。
ドランは、ほぼ独立した街ではあるが、法律やら、公的な援助は必要だ。特に食料生産は漁業以外は本土に依存している。
その為、このドランにも冒険者ギルドがある訳で、運営費の多くはカナフカ国が出資している。
カナフカ国の王都には冒険者ギルド本部があるので、ドランは支部という事になる。
その支部の建物は、港付近の他の建物よりは大きく立派だが、他の支部に比べると、やや規模が小さい。それでも、この時間でも冒険者ギルドの窓の半分以上に灯りがついている。
「すみません」
俺は開けっ放しの入り口をくぐると、まっすぐに受付に向かい、カウンターの内側にいる、厳つい顔をしたひげ面の男に声を掛ける。
受付のほとんどが元冒険者とか、腕に覚えのある人たちだ。冒険者相手となると、受付でもめる事が多い。換金窓口なんて武装して応対している。
「ギルド職員に依頼したい事があるのですが」
俺が切り出すと、受付の男が一瞬眉をひそめる。
「ギルド職員に?冒険者にじゃないのかい?」
「ええ」
俺が頷いて、コッコの事を説明する。
「デナトリア山付近で、子どもを1人発見したので、保護しました。ギルドには、その子どもを、期限付きで預かって欲しいんです」
それを聞いた受付の男は、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。
「ギルドは託児所じゃねぇんだけどな・・・・・・」
そうは言ったものの、俺の表情から何かを察したようで、一つ頷く。
「まあいい。ギルドへの依頼なんてものは、何か事情があって当たり前だ。相談に乗ってやるからちゃんと訳を話せよ。大体、何でそんな所に子どもがいたのやらって所から頼むぜ」
強面だし、口や態度が悪い受付はギルドでは当たり前だ。だが、話してみればどの人も面倒見が良い。表現の仕方が不器用なだけで、優しく親切な人たちばかりだ。
俺は頷くと男に顔を近づけて、小さな声で伝える。この時間でも、周囲には数人の冒険者や、島民がいる。
「出来れば支部長か副支部長と話がしたい」
男は眉をひそめる。それはそうだ。俺が彼では信用できないと言っているようなものだからだ。
「俺の名前はカシム・ペンダートンです」
そう小声で言って、冒険者証を受付の男に見せる。すると男の顔色が変わる。男が俺に顔を近づけて、ひそひそ声で確認する。
「お、お前が噂のカシム・ペンダートンか?竜騎士の?」
竜騎士にはなっていない。それに昼間のセンス・シアの受付にはバレていたのに、守秘義務で同僚には何も言ってなかったのか。プロだな。アメルの受付ではドワーフの美女が、俺の事を何もかも大声で周囲に喧伝してしまったというのに。
まあ、細かいことは置いておいて、俺はとにかく頷いた。
「わ、わかった。待っててくれ。それにしても光栄だよ」
男が嬉しそうに、でも慌ててカウンターから離れていった。
「光栄」だって?何か勘違いしてないか?俺はまだ何にもしていないというのに・・・・・・。いや、したのか?実感湧かないが、まあ、ただの偶然とは言え、一気に青ランクに上がる様な事はしたらしいからな・・・・・・。
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