黒き暴君の島  妹 2

 全員が満腹になったところで、俺はようやく、コッコに俺からの提案を切り出した。頭をひねって、いろんな事を考えたが、何度考えても同じ結論に達してしまう。

 これがベストかわからないが、コッコには安全に、幸せに、人間らしい生活をさせてあげたい。その為に出来る事が、俺にはあった。


「コッコ。あれから俺なりに考えたんだ。君のこれからの事を」

 俺が切り出すと、全員の視線が俺に向く。

 コッコはキョトンとしているが、コッコのこれからの事で悩んでいたのはリラさんも、ファーンも、そして恐らくミルも同じだったのだろう。とたんに真剣な表情になり耳を傾ける。

「コッコ。もし君がよければ、俺の家、ペンダートン家に来ないか?」

 それが、俺が出来る、コッコへの提案だ。

 コッコはキョトンとして、俺の顔をジッと見る。

「俺の祖母は、家の中に大きな保護施設を作っていて、コッコみたいに親のいない子どもを預かって育てている。祖母なら喜んでコッコを迎えてくれるはずだ」

 コッコが俺の顔をジッと見ている。考えているのだろうか。

 

 祖母は敷地内に、専用の施設を作って100人以上の子どもたちがそこで生活している。

 教育も受けられて、本人の希望があれば学校にも通える。

 成人すると仕事に就けるようにしている。ほとんどの子どもはペンダートン家で働きたがるが、さすがに、毎年希望者全員を働かせる訳にはいかないので、それなりに優秀な人材をペンダートン家で雇う。

 メイドのベアトリスはもちろんだが、ドジッ娘獣人リアも、優秀な人材なのだ。・・・・・・多分。

 更に、王城への働き口も斡旋したりする。そうして、成人後も生活に困らないように援助している。

 その施設を運営している職員も、施設出身の者たちがほとんどで、とてもアットホームな環境だ。

 王都から離れたペンダートン家の領地にも、更に大きな施設がある。そこも同様で、多くの子どもを受け入れている。


「でも、保護施設が嫌なら、そして君さえ良ければ、家の養子になってくれてもいい。つまり、俺の妹になってほしいと俺は願っている」

俺の祖母に話せば、父の養子として引き取る事も、絶対に認めてくれるはずだ。少なくとも、俺がそうしたいと言えば、ペンダートン家は快く承知する。


 俺の提案に、仲間たちが驚きの表情を浮かべる。

「・・・・・・な~~~るほど。それは最善の手かも知れないな」

 ファーンがうなる。リラさんも頷く。ミルはコッコを羨ましそうに見る。

「ああ。ダメダメ。兄妹になったら結婚できないや」

 などとブツブツ言っている。

 当のコッコは、顔をしかめて俺の顔を、相変わらずジッと見つめる。そして、ぽつりと言う。

「なんで、そこまで?」

 何故と聞かれると、誤魔化す事は出来ない。

「俺は君を放って置く事が出来ない。君と知り合ったからだ。あの荒れ地で、君を発見して保護したからだ。君のような境遇の子どもは、この世に沢山いる。その全部を救いたくても、そんな事はとうてい出来ない。それはわかってる。でも、少なくとも、俺が助けられるかも知れない数少ない人には、手を差し伸べたい。これは偽善じみているし完全に俺の我が儘だ。自己満足でしかないのかもしれない」

 コッコは無言で俺を見つめ続ける。

「でも、君とは出会った。関わった。助けるって約束もした。ペンダートン家に来る事で、本当にコッコが幸せなのかはわからない。でも幸せになって欲しいと俺は願っている。助けられる者、助けられない者がいる中でこうして出会った事は縁なんだと思っている」

「・・・・・・縁?」

 コッコが呟く。

「縁だ。出来れば良い縁にしたい。君を大事にしたいと、俺が願っているんだ。そんな君を、あの荒れ地に帰す事なんか、俺には出来ないんだ・・・・・・。あそこに帰るなんて言わないで欲しい」

 俺が言い切ると、ファーンが俺の肩に手を置く。

「カシムらしい言い方だと思うし、オレも大賛成だ。でもな、ちょっとコッコにはわかりにくい言い方なんじゃ無いか?」

 ファーンに言われてハッとなる。熱くなりすぎていたようだ。こんな小さい子に使うべき言葉では無かった。

「そ、そうだな・・・・・・。え~~~とだね・・・・・・」

 とは言え、一度言ってしまった事を、子どもがわかるように言い直そうとしたところで、当の自分が何を話したのかわからなくなってしまった。俺が何を言うべきか、言葉を探していたら、コッコが首を振った。

「わかったから大丈夫」

「お。頭良いな、コッコは」

 ファーンが感心する。俺も感心する。たいした子だ。

「そうか。良かった。じゃあ、すぐ決めなくても良いから、ゆっくり考えて欲しい」

 俺がそう言ったが、コッコはすぐに首を振る。

「いや。決まった。カシムの妹になる」

 そう言うと、俺にしがみついてくる。俺も思わずコッコを抱きしめた。ホッとしたし、コッコが愛おしく思える。この子が大人になったら、また自分で道を選べば良いし、ペンダートン家も、俺個人も、しっかり援助するつもりだ。コッコの幸せの為に出来る事はしてやりたい。

 仲間たちも俺と一緒になってコッコを抱きしめる。

「良かったわね、コッコちゃん」

「良く言った、コッコ」

「あたしがお義姉ねえちゃんだからね、コッコちゃん」

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